20141002の戯言

「倫理資料集 ソフィエ」まとめ1(源流思想1 ソクラテス/プラトン/アリストテレス)

清水書院から出ている「倫理資料集 ソフィエ〜智を学び夢を育む〜」をテキストに、必要に応じて必要な個所をまとめて知識の整理をしようという試み。現代思想の授業でアリストテレスの「形而上学」を取り扱っているので、今回は古代ギリシア哲学の概観をざっくりと見ていきたい。

古代ギリシア哲学の特徴

  • 神話の世界

BC8C頃からギリシアから小アジアにかけて多くの都市国家が誕生した。そこに住まう古代ギリシア人は人間と自然についての様々な事象や事柄を神々の意志と捉え、伝説や神話を通じて神界と人間界を一元的構造とした世界観を有していた。

  • 自然哲学の誕生と真理の探究

BC6C頃、イオニアタレスによって自然や宇宙の成立、事物の根源を探求する自然哲学が生まれた。タレスが発した「万物の根源は何か?」という問いによって神話的思考は理性的思考へと転換することになる。
ソクラテスプラトンが登場する時代、アテネペロポネソス戦争(BC431-404年)でスパルタに敗れ、民主政治は衆愚政治へと堕落していった。その結果、人々の道徳性や個人の尊厳は失われ、精神的な危機的状況に陥ることとなる。

ソクラテス(BC470?-399)

ソクラテスは「青年を腐敗させ」、「国家の認める神々ではなく、新しい神(ダイモーン)を信じた」という2つの罪によって告訴された。背景にはアテネの民主政治を巡る政治的抗争が絡んでいる。妥協を知らないソクラテスは死刑判決を受け入れ、友人や弟子たちの逃亡も拒否し、自ら毒杯を煽った。一連の行為は、不正を犯さないこと(=正義)への内面的な強い確信とポリスに対する強い使命感の体現であった。

予言の神であるアポロン神の「ソクラテスより知恵のあるものは誰もいない」という神託はソクラテスによって理解しがたい物であった。なぜならば、ソクラテスは自分に知恵があるとは考えたことがなかったからである。しかし、神託をないがしろにすることは神を疑うことにつながり、ソクラテスは神託と自分の考えの齟齬に強く葛藤することになる。

  • 無知の智

ソクラテスだけが知者である」という神託に疑問をもつ理由は、「自身には知恵がない」という自覚に基づく。しかし、神が嘘をつくということは考えられない。神の言葉の本意を捉えるべく、ソクラテスは知恵者(ソフィスト)たちとの問答を通じ、「知らないことをそのとおり知らないと思っている」ことの分だけ、自分に知恵があると解釈するに至った。

  • 善く生きること

死後判決後の獄中において、ソクラテスは友人のクリトンから脱獄を勧められるが、それに応じることはなかった。ソクラテスを裁いたのはアテネの国法であり、それを蔑ろにすることは国を蔑ろにすることに匹敵すると考えたからであった。裁判の判決が不正であっても、その不正に対して、脱獄という不正を上塗りすることは「善く生きること」とかけ離れてしまうからであった。

  • 魂への配慮

魂は肉体の死後も続くものであり、魂をよりよくすることは生きている時だけの問題ではない。ここで取り扱われる「死」や「魂」の問題は、その後の哲学の展開に大きな影響を与えることとなった。

プラトン(BC427-BC347)

事物の理想的な形や本源を示す真実在をイデアと呼んだ。現実世界は生滅する感覚の世界であり、これに対して感覚を超越する不滅の世界があるとし、前者を現象界、後者をイデア界と呼んだ。人間は理性を働かせることで現象界の不完全な事物を通じてイデア界を見ることができる。とりわけ、善のイデアイデアにおける最高位のイデアと見なした。

人間の魂はもともと完全なイデアの世界に住み、そこでイデアを見ていた。しかし、現実の世界は不完全でイデア界の影のような世界(洞窟の比喩)である。それゆえ、人間の魂は完全なイデアの世界に憧れ、これを想起しようとする。

  • エロース

美善なるイデアを求めるエロースにより、人間はよく生き、正しく生きようとする。

「理性」「気概」「欲望」にそれぞれ対応する徳として「知恵」「勇気」「節制」が存在し、これら3つが調和した時に「正義」の徳が現れるとした。これら4つが魂における基本的な徳である。
市民が正しく生きるためには国家において正義が実現されてなければならず、国家は「統治者」「防衛者」「生産者」の3階級がそれぞれの分業を正しく行うことで秩序ある正しい国家となり、正義と幸福が実現すると考えた。

ポリスの腐敗政治に失望したプラトンは、理想国家の在り方として善のイデアを認識できる哲人が統治者となる政治を主張した。理想国家は「哲学者が政治家になるか、支配者が理性を働かせて哲学を学ぶか」のいずれかによってのみ実現しない。

アリストテレス(BC384-BC322)

アリストテレスは観念論(イデア論)を唱えるプラトンとは反対に、現実主義の立場をとった。ソクラテスが普遍的なものを追い求める中、感覚的事物が存在する世界=現実世界は常に変化するため定義不可能であることから、プラトンイデア界という別種の世界を設定したとアリストテレスは解釈している。

  • 形相と質料

事物は概念である形相(エイドス)と素材である質料(ヒューレー)からなる。形相はプラトンイデアに相当するが、現実世界から分離しているイデアと異なり形相はあくまでも現実世界の個物に内在していると考えた。

  • 習性的徳

アリストテレスは徳(アテレー)を理性に基づく「知性的徳」と習慣づけや反復に基づく「倫理的徳」に区分した。

  • 中庸(メソテース)

中庸とは習性的徳を成立させる原理となるもので、両極端を避けた程度の良さ、具体的状況の適切さを指し示す。

  • 愛(フィリア)について

プラトンが説いた愛(エロース)は理性を働かせて真善美に到達しようとする衝動を意味したのに対し、アリストテレスが説いた愛(フィリア)は互いに好意を抱き、相手のために善きことを願う愛のことである。