アサド政権の勝利は「解決」ではない

 秋も深まって、南天、千両、万両など赤い実が目立つ。



 公園にはハナミズキ、クロガネモチ、3番目の写真はモチノキか。
 きょうは晴れたので、多くの散歩やジョギングを楽しむ人とすれちがった。
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 はやくも『シリア拘束―安田純平の40か月』(扶桑社)という本が出た。日本記者クラブ(11月2日)と外国人特派員協会(9日)の会見と安田さんへの独自のインタビューで構成したもので、あすから発売される。私は特別に19日にいただいたのだが、資料としてよくまとまっていてとても役に立つ。

 最終章に在日シリア人ジャーナリストのナジーブ・エルカシュさんへのインタビューが載っていて、これがまたいい。エルカシュさんは、内戦前にジン・ネットのシリア取材でコーディネーターをお願いしたことがある。佐藤真さんの映画『エドワード・サイード』の助監督をつとめるなどの仕事もしている。
 内戦後の複雑なシリア情勢の分析で、私が最も信頼する人である。
 この本のインタビューでは、そもそもシリア内戦とは何か、なぜ内戦が泥沼化したのか、政府側も反政府側も「どっちもどっち」なのか、「代理戦争」にすぎないのか、アサド政権が軍事的に圧倒的優勢のなか「内戦が終わるならアサド政権の独裁が続くのもやむを得ない」のか、などの疑問に答えている。要約すると;

 まず内戦のはじまりだが、2011年に自由を求めてデモに参加した人に、アサド政権が武力で弾圧。武力闘争の是非で意見が分かれたが、このままでは殺されてしまうと自由シリア軍などの武装勢力が組織された。シリア軍は民主化を求める人々への攻撃を激化させ、内戦勃発以来50万人以上が殺された。その大多数が政府軍の攻撃によるもので、人口密集地や病院、学校を標的に爆撃するほか、化学兵器も各地で数十回使用されている。国際社会は科学兵器の使用ばかりを問題にしているが、政府軍が国際人道法に反して一般市民を虐殺し続けていることが問題であるにもかかわらず具体的な対応をしていない。町や村を包囲しての兵糧攻めで、住民が餓死するなど悲惨な状況を招いている。
 自由シリア軍やその他の反政府武装勢力は、一時期アサド政権を崩壊寸前まで追い詰めたが、2015年秋にロシアが空爆を開始するなど軍事介入を行ったため、形勢は逆転された。
 多くの国が介入してきたが、どの国もシリアの民主化を望んでいない。トルコ、カタールサウジアラビアなどはイスラム原理主義系の武装勢力ばかりを支援。イスラム原理主義系勢力は、世俗派の民主化運動家たちの味方ではない。アメリカは世俗派の自由シリア軍を支援したが、対ISだけに限定している。アメリカの自由シリア軍に供与した武器はISに対して使うのであって、シリア政府軍に使ってはいけないとクギをさされている。IS最盛期のころは、シリア自由軍は、アサド政権軍とISの両方から攻撃され、ほぼ壊滅状態となった。
 いま、アサド政権が勝利しつつあるが、大規模な戦闘が行なわれなくなったとしても、アサド政権による深刻な人権侵害は続く。亡命したアサド政権の関係者から流出したとされる1万1千人分の遺体写真がある。両目をくり抜かれるなど、激しい拷問の痕が残されている。外国に避難した難民たちは、アサド政権が怖くて、内戦が終わったとしてもソロ兄は戻れない。実際に、最近サウジアラビアにいたシリア難民12人がシリアに帰国したが、無事に我が家へと戻れたのは2人だけだった。5人が逮捕され、2人の若者が兵役にとられ、3人がシリア政府軍の予備役につかされるということで連行された。彼らは自分たちが逮捕リストに入っていないことを確認してから帰国したのだが、実際には難民たちは国外から帰国するだけで逮捕される。・・・・

 エルカシュさんは、今後、「シリア復興」が国際的な課題になるだろうが慎重に検討すべきだと言う。「復興」という名目で人権侵害に加担しないよう、何にお金が使われるか、見極めていかなくてはならない。
 安田純平さんの帰国は大きく報道されたが、これが安田さんが伝えようとしたシリア問題自体に関心を持つことにつながってほしいものだ。