高世仁の「諸悪莫作」日記

2018-09-13 シリアで今世紀「最悪の人道的惨事」か

 いま、歴史的大惨事が起きる可能性が高まっている。

 シリアでは、アサド政権ロシア軍の全面的支援のもと、化学兵器まで使用して支配地を拡大。反体制派の最後の拠点となった北西部のイドリブ県に総攻撃をかけようとしている。イドリブ県には、アサド政権軍・ロシア軍の無差別爆撃を逃れ、シリア各地から大量の避難民が集まっている。

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 国連は10日、シリア北西部での戦闘激化により、今月だけで3万人余りが避難を強いられたと発表し、シリア政府軍が同地域に進攻すれば今世紀「最悪の人道的惨事」をもたらす恐れがあると警告した。》(9月7日 AFP

 総攻撃はまだだが、ロシア軍が一部の地域の空爆を始めたようだ。

《イドリブ県が8日、空爆を受けたとみられる。現地のボランティア救助組織「シリア民間防衛隊(通称・ホワイトヘルメッツ)」などが報告した。ホワイトヘルメッツは、8日の空爆で4人が死亡、5人が負傷したとツイートし、攻撃の場面とされる写真を投稿した。反体制派の在英NGO「シリア人権監視団」も、イドリブで同日「集中的」な空爆があったと伝えた。両組織とも、ロシア機による空爆との見方を示した。》(CNN)

 イドリブでは去年も、アサド政権ロシア軍が、サリンと思われる化学兵器を使用し多くの犠牲者が出ている。https://www.unicef.or.jp/news/2017/0074.html

 アジアプレスの玉本英子さんも、現地の医師の撮った写真を紹介して報じている。

http://www.asiapress.org/apn/2017/04/syria/post-53684/

 手段を選ばずに住民殺戮をやってきたアサド政権軍とロシアが、トルコ国境を背にした反体制派支配地域を完全制覇のため「総攻撃」するならば、恐ろしい惨事になるとの懸念が広がっているのだ。

 ここで警告したいのだが、シリア情報にはフェイクニュースが広く出回っている。発信元はロシア

 ロシア通信インフラへの攻撃やハッキングでも知られるが、アメリカ大統領選挙に見られるように、組織的なフェイク情報、プロパガンダ拡散による情報戦に力を入れている。今の情勢についてはこんなニュースを流している。

 中東の複数のテレビ局及び米国のテレビ局1社が、シリアのイドリブで組織「ホワイト・ヘルメット」参加の下、演出された「シリア政府軍化学兵器攻撃」の9つのシーンを撮影した。シリアにあるロシア紛争当事者和解センターが発表した。またこの「芝居」に参加させるために、親のいる子供と、難民キャンプから連れ出された孤児22人が選ばれたという。ロシア国防省は、「ホワイト・ヘルメット」はテロリストと合同で民間人に対する化学兵器を使った実際の攻撃を準備をしていると発表した。》

https://jp.sputniknews.com/middle_east/201809125332067/

 ロシアによれば、化学兵器を使用するのはアサド政権側ではなく、逆に「ホワイト・ヘルメット」と反体制勢力であり、政府軍化学兵器を使用したという動画は「芝居」つまり「やらせ」で撮影されたというのだ。4月、首都ダマスカス近くの東グータ地区で化学兵器が使用されたときも、この手のデマがけっこう広まった。ロシアは多様なルート、チャンネルからフェイク情報を流すので、何回も接した人は、ひょっとして事実かもしれないと思うようになる。危険である。

 

 フェイク情報もあずかって、アサド政権反体制派も悪いという「どっちもどっち」論がメディアでもよく聞かれるが、実際は、アサド政権側が一方的に住民を殺戮している。

 先日紹介した白川優子さん(国境なき医師団看護師)の本『紛争地の看護師』を見てみよう。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20180821

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 優子さんは、シリアでは、他の紛争地と違って、医療活動自体が命がけだったという。医療従事者を政府軍がターゲットにするからだ。

 イエメンでは、私たちは中立の立場で人道支援に入っているという事実を、政府、それぞれの紛争当事者、各コミュニティなどと交渉しアピールしながら活動していた。

 地元民からも感謝されたし、そうした実績が私たちの実の安全につながっていた。

 スタッフが活動時に着用するTシャツや移動の車にはMSF(国境なき医師団)のロゴを入れ、病院にもMSFの旗や看板を立て、周囲にMSFの医療活動であると分かってもらうようにしていた。

 ところがシリアではそれが一切できず、隠れながら活動をしなければいけなかった、なぜなら医療活動の場が攻撃のターゲットになっていたからだ。

 デモから始まったシリアの騒乱は、政権側がデモを起こす市民に銃を向けたことで内戦と化した。撃たれた市民は病院に運ばれるが、やがて政権側は先回りをして病院に検問を張るようになり、そこでデモ参加者を逮捕した。さらには怪我人を治療する医師たちも反逆者を治療したという罪で逮捕されるようになってしまった。

 挙句の果てには市民が治療できないよう病院自体を攻撃するなど、命を救うはずの医療の場が戦場と化した。」(P91)

 そして実際に、白川優子さんが詰めていた病院に政府軍の飛行機による爆撃があった。明らかに病院であることを分かった上で狙ったのだ。

 これは、いま囚われの身のジャーナリスト安田純平さんによる、シリアではアサド政府軍が、医師看護師など医療従事者や医療関連施設を狙い撃ちしているという2012年のリポートに符合する。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20120820

 フェイクニュースを打ち破るためにも、現地からリアルな状況を伝えることは非常に大事である。ジャーナリストであろうがなかろうが。

 安田純平さんは、イドリブで拘束されていることが確実で、その点からも、政府軍ロシア軍による「総攻撃」をめぐる情報を注視している。

日本人論はまた次回に)