高世仁の「諸悪莫作」日記

2018-06-19 生ききりたい

 「地平線会議」の仲間、長野淳子さんが危篤だと聞き、きのう夕方、お宅にお見舞いにいった。3月13日には、お宅におじゃまして、5~6人で楽しく飲み会をやり、淳子さんもニコニコしながら一緒に卓を囲んでいた。あれから3カ月でお別れとは予想していなかったので、私は動揺していた。9月1日に淳子さんの還暦の誕生日のお祝いをしようと、友人たちが計画し始めたところだった。

 ベッドの上の淳子さんは、もう1週間前から危篤状態が続き、目も口もあいたままで、臨終が近いことは明らかだったが、かみさんが手をさすって話しかけると、かすかにうなづいてくれた。がんの末期で、本人の希望で、点滴など延命措置は採らずに自宅で最期を迎えることにしたという。もう半月、固形物は摂っていないそうで、さすがにやせ細っていた。ベッドの上にアオザイがつるしてある。淳子さんが死装束として希望したのだという。夫婦でハノイに行ったときに仕立てたお気に入りのものだそうだ。

 3月には、夫婦で舞鶴に最後の旅行をしたと、夫の亮之介さんが写真を見せてくれた。海岸で二人が手をつないで、カメラにうれしそうに微笑んでいる。近い死を覚悟して毎日を深く生きていたのだろう。帰りにかみさんが大きな声で「淳子さん、さよなら」と声をかけると、淳子さんはお腹の上に置いていた右手の手首の上をあげてはっきりバイバイと手を振った。亮之介さんが「信じられない」とびっくりしていた。帰宅して、淳子さんが、去年11月の「地平線通信」に書いた文章「生ききりたい」をあらためて読み直した。

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生ききりたい

 私はIV期の虫垂ガンで、肝臓と腹膜とリンパ節に切除不能転移を抱えています。「余命半年」「残念です」という言葉を聞いた日から、「生きること」は切実な問題となって私の前に降りてきました。それまでの私は快眠快便、なんでもおいしく食べ、よく働きよく遊び、健康であることに何の疑いもありませんでした。

 平均寿命くらいまでは普通に生きるだろう。いやむしろ長生きしすぎてぼけたらどうしよう。80歳を過ぎて認知症を患った父親を8年間介護した経験から、不安があるとしたら、長い老後生活を想像したときにふと感じるもの、それだって何十年も先の話でしかなかった。世界ではテロが横行し、日本では東日本大震災で何万人もの方々が亡くなられ、原発によって土地を追われる現実を目の当たりにしたときに、明日どうなるかわからないと強く感じたはずなのに、それでも自分の死はずっと遠くにあって、リアルに考えたことなどまったくなかったのです。

 明日が来るのは自明のことで、当たり前のように今日を生き明日を生きるのだと思っていました。いやあ本当に愚かですよね、あんなにニコニコして油断していたなんて。全然当たり前なんかじゃないのに。

 3月3日に大腸原発巣と卵巣を摘出し、今は命の時間を少しでも延ばすべく抗ガン剤治療をしています。日々の暮らしは穏やかな夫と8匹の猫たち、家族や友人達に支えられ静かに過ぎていきますが、過酷な治療にはしばしば心が折れそうになります。

 ガンという病の恐ろしさは、身体を蝕むものが外から侵入した細菌ウイルスの異物ではなく、自分自身の細胞そのものだということです。私の身体の小宇宙で何かが起こっているのか全く自覚のないまま、それは深く静かに変異していたという感じ。いい子に育っていると信じていた我が子が、ある日突然盗んだバイクで夜の学校に乗り込み窓ガラスを割って暴れ回るようなもので、母としては子どもの小さな変化に気づかなかった自分の鈍感さを呪い、「これ以上暴れないでおくれ、よしお〜」と取りすがって泣く訳です。でも一度グレてしまった彼はどんどん不良仲間を増やして悪さを繰り返す。陳腐なたとえですが、ガンとはそんな病気だと思います。

 現代のガン治療のスタンダードは、手術・抗ガン剤・放射線の3本柱です。「今はすごく科学が進歩してて、色々な治療法が生まれているからね。絶対よくなるよ」病気になってから何度か聞いた言葉です。iPS細胞を始めとして、確かに科学の進歩は目覚ましく、暴走するガン細胞初期化して元に戻すことができる日が来るかもしれない。保険のきかない先進医療も実際にたくさん行われているし、私自身一回何百万もする治療を勧められたこともあります。

 ただそれらの治療はエビデンスがないと言われるし、何より経済的に継続不可能です。ガンはできた箇所、進行のステージ、年齢などで治療法が異なる、本当にパーソナルなもので、選択肢は限られています。その中で抗ガン剤は、グレまくる子どもたちを叩いて叩いてなんとかおとなしくさせる先生みたいなものです。でも実はこの先生、どの子がグレていてどの子がいい子なのか見分けることができないのです。見境なく攻撃してしまうので、ガン細胞だけでなく正常細胞も相当なダメージを受けることになります。いわゆる抗ガン剤の副作用です。「過酷な治療に心が折れる」と言ったのはこのことです。

 私は今、2週間に一度50時間連続で抗ガン剤の点滴を受けています。そのために胸に円盤状のポートを埋め込みました。そこに画鋲のような針を刺し、直接静脈に薬を流し入れるのですが、その日が来るたびにドMの女王になったような気がします。朝の満員電車で病院に行き、検査・診察を経て、午後から副作用止めの5種類ほどの薬を4時間かけて入れます。それが終わるとバルーンに入った抗ガン剤が取り付けられて、針を刺したまま夜のラッシュに揉まれながら家に帰ります。

 針が取れるのは2日後の夜。その間は寝返りも打てず熟睡はできません。点滴につながれて生活する3日間が辛いのはもちろんですが、その後は激しい疲労と下痢に苦しめられます。自在にコントロールできていた排便が困難になり、何度も繰り返し下痢をするので、お尻はただれいつもズキズキと脈打つように痛みます。当然主治医に訴えるのですが、先生は「そういう副作用があるんですよ」と言って大量の下痢止めと座薬を出してくださるわけです。副作用は他にも様々経験しています。手足がしびれ爪が割れる、口角炎、舌の味蕾がおかしくなって食事がまずくなる。髪の毛がなくなる寂しさも味わっています。「副作用」の一言で片付けられるたびに、「仕方ないでしょ。だってあなたガンなんだから!」と言われているような気持ちになるのです。「抗ガン剤で殺される」と主張する本がバイブルになる一方で、トンデモ本として激しく批判されてもいます。

 胸に針刺して生活するよりも、枇杷葉の上にコンニャクのせてお腹をあっためる方がずっと癒されるのは確かです。でも命を弄ぶような事件が毎日報じられるにつけ、私は最期が来るまで出来るだけのことをして生ききりたい。私のハゲ頭を撫でて「オランウータンの赤ちゃんみたいだね」と笑う能天気な夫(褒めてます)と一日一日を積み重ねて生きたいと思います。(長野淳子)

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 これだけ冷静に、ときにはユーモアさえまじえて自分の近づく死を書けるとは。その覚悟には気負いも斜に構えたところもまったくない。彼女の死の迎え方の見事さに感動した。淳子さん、ありがとうございます。

 昨夜、23時8分、淳子さんは永眠した。私たちがお宅を辞して4時間後。亡くなる前にお別れできたのは幸運だった。

 淳子さんをしっかり支え続け、きのう一日だけで私たちを入れて21人もの人に、淳子さんとのお別れをさせてくれた亮之介さんにも深く感謝したい。

 これが病院であれば、面会謝絶になるところだ。在宅での死のあり方をふくめ、さまざまなことを考えさせられた。

 淳子さんのご冥福を心よりお祈りします。

2018-06-17 恵谷治氏「日本にミサイルは飛んでこない」

f:id:takase22:20180618021728p:image:w260:left 土本典昭監督の没後10年特別企画をポレポレ東中野でやっている。きのう17日上映された代表作『水俣 患者さんとその世界』を観に行く。

 私はこれを高校3年のときに観てショックを受け、社会悪と闘う弁護士になると決意、大学は法学部に進むことを決めた。結局、弁護士にはならなかったものの、人生を変えた映画で、自分の原点を振り返ってみたくなったのだ。

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 半世紀前に観たきりで、どのシーンも新鮮だったのだが、患者たちが東京チッソ本社の株主総会の壇上に押し寄せる場面は感動的だった。薄笑いを浮かべる江頭豊社長に詰め寄り恨みをぶつける母親の姿が圧巻だ。これを暴力というのなら、暴力は肯定されると思う。近年、こういう感情むき出しの抗議はとんと見なくなった。なぜだろうと考えながら観ていた。

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 北朝鮮に関する論評がさまざま出てきて、そもそものところから、かの国についておさらいしたいと思う。米朝会談トランプ大統領金正恩の「国際的正統性を引き上げた」(CNNの表現)こともあり、北朝鮮体制への甘すぎる評価、期待が目につく。

 最も説得力があると私が思うのは、先日亡くなったジャーナリストの恵谷治さんの見立てだ。ちょっと古いが、手元にある2013年発行の本『光射せ!』(第11号)から紹介しよう。

1)核開発の目的

 何のためにこのような核ミサイルを作ろうとしているかといえば、北朝鮮金日成以来まったくその国家目的を変えていません。それは朝鮮半島の赤化統一、南進武力統一です。核ミサイルはそのために作ろうとしていて、それは国民が何百万人死のうとも推進する、これを民主基地論(編注=金日成北朝鮮民主基地とし、のちに全朝鮮を解放するという「民主基地」論を唱えた)からはじめてずっと目指しています。そして、この統一を成就するためには、在韓米軍を無力化する、撤退させる、もしくはアメリカ本土に届くだけのミサイルを開発して、米国世論を反戦世論に変えていく。つまり統一を阻むアメリカ軍事力に対抗できるようにする、これが核開発の目的です。

 他のアメリカとの交渉とか国内の引き締めとか、あるいは結果的に中国から一定の自立を得るとか、それはすべて附属的な結果に過ぎません。ここを見誤るととんでもないことになります。

2)日本と核ミサイル

 日本にとって重要なことは、北朝鮮が今回横須賀という地名を出したことです。これはある意味、横須賀に撃つぞというのは本気なんです。彼らは日本を攻撃する理由はないのに、なぜノドンミサイルを開発したかといえば、在日米軍を攻撃したいからです。

 よく私は日本のマスコミとかで、北朝鮮と日本が戦争になるのではとか、ミサイルが飛んでくるのではないかとか聞かれますが、基本的にはありえません、と言います。現在の六者協議参加国の中で、日本だけが唯一“金づる”なわけです。他の国は北朝鮮への大規模な経済支援などは全く考えていません。しかし日本だけは、仮に拉致問題解決して国交正常化がなされたうえならば、多分国民のほとんどが経済支援に賛成するんじゃないでしょうか。

 これだけひどい関係でも、拉致被害者さえ帰ってくれば、お金を出す姿勢が日本には政府にも国民にもあります。その国と北朝鮮が戦争をするなんてありえない。それが、実は気づかないうちに日本の安全保障になっている。ですから、日本に北のミサイルが降ってくるなどという人の分析は、基本的におかしい。

 ただし、仮に朝鮮半島で南進統一の戦争が起きたときには、横須賀、三沢、岩国などの米軍基地は、確かに攻撃される危険性はある。この意識を日本人はもたなければならないでしょう。

 そして、北朝鮮は絶対に核を放棄しません。南進統一のためには必要不可欠な武器ですから。ですから個人的な見解ですが、もうあの体制は倒す以外に核をなくす手段はない。

3)南北朝鮮の連邦制の危険性

 仮に、南北両国が同数の議員を出して連邦議会を作り、朝鮮半島をめぐるすべての案件をここで話し合って決めましょうといっても、北朝鮮側の議員は全員すべての問題で意見一致ですよ。そして韓国側に一人でも北朝鮮側と同じ意見の議員がいたら多数決ですべて北側の意見が通る。こんな馬鹿馬鹿しいことを、金大中盧武鉉がやろうとしたのです。これならば北朝鮮武力を使わなくても優位に統一できるわけです。

4)韓国のなすべきこと

 日本では、そして韓国でも、今はこういう考えは絶対に認められないかもしれないけれど、戦争はいけない、平和が正しいと言っても、93年、94年の第一朝鮮半島危機のとき、確かに戦争になれば数十万人の人が命を失ったかもしれない、しかし逆に言えば、平和は保たれたかもしれないけれども、その後北朝鮮では独裁政権が続いたせいで、餓死者が300万人出たともいわれるわけです。それを考えたら、韓国よ、もし今行動しなかったら、北朝鮮のあの狂った政権を今倒さなかったら、未来の時代にあなたたちは同胞を見捨て、独裁者にほしいままに殺させた責任を問われるのですよ、と言いたいのです。

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 テレビでコメントする「専門家」とはかなり違う分析なので、驚いた方もいるだろうが、全体主義の本質をついた議論だと思っている。

(つづく)

2018-06-16 こだまでしょうか

 アメリカ米韓軍事演習をやめるというニュースが波紋を呼んでいる。

 米朝首脳会談の直後、トランプ大統領記者会見でこんなことを言っていた。

 「大統領選挙戦でも言ったように、在韓米軍を撤退させたい。米韓軍事演習は非常に金がかかる。やめれば莫大な金額を節約できる。韓国も負担しているが100%ではない。今後の交渉課題だ。グアムから6時間半もかけて爆撃機を飛ばして演習するのは恐ろしく金がかかる。こんなのはやりたくない。」「北朝鮮の非核化のコストは、韓国と日本が出す用意があるはずだ。北朝鮮に近いのだから。」

https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/press-conference-president-trump/

 トランプ氏の「アメリカファースト」というのは、目先の損得勘定中心のきわめて狭い「国益」のとらえ方にもとづくことがよく分かる。もともと、アメリカからはるか離れた朝鮮半島情勢には関心がない。核搭載ミサイルアメリカに飛んでこなければそれでいい。北朝鮮の非核化も、近い国がコストの面倒を見るべきでアメリカは関係ないと言っているのだ。

 日本の進むべき道を、こういう政権に「お任せ」するのが危険であることはいうまでもない。

 先週末、周防大島で知り合いになった人のFBを見ていて笑ってしまった。

「全ての選択肢はテーブルの上」といえば「全ての選択肢はテーブルの上」という

米朝会談の中止」を言えば「米朝会談の中止」という

米朝会談を行う」と言えば「米朝会談を行う」という

「最大限の圧力という言葉は使いたくない」と言えば「最大限の圧力という言葉は使いたくない」という。・・・

こだまでしょうか

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 先週のこと。カナダ先進7カ国首脳会議(G7サミット)で、日本と米国だけが、深刻化する海のプラスチックごみを減らすための数値目標を盛り込んだ文書署名を拒否した。環境団体からは「恥ずべきことだ」などと批判が相次いでいる。(共同)

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3392536.html

 また、こだまが聞こえる。

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(年間700万トンもが投棄されているというプラスチックごみは早急な対策が求められる)

 さて、対北朝鮮では、米朝会談に押される形で、いよいよ日本が独自に対応しなければならないところにきている。拉致被害者家族はじめ期待が高まっている。しかし、

 ラヂオプレスによれば、北朝鮮の国営ラジオ平壌放送は15日夜、日本人拉致問題に触れて、「日本はすでに解決された拉致問題を引き続き持ち出し、自らの利益を得ようと画策した」と伝えた。日本政府の対応について「無謀な北朝鮮強硬政策にしがみついている」とも主張した。》朝日新聞

 今後の具体的な交渉には、根本的な困難がいくつも待ち受けている。

(つづく)

2018-06-15 「土佐源氏」を周防大島で観る

 10日(日)は、かみさんと、周防大島で、俳優、坂本長利さんの一人芝居「土佐源氏」を観て来た。

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 土佐源氏」は民俗学者、故宮本常一が1941年に高知県梼原町で聞き取った、盲目の元馬喰(ばくろう、馬・牛の仲買人)の老人の一代記で、『忘れられた日本人』に収められている。これをもとに坂本さんが独自にオリジナルの一人芝居として完成させた。会場の大島文化センターは満席。1本のロウソクが灯っているだけの舞台で、坂本さんの鬼気迫る熱演に引き込まれた。宮本の故郷の周防大島での公演とあって、坂本さんも特別の思いで演じたようで、上演後はさすがにぐったりしていた。上演後、あるお寺での打上げにもお招きいただき、そのまま翌朝まで坂本さんとご一緒させていただいた。(写真は青柳健二さん撮影)

 今回、いい機会なので、芝居を見るに先立ち、その元馬喰がいた梼原町も回ってきた。行程は、成田空港からLCCで松山へ、ここからレンタカー梼原へ、一泊して松山へ戻り、フェリーで周防大島へ渡った。時々雨にも降られたが、とても印象に残る旅だった。

 かみさんは若いころ、宮本常一設立した「観光文化研究所」(近畿日本ツーリスト資金を出した)が出す雑誌『あるく みる きく』の愛読者となり、さらには研究所の事務局で働くことになった。研究所には、大学の探検部関係や冒険家研究者が出入りしていて、その中にはグレートジャーニーの関野吉晴さん、先日亡くなった恵谷治さんなどもいたという。研究所を母体に、「地平線会議」という冒険・探検をめざす会ができる。私はボルネオ島の熱帯林伐採の取材をきっかけに「会議」に顔を出すようになり、月例報告会で報告したりするうち、かみさんと知り合って結婚することになった。

 そういう因縁もあり、宮本常一ゆかりの土地に二人で旅をすることになったのだった。ちなみに「土佐源氏」公演の10日が結婚記念日だった。

 さて、「土佐源氏」だが、中身は老人の色恋話が中心だ。忘れることのできない女性たちとの逢瀬が性描写を交えて語られる。その赤裸々な告白には、庶民の喜び、哀しみが正直に現れている。宮本の代表作の一つだ。

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 坂本さんがこれを読んだのは、20代半ばで、大きな感動を受けたという。小劇場運動を牽引していた1967年、新宿のストリップ小屋の幕間狂言をやらないかと声をかけられた。色事の話がよいだろうと「土佐源氏」を一人芝居でやってみることに。自らの演出で30分の幕間狂言に仕立て、昼夜3〜4回のステージをつとめた。坂本さん、38歳の時のことである。幕間芝居など客は見向きもしなかったが、踊り子たちがファンになった。次第に評判を呼び、坂本さんの芝居を目当てに来る客も現れた。

 ストリップ小屋の仕事が終わったあと、坂本さんは「土佐源氏」を70分に仕立て直す。あの芝居をもう一度観たいという声にこたえ、あちこちに出かけて演じるようになる。噂が噂を呼んで、別のところからお呼びがかかる。こうして「出前芝居」というスタイルができた。劇場だけでなく、神社個人宅、喫茶店、さらには浜辺や極寒の雪の中で上演したこともある。更にポーランドスウェーデンドイツオランダペルーブラジルデンマーク韓国と海外にも招かれて上演し、大きな反響を呼んだ。

 坂本さんはいま88歳だ。2011年の胃ガン手術後も精力的に「出前芝居」を続けている。

 坂本さんはこう語っている。

 「30歳代には30代の、50歳代には50代の演技があり、80歳になってみれば80歳の演技があるものだ、と思いました。先日上演したときのこと、演技している自分の体に変化がありました。余計な力みがなくなっていたのです。飄々として、かろやかな老人が観客を前に自然体でうごめいていました。年をとってみなければ、わからないことがあるもんだな、と思いました。テクニックやひらめきだけでなく、そして1000回演じてもつかめずにいたことが、体で自覚できたことは、役者としてうれしく楽しいことでした」

 「ひとつの演劇のキャラクターを最も長い期間演じる俳優」として、ギネスブック登録申請中だそうだ。

 1967年の初演から演じ続けて半世紀、この夏、1200回目の公演を迎える。

 坂本さんを見習わなくては。「もう歳だ・・」なんて言っていられないな。

2018-06-12 トランプのドヤ顔とシンガポールの夜景

f:id:takase22:20180613023300j:image:w250:left 米朝首脳会談では、トランプが金正恩を「いいやつだ」と褒めまくり、「非核化するようがんばります」というただの努力目標のような宣言をしたうえで、それがあたかもすごい成果のように演出する・・・こうなるんじゃないかなと思っていた通りの展開だった。トランプのドヤ顔ばかりが印象に残った。政治ショーの演出にしか関心がないようだ。

 トランプは会談後の会見で、金正恩を「才能がある。(権力掌握時)26歳で、タフに運営してきた人物はほとんどいない。1万人に1人だろう」とまで褒め上げた。金正恩がどれほど酷く国内の人民を虐げてきたかをまったく気にしていない。

 トランプは会談拉致問題も提起したなどと言っているが、たぶん「拉致もよろしく」と挨拶程度だろう。安倍首相はいつもトランプを持ち上げるが、トランプという人は支持者の人気取りと短期的な利害、名声を目指して感情的に動く人なので、すぐに掌を返すだろう。

 《非核化を巡る交渉の長期化が予想される中、トランプ氏が難題を先送りし、朝鮮戦争の終戦宣言合意のように「歴史的偉業」として目に見える成果を優先させる可能性が高まる。(略)会談結果は、圧力一辺倒だった日本の対北朝鮮政策を左右する。拉致問題への取り組みも含め、日本の外交は正念場を迎える》東京新聞12日夕刊、城内記者)この辺が妥当な評価ではないか。

 

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 今回の首脳会談で、「おや」と思ったのは北朝鮮メディアの報じ方だった。

 正恩氏ら一行は11日夜、宿泊先のセントレジスホテルを出て、シンガポール外相の案内で2時間、屋上にプールがあることで有名な「マリーナ・ベイ・サンズ」や、植物園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」などを訪問した。この様子を労働新聞は12日朝、写真14枚つきの1面トップで伝えた。

ウェブサイトに掲載されたのは7時過ぎ。過去に北朝鮮が深夜に行ったミサイル発射を労働新聞が報じるのは24時間以上後だったことを考えると、これまでにない速報ぶりだ。

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 記事の内容も異例だ。正恩氏は今回の観光スポット訪問で「シンガポールの社会・経済的発展について学んだ」といい、(略)正恩氏の発言を「マリーナ・ベイ・サンズの展望台から市内の夜景を楽しみながら、これまで聞いていたように、シンガポールが清潔で美しく、すべての建物がスタイリッシュだと述べた。さらに、今後様々な分野で、シンガポールの立派な知識や経験から多くを学びたい、と述べた」などと伝えた。正恩氏は「今回の視察を通じて、シンガポール経済的潜在性と発展についてよく知ることができた。シンガポールについて良い印象を持つようになった」とも述べたという。北朝鮮メディア資本主義国の経済について肯定的に伝えるのもきわめて珍しい。》

 たしかに、華やかなシンガポールの夜景と停電の多い北朝鮮の都市では大きな差がある。北朝鮮が国民に、資本主義社会の優位を見せることは過去にはなかった。これは全体主義体制の維持にとってどんな意味を持つのか。

 共産圏の崩壊は、ソ連共産党の中枢にゴルバチョフという全く異質なリーダーが出現して自ら共産党を破壊してしまったのがきっかけになった。金正恩北朝鮮ゴルバチョフになるとはにわかに信じられないが、今後の北朝鮮体制の変化を注視したい。