こんにちは―飯喰ったか?

takase222008-12-13

鎌倉街道を歩いていたら、カサッと小さな音。降ってきた落ち葉が、地面に触れた音だった。見上げると枯れ枝の向こうに青い空がある。もう年末だ。
この時期になると、NGOが販売するカードなどに、世界のいろんな国の挨拶が書いてあったりする。
挨拶は社交の儀式だが、もともとは相手に自分が「敵」ではないことを示して良好な関係を確認するもののはずだ。一人で山の中を歩いていて、たまに人とすれ違うときには、自然と挨拶が口に出る。この場合は、挨拶の本来の意味を感じる。「危害を加えたりしないよね」と。
小さな共同体では、顔見知りばかりで、あらたまっての挨拶は必要性が小さくなる。いわゆる挨拶語がない、あるいはほとんど使用されない社会もある。
「どさ」「ゆさ」でいいわけである。
さて、タイでは「こんにちは」が「サワッディー」ということになっている。しかし、タイに滞在しているうち、私はこれが1930年代に作られた人造語だと知った。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%AF%E3%83%83%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC
あらたまった挨拶語がほとんど使われないというのは、少なくとも私が回ったアジア諸国ではひろく見られるように思う。
植民地化=近代化の過程で西洋人、つまり異人との接触が増えると、彼らに対応した挨拶語がないとまずい。そこではじめて各民族で挨拶語、少なくとも西洋人向けの挨拶語が作られたのではないだろうか。
フィリピンの「マガンダン・ウマーガ」(美しき朝)、「マガンダン・ハポン」(美しき午後)など、グッド・モーニング、グッド・アフタヌーンの直訳だろう。一日をいくつかの時間帯に切って、それを「よい」「すばらしい」で形容する形の西洋式挨拶だ。ドイツ語の「グーテン・モルゲン」(よい朝)、ロシア語の「ドーブロエ・ウートラ」(よい朝)で「おはよう」というような。
これらは、フィリピン人にとっては硬くてよそゆきな感じらしく、日常あまり使われない。私は3年近いフィリピン滞在中、外国人が覚えたての挨拶として使う以外、ほとんど聞いたことがない。
今の日本で「ごきげんよう」とか、ありがとうに対する「どういたしまして」などが、バタ臭い感じがして使われないのとちょっと似ているかもしれない。直感的には「ごきげんよう」は明治の文明開化の、「どういたしまして」は戦後の進駐軍の匂いがする。
ベトナム語の「チャオ」(こんにちは)なんていうのは、もろにヨーロッパから直輸入した挨拶だろう。ベトナムの田舎で、農民がすれ違うとき「チャオ」と言い交わす図は想像しがたい。
いわゆる会話指南書に書いてある挨拶と言うのは、ほとんどよそゆきの近代挨拶語とも言うべきものだと私は思っている。世界中が同じような挨拶体系を持っているというわけではないのだ。http://www.ryucom.ne.jp/users/jr6tpd/language.htm
では、人と人とが会ったときにどう声をかけあうかというと、かなりの民族で、「メシ食ったか?」となる。
ベトナムでは「アンコムチュア?」。「アン」は食べる、「コム」は米。
タイでは「キンカオルーニャン?」。「キン」が食べるで、「カオ」が米。
米を食べることがイコール食事をするという意味になるのは、日本語の「飯を食う」と全く同じだ。
これは単なる声かけだから、律儀に「2時間前に食べた」などと答えなくてよい。
東南アジアの山岳民族も、また中国もそうらしい。あるブログにこう書いてあった。
《食事時に出会ったとき、「ご飯食べた?」「ご飯まだ?」と声をかける。外国人は、中国人からこう声をかけられて、ひょっとしたら食事に誘って欲しいのだろうか、と気を使うことも多い。あるいは、おせっかいな話だと思われるかもしれない。しかし、この挨拶にはなにも深い意味はない。ただ口をついて出てくる習慣的な言葉に過ぎず、本当にご飯を食べたかどうかを聞くつもりもないし、真面目に答える必要もない。ただ適当に「食べた」とか「いやまだ」と簡単に一言答えればよい。》
では「你好」(ニーハオ)の起源はどうなのか。ブログにこんなことが書いてあるが、ほんとかな?挨拶語「ニーハオ」はごく新しいものだというのだが・・。
《いまの挨拶用語「ニイハオ」はいつから使われだしたのだろうか。これは私の想像だが、1972年ニクソンの訪中以後だと思っている。アメリカ人が「ニイハオ」と言うとき「ニイハオマ?」と疑問文の形で言う。これは多分英語の How are you? を「あなた如何ですか?」と中国語に訳し、日本ではその疑問の助詞「マ」が除かれて「ニイハオ」になったのだと思う。中国でも語呂がよいのか「ニイハオマ」でなく「ニイハオ」である。最近は、電話の応対の第一声も、ホテルや学校公的機関では「ニイハオ」が定着した。》http://www5a.biglobe.ne.jp/~ailiao/japan/yomimono/sumechu/kyusyuu.htm
韓国の「アンニョン(安寧)」というのも、ひょっとして近代挨拶語なのか。「アンニョンハシムニカ」は「安寧でいらっしゃいますか」という意味でハウアーユーそっくりなのだが・・・。
どんどん疑問が膨らんで行く。
では、日本語の「こんにちは」はどうなのか。
(つづく)