蝉鳴くや

蝉鳴くや 地球の病んでゐやうとも
今週の朝日俳壇に選ばれた句(稲畑汀子選)だ。
これだけ気候変動が露骨になると、季節の移り変わりをどう感じ、納得すればいいのか、迷ってしまうが、そのへんのところを詠んでいて「なるほど!」と思った。
セミはとくに気候変動と関係が深いらしく『セミたちと温暖化』、『都会のセミたち−温暖化の影響?』といった本まで出ている。
地球がおかしくなっても、授かった生を懸命に鳴く。それを聞く我々人間もそうなのではないか。そんな感慨がわく。
先日、「読売俳壇」の選者を長くつとめた俳人森澄雄さんが91歳でなくなった。
森さんは、ボルネオで「死の行軍」を経験し、復員後、高校教師を勤めながら、俳句を詠んだ。ボルネオでは、200人いた中隊で生還者8人という過酷さだった。それが俳句人生の原点になったという。
「だから戦後は、ひとりの平凡な人間として生涯を送りたいと強く思うようになりました。妻を娶(めと)ったら妻を愛し、子供が出来たら子供を慈しみ…」という生き方をしたと本人が回顧している。

除夜の妻白鳥のごと湯浴(ゆあ)みをり
聖夜眠れり頚(くび)やはらかき幼な子は
奥さんを20年以上前に亡くし、妻恋いの句をたくさん残した。
白地着てつくづく妻に遺されし
水餅の春までもちし妻亡くて
亡き妻の連れ添うてをる単衣(ひとえ)かな
一人で老いるなか、こんな句も詠んでいる。
美しき落葉とならん願ひあり
これを「去りゆく身を散る花ではなく落葉に託したところが、平凡な生活者であろうとしたその人らしい」と読売の編集手帳(19日)は評している。