戦場より危険なモスクワ

takase222015-03-01

3月になって最初の日、東京は雨。
取材で人に会うため、秋葉原へ。

昼食に小さな立ち食いそばに入ると、場所がらか、客の半分が外国人で、ちょっと驚いた。
スペイン人旅行者の若いカップル、小さな子ども連れのインド圏の人らしい夫婦、それにアラブ系と思われる若い男性が蕎麦をすすっている。
居酒屋など「日本」の濃密な雰囲気が漂う空間には外国人は入りにくいと聞いたことがある。立ち食いそばもそういう場所の一つかと思っていたが、最近はガイドブックなどにも紹介されているらしい。
そういえば、3年前、外国人の日本ツアーを取材した際、アメリカ人のバックパッカーが、立ち食いそばをよく利用すると言っていたのを思い出した。
「食事を安くすませられるので便利です」。
何が好きですか?
「何でもおいしいけれど、天ぷらそばは不思議です。」
どうして?
「天ぷらはクリスピーな(ぱりぱりしている)のがおいしいのに、そばに入れてしまうと汁でべちゃべちゃになってしまいます。なぜですか。」
私は、かき揚げなどは、そばの下に潜らせてグズグズ、ばらばらにして食べるのが好きなのだが、もっともな疑問だなと印象に残っている。即答できなかったが、はて、どうしてなのだろう?
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ロシアの野党指導者ボリス・ネムツォフ氏が射殺された。
クレムリンをのぞむモスクワのど真ん中でである。

ロシアの表面上の「安定」は、プーチン政権による異分子の物理的抹殺工作で支えられている。日本の政界には、プーチンと仲よくしようという声があるが、この政権の恐ろしい闇の深さを知るべきだ。

こういう国のジャーナリストこそ危険極まりない。
この日記に私は、戦場ジャーナリストよりロシアの政府を批判するジャーナリストのほうがはるかに危険だと書いたことがある。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20080113
その代表格が、アンナ・ポリトコフスカヤという女性ジャーナリストだった。
私たちは、06年夏、彼女に取材を申し込み、了解をもらった。取材の計画を立てていたとき、彼女が暗殺されたとの報が飛び込んできた。殺されたのは10月7日。プーチンの誕生日だった。バースデイ・プレゼントだったのだろう。
ロシアの闇については、あらためて書こう。
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先日、皇太子の誕生日会見について書いたが、金曜の朝日新聞「新聞ななめ読み」というコーナーで、池上彰氏がこの会見を取り上げている。
タイトルは「皇太子さまの会見発言 憲法への言及、なぜ伝えぬ」。

《記者会見に出席し、同じ話を聞いたはずの記者たちなのに、書く記事は、新聞社によって内容が異なる。こんなことは、しばしばあります。記事を読み比べると、記者のセンスや力量、それに各新聞社の論調まで見えてくることがあります。》
と冒頭で振ったうえで、池上氏は、
「我が国は戦争の惨禍を経て、戦後、日本国憲法を基礎として築き上げられ、平和と繁栄を享受しています」との発言に注目する。
《以前ですと、別に気にならない発言ですが、いまの内閣は、憲法解釈を変更したり、憲法それ自体を変えようとしたりしています。そのことを考えますと、この時点で敢えて憲法に言及されたことは、意味を持ちます。
 いまの憲法は大事なものですと語っているからです。天皇をはじめ皇族方は政治的発言ができませんが、これは政治的な発言にならないでしょうか。
 ところが、憲法第99条に、以下の文章があります。
 「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と。
 皇太子さまは、憲法のこの条文を守って発言されているに過ぎないのですね。
 でも、憲法擁護義務を守りつつ、「憲法は大事」と伝えようとしているのではないか、とも受け取れます。それを考えると、宮内庁と相談しながらのギリギリのコメントだったのではないかという推測が可能です。
続いて、
《こんな大事な発言を記事に書かない朝日新聞の判断は、果たしてどんなものなのでしょうか。もちろんデジタル版には会見の詳報が出ていますから、そちらを読めばいいのでしょうが、本紙にも掲載してほしい談話です。》と批判する。
記事では、読売、日経、産経も取り上げず、載せたのは毎日新聞だけだったという。

さらに、池上氏は続けてこう書く。
《こうなると、他の発言部分も気になります。朝日新聞が書いている「謙虚に過去を振り返る」という部分です。このところ、日本の戦争の歴史の評価をめぐって、「謙虚」ではない発言が飛び交っていることを意識されての発言なのだな、ということが推測できるからです。皇太子さまの、この言外に含みを持たせた発言を、他紙は報じているのか。

 毎日新聞日経新聞は報じていますが、読売新聞にはありません。産経新聞は、本記の中にはなく、横の「ご会見要旨」の中に出ています。

 日経新聞は、「謙虚に過去を振り返る」の発言の前に、「戦後生まれの皇太子さまは天皇、皇后両陛下から折に触れて、原爆や戦争の痛ましさについて話を聞かれてきたという」と書いています。天皇ご一家が、戦争の悲惨さと平和の大切さを語り続けてこられていることがよくわかる文章です。朝日新聞の記事では、こうした点に触れていません。記者やデスクの問題意識の希薄さが気になります。》

池上氏も、皇太子発言が、日本の「今」を意識して練られたものであると推測している。
もしこの推測が正しいとすると、皇室の憂慮は相当なものだということになる。デジャブのような政治風景である。