高世仁の「諸悪莫作」日記

2018-06-17 恵谷治氏「日本にミサイルは飛んでこない」

f:id:takase22:20180618021728p:image:w260:left 土本典昭監督の没後10年特別企画をポレポレ東中野でやっている。きのう17日上映された代表作『水俣 患者さんとその世界』を観に行く。

 私はこれを高校3年のときに観てショックを受け、社会悪と闘う弁護士になると決意、大学は法学部に進むことを決めた。結局、弁護士にはならなかったものの、人生を変えた映画で、自分の原点を振り返ってみたくなったのだ。

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 半世紀前に観たきりで、どのシーンも新鮮だったのだが、患者たちが東京チッソ本社の株主総会の壇上に押し寄せる場面は感動的だった。薄笑いを浮かべる江頭豊社長に詰め寄り恨みをぶつける母親の姿が圧巻だ。これを暴力というのなら、暴力は肯定されると思う。近年、こういう感情むき出しの抗議はとんと見なくなった。なぜだろうと考えながら観ていた。

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 北朝鮮に関する論評がさまざま出てきて、そもそものところから、かの国についておさらいしたいと思う。米朝会談トランプ大統領金正恩の「国際的正統性を引き上げた」(CNNの表現)こともあり、北朝鮮体制への甘すぎる評価、期待が目につく。

 最も説得力があると私が思うのは、先日亡くなったジャーナリストの恵谷治さんの見立てだ。ちょっと古いが、手元にある2013年発行の本『光射せ!』(第11号)から紹介しよう。

1)核開発の目的

 何のためにこのような核ミサイルを作ろうとしているかといえば、北朝鮮金日成以来まったくその国家目的を変えていません。それは朝鮮半島の赤化統一、南進武力統一です。核ミサイルはそのために作ろうとしていて、それは国民が何百万人死のうとも推進する、これを民主基地論(編注=金日成北朝鮮民主基地とし、のちに全朝鮮を解放するという「民主基地」論を唱えた)からはじめてずっと目指しています。そして、この統一を成就するためには、在韓米軍を無力化する、撤退させる、もしくはアメリカ本土に届くだけのミサイルを開発して、米国世論を反戦世論に変えていく。つまり統一を阻むアメリカ軍事力に対抗できるようにする、これが核開発の目的です。

 他のアメリカとの交渉とか国内の引き締めとか、あるいは結果的に中国から一定の自立を得るとか、それはすべて附属的な結果に過ぎません。ここを見誤るととんでもないことになります。

2)日本と核ミサイル

 日本にとって重要なことは、北朝鮮が今回横須賀という地名を出したことです。これはある意味、横須賀に撃つぞというのは本気なんです。彼らは日本を攻撃する理由はないのに、なぜノドンミサイルを開発したかといえば、在日米軍を攻撃したいからです。

 よく私は日本のマスコミとかで、北朝鮮と日本が戦争になるのではとか、ミサイルが飛んでくるのではないかとか聞かれますが、基本的にはありえません、と言います。現在の六者協議参加国の中で、日本だけが唯一“金づる”なわけです。他の国は北朝鮮への大規模な経済支援などは全く考えていません。しかし日本だけは、仮に拉致問題解決して国交正常化がなされたうえならば、多分国民のほとんどが経済支援に賛成するんじゃないでしょうか。

 これだけひどい関係でも、拉致被害者さえ帰ってくれば、お金を出す姿勢が日本には政府にも国民にもあります。その国と北朝鮮が戦争をするなんてありえない。それが、実は気づかないうちに日本の安全保障になっている。ですから、日本に北のミサイルが降ってくるなどという人の分析は、基本的におかしい。

 ただし、仮に朝鮮半島で南進統一の戦争が起きたときには、横須賀、三沢、岩国などの米軍基地は、確かに攻撃される危険性はある。この意識を日本人はもたなければならないでしょう。

 そして、北朝鮮は絶対に核を放棄しません。南進統一のためには必要不可欠な武器ですから。ですから個人的な見解ですが、もうあの体制は倒す以外に核をなくす手段はない。

3)南北朝鮮の連邦制の危険性

 仮に、南北両国が同数の議員を出して連邦議会を作り、朝鮮半島をめぐるすべての案件をここで話し合って決めましょうといっても、北朝鮮側の議員は全員すべての問題で意見一致ですよ。そして韓国側に一人でも北朝鮮側と同じ意見の議員がいたら多数決ですべて北側の意見が通る。こんな馬鹿馬鹿しいことを、金大中盧武鉉がやろうとしたのです。これならば北朝鮮武力を使わなくても優位に統一できるわけです。

4)韓国のなすべきこと

 日本では、そして韓国でも、今はこういう考えは絶対に認められないかもしれないけれど、戦争はいけない、平和が正しいと言っても、93年、94年の第一朝鮮半島危機のとき、確かに戦争になれば数十万人の人が命を失ったかもしれない、しかし逆に言えば、平和は保たれたかもしれないけれども、その後北朝鮮では独裁政権が続いたせいで、餓死者が300万人出たともいわれるわけです。それを考えたら、韓国よ、もし今行動しなかったら、北朝鮮のあの狂った政権を今倒さなかったら、未来の時代にあなたたちは同胞を見捨て、独裁者にほしいままに殺させた責任を問われるのですよ、と言いたいのです。

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 テレビでコメントする「専門家」とはかなり違う分析なので、驚いた方もいるだろうが、全体主義の本質をついた議論だと思っている。

(つづく)

2018-06-16 こだまでしょうか

 アメリカ米韓軍事演習をやめるというニュースが波紋を呼んでいる。

 米朝首脳会談の直後、トランプ大統領記者会見でこんなことを言っていた。

 「大統領選挙戦でも言ったように、在韓米軍を撤退させたい。米韓軍事演習は非常に金がかかる。やめれば莫大な金額を節約できる。韓国も負担しているが100%ではない。今後の交渉課題だ。グアムから6時間半もかけて爆撃機を飛ばして演習するのは恐ろしく金がかかる。こんなのはやりたくない。」「北朝鮮の非核化のコストは、韓国と日本が出す用意があるはずだ。北朝鮮に近いのだから。」

https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/press-conference-president-trump/

 トランプ氏の「アメリカファースト」というのは、目先の損得勘定中心のきわめて狭い「国益」のとらえ方にもとづくことがよく分かる。もともと、アメリカからはるか離れた朝鮮半島情勢には関心がない。核搭載ミサイルアメリカに飛んでこなければそれでいい。北朝鮮の非核化も、近い国がコストの面倒を見るべきでアメリカは関係ないと言っているのだ。

 日本の進むべき道を、こういう政権に「お任せ」するのが危険であることはいうまでもない。

 先週末、周防大島で知り合いになった人のFBを見ていて笑ってしまった。

「全ての選択肢はテーブルの上」といえば「全ての選択肢はテーブルの上」という

米朝会談の中止」を言えば「米朝会談の中止」という

米朝会談を行う」と言えば「米朝会談を行う」という

「最大限の圧力という言葉は使いたくない」と言えば「最大限の圧力という言葉は使いたくない」という。・・・

こだまでしょうか

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 先週のこと。カナダ先進7カ国首脳会議(G7サミット)で、日本と米国だけが、深刻化する海のプラスチックごみを減らすための数値目標を盛り込んだ文書署名を拒否した。環境団体からは「恥ずべきことだ」などと批判が相次いでいる。(共同)

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3392536.html

 また、こだまが聞こえる。

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(年間700万トンもが投棄されているというプラスチックごみは早急な対策が求められる)

 さて、対北朝鮮では、米朝会談に押される形で、いよいよ日本が独自に対応しなければならないところにきている。拉致被害者家族はじめ期待が高まっている。しかし、

 ラヂオプレスによれば、北朝鮮の国営ラジオ平壌放送は15日夜、日本人拉致問題に触れて、「日本はすでに解決された拉致問題を引き続き持ち出し、自らの利益を得ようと画策した」と伝えた。日本政府の対応について「無謀な北朝鮮強硬政策にしがみついている」とも主張した。》朝日新聞

 今後の具体的な交渉には、根本的な困難がいくつも待ち受けている。

(つづく)

2018-06-12 トランプのドヤ顔とシンガポールの夜景

f:id:takase22:20180613023300j:image:w250:left 米朝首脳会談では、トランプが金正恩を「いいやつだ」と褒めまくり、「非核化するようがんばります」というただの努力目標のような宣言をしたうえで、それがあたかもすごい成果のように演出する・・・こうなるんじゃないかなと思っていた通りの展開だった。トランプのドヤ顔ばかりが印象に残った。政治ショーの演出にしか関心がないようだ。

 トランプは会談後の会見で、金正恩を「才能がある。(権力掌握時)26歳で、タフに運営してきた人物はほとんどいない。1万人に1人だろう」とまで褒め上げた。金正恩がどれほど酷く国内の人民を虐げてきたかをまったく気にしていない。

 トランプは会談拉致問題も提起したなどと言っているが、たぶん「拉致もよろしく」と挨拶程度だろう。安倍首相はいつもトランプを持ち上げるが、トランプという人は支持者の人気取りと短期的な利害、名声を目指して感情的に動く人なので、すぐに掌を返すだろう。

 《非核化を巡る交渉の長期化が予想される中、トランプ氏が難題を先送りし、朝鮮戦争の終戦宣言合意のように「歴史的偉業」として目に見える成果を優先させる可能性が高まる。(略)会談結果は、圧力一辺倒だった日本の対北朝鮮政策を左右する。拉致問題への取り組みも含め、日本の外交は正念場を迎える》東京新聞12日夕刊、城内記者)この辺が妥当な評価ではないか。

 

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 今回の首脳会談で、「おや」と思ったのは北朝鮮メディアの報じ方だった。

 正恩氏ら一行は11日夜、宿泊先のセントレジスホテルを出て、シンガポール外相の案内で2時間、屋上にプールがあることで有名な「マリーナ・ベイ・サンズ」や、植物園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」などを訪問した。この様子を労働新聞は12日朝、写真14枚つきの1面トップで伝えた。

ウェブサイトに掲載されたのは7時過ぎ。過去に北朝鮮が深夜に行ったミサイル発射を労働新聞が報じるのは24時間以上後だったことを考えると、これまでにない速報ぶりだ。

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 記事の内容も異例だ。正恩氏は今回の観光スポット訪問で「シンガポールの社会・経済的発展について学んだ」といい、(略)正恩氏の発言を「マリーナ・ベイ・サンズの展望台から市内の夜景を楽しみながら、これまで聞いていたように、シンガポールが清潔で美しく、すべての建物がスタイリッシュだと述べた。さらに、今後様々な分野で、シンガポールの立派な知識や経験から多くを学びたい、と述べた」などと伝えた。正恩氏は「今回の視察を通じて、シンガポール経済的潜在性と発展についてよく知ることができた。シンガポールについて良い印象を持つようになった」とも述べたという。北朝鮮メディア資本主義国の経済について肯定的に伝えるのもきわめて珍しい。》

 たしかに、華やかなシンガポールの夜景と停電の多い北朝鮮の都市では大きな差がある。北朝鮮が国民に、資本主義社会の優位を見せることは過去にはなかった。これは全体主義体制の維持にとってどんな意味を持つのか。

 共産圏の崩壊は、ソ連共産党の中枢にゴルバチョフという全く異質なリーダーが出現して自ら共産党を破壊してしまったのがきっかけになった。金正恩北朝鮮ゴルバチョフになるとはにわかに信じられないが、今後の北朝鮮体制の変化を注視したい。

2018-05-25 いつでも米国と対話したいと金正恩

 月末を控えて、今週はお金の問題で呻吟していた。このところの資金繰りは、操業以来もっとも厳しいかもしれない。どうにもならないので、支払いの繰り延べのお願いをするしかない。心苦しいだけでなく、今後仕事を敬遠されるのではと心配になったり、なかなかストレスフルな作業である。

 こういうときは自然や生き物に目を向けるといい。

 

 今朝うれしいことがあった。メダカの孵化を確認したのだ。ゴマ粒より小さな赤ちゃんメダカが数匹元気に泳いでいる。やった!命ってすごいな。

 メダカの親は卵や稚魚を食べてしまうので、卵を産み付けた藻を別の容器に移しておく。孵ってから半年は親から話して育てるが、稚魚が大きくなるのを見るのが毎年とても楽しみだ。

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 出勤の途中、タチアオイを見た。毎朝通る家の前に、今年も桃色の花を咲かせはじめた。この花が咲くと、夏が始まったなと思う。陽光のなか、華やかである。

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 米朝首脳会談トランプ大統領が「やらない」と言いだしてニュースネタになっている。北朝鮮が同国北東部の豊渓里(プンゲリ)にある核実験場の坑道などの爆破を実施したと発表してから、数時間後のことだった。

 きまぐれな人だし、すべてをdeal(取引)と考える彼のことだから、単なる駆け引きかもしれない。むしろ北朝鮮の反応に驚かされた。トランプの中止宣言にとても驚いて、会談実現を懇願するかのようなトーンである。

 金正恩党委員長は首脳会談の準備にあらゆる努力をしてきた。一方的に会談の中止が発表されたことは、我々としては想定外のことで、大変遺憾」。また、「いつでも、どのような形であれ、対座して問題を解決する用意がある」とも言っている。北朝鮮の国営朝鮮中央通信(KCNA)が25日、伝えた金桂官第一外務次官の談話)

 こんどはトランプ大統領が、北朝鮮の反応について、ツイッターで、「北朝鮮から温かく生産的な発言が届いたのは、とても良いニュースだ。これがどこまでいくのか間もなく分かる。願わくば、長く持続的な反映と平和に。時間(と才能)次第だ!」と書いた。

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 金正恩もトランプも首脳会談をやりたがっていることははっきりしている。トランプ氏は米国政府機関にはやばやと首脳会談記念メダルを作らせたほどだ。しかし、このメダルには金正恩の肩書としてSupreme Leader(最高指導者)と書かれてあって、トランプ氏は北朝鮮の人権問題(これには拉致も含まれる)をどう受け止めているのか疑問になる。「会ったらいいやつだったよ」ではすまされない。

 トランプ大統領がまともな外交をやる態勢ができていないことを米国の識者が憂いている。国務省の高官が任命されていないだけではなく、まだ38もの国に米国大使を派遣していないのだ。大使不在の38か国には、欧州のドイツやスウェーデン、中東のトルコ、サウジアラビアなどの主要国、さらには肝心の韓国も入っている。アメリカファーストだから他の国はおれの言うことを聞いていればいいとでもいいたげな外交スタイル。トランプ氏にはこれからも振り回されそうだ。

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 日本大学アメフト部の危険タックル問題。加害者の宮川泰介選手の会見は、中継で見ていて、引き込まれた。飾らない言葉と目から真摯さが伝わってきて、非常にすっきりと問題の本質が露わになったと感じた。これでおしまい、である。

 その翌日、監督とコーチ、きょうになって学長と、次々に会見をやったがもう遅い。それにしても、テレビは怖いなとつくづく思う。表情の動きや声で、ウソをついているな、逃げようとしているな、とみな分かってしまう。

 国会ではモリカケ問題が、まだ「解決」していない。関係者から、宮川選手のように、顔出し実名で告白する人の出現を夢みるきょうこのごろである。

2018-05-21 惠谷治さん逝く

f:id:takase22:20180520174630j:image:w300:left アジサイが準備OKといいたげだ。花屋には紅花がならんでいた。

 節気は小満。あらゆる命が満ちていく時期、太陽を浴び、万物がすくすくと育つ季節だとされる。きょう21日から初候「蚕起食桑」(かいこおきて、くわをはむ)。26日から次候「紅花栄」(べにはな、さく)。31日からが末候「麦秋至」(むぎのとき、いたる)。農家が忙しくなる時期でもある。

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 惠谷治(えやおさむ)さんが昨夜亡くなったことを岡村隆さんのFBで知る。享年69。膵臓がんだったという。

 惠谷さんは早大探検部出身。ギニア高地などの探検、エリトリアやアフガンはじめ世界各地の戦場取材などで知られた人だが、私にとっては北朝鮮問題の取材で大変お世話になった先生である。惠谷さんが売れっ子になっていったきっかけの一つは私たちの番組だったと思う。まだ恵谷さんがあまりテレビに出ていなかった時期、私たちは恵谷さんに毎回のように番組に登場してもらった。二十番組ではきかないだろう。『北朝鮮「対日潜入工作」』(宝島社)では共著者としてご一緒させてもらった。

 ネット情報に頼らないアナログな方法で膨大な事実をこつこつと積み上げての緻密な分析は、他のジャーナリスト、研究者の追随を許さないものだった。惠谷さんとの思い出はたくさんある。北海道への出張をお願いしたこともある。2001年暮れ、海保の巡視船と銃撃戦の末、北朝鮮工作船が自爆した「九州南西海域工作船事件」が起きた。船橋を100発以上の銃弾に貫通され、3名の負傷者を出した海保の巡視船「あまみ」が小樽に巡回展示されたので、惠谷さんに分析してもらおうというのだ。多忙な惠谷さんに出張になるが大丈夫ですかと聞くと、「ぜひ行きたい、実はおれ、北海道には行ったことがないんだ」という。世界を駆けた惠谷さんだが、国内はあまり回っていないことに驚いた。取材では、「あまみ」の銃弾痕をじっと観察し、「使われた銃は3種類」だと断言、それぞれの銃器の種類を挙げたのだった。この取材には後日談があって、小樽の恵谷さんのコメントは使えないとテレビ局のプロデューサー に言われた。惠谷さんはそのとき、愛用のレイバンの濃いサングラスをしたまま解説していて、それが怪しすぎるというのだ。ビデオを再生すると、たしかに怖い。サングラスのまま撮影した私のミスだった。そこで「あまみ」が横浜に来たときに再び恵谷さんに登場願って、コメントをいただいた。もちろん今度はサングラスは外してもらって。

 世田谷区赤堤のお宅にも何度もうかがってレクチャーを受けた。恵谷さんの仕事部屋は本と資料、どこかの戦場で拾ってきた薬きょうなどの珍品が部屋の周囲に積み上げられており、独特の空間だった。2時間も話し込んでいると、奥さんとお嬢さん(長女)が外に出ていく。2階建てアパートでスペースはさほど広くないので、我々のような客がいると息苦しいのだろう。追い出してしまったようで申し訳ない思いをした覚えがある。

 惠谷さんの分析に感心させられたことは数知れないが、彼は北朝鮮の軍事的実力を決して過小評価していなかった。世界の最新の技術を取り入れられなくとも、スカッド、ノドン、テポドンとほぼ独力で開発してこれたのは、根気よく泥臭く基礎的な技術を組み合わせてきたからだという。最近では、北朝鮮ミサイル開発のスピードが急速に上がっているとの指摘http://news.tbs.co.jp/newsi_sp/shinsou/archive/20170607.htmlや、増加する北朝鮮の漂着船の帰属を3種類に分け、工作員の浸透とは関係ないと結論づけた記事https://www.sankei.com/premium/news/180303/prm1803030016-n1.htmlなどが惠谷さんらしい。

 また、物事の本質をズバッと一言で言い表すのも痛快だった。「日本人は奇特な国民で、将来、北朝鮮と国交を結んだら巨額の資金援助をすることを、ほとんどの人が当然と思っている。これが北朝鮮に対する日本の最大の安全保障なんだよ」。なるほどなあ、と感心させられる。

 惠谷さんは、かつてテレビ番組の制作会社を友人とともに立ち上げた。ところがすぐに辞めてしまう。理由を聞いたら、「だんだん会社を維持するために働いているようになってきて、これは自分の求める道ではないと思った」とのこと。フリーは大変であることは知っているが、ちょっとうらやましい気もする。会社を維持するために働く私としては。

 世間の風向きに左右されずに、自分のスタイルを持っていた人で、一人になっても言うべきことは主張した。かっこいい人である。両切りピースの吸い口をトントンと箱に叩きつけて、実にうまそうに吸っていた。あまりにうまそうで、一時真似して私も両切りピース党になったものだ。

惠谷さんとは実は北朝鮮問題からではなく、探検部―日本観光文化研究所―地平線会議のラインで知り合った。25年ほど前、かみさんと一緒に銀座線に乗っていたとき、たまたま同じ車両にいた惠谷さんにかみさんが気付いて私を紹介してくれたのが初対面だ。かみさんは観文研の事務局にいた関係で、早大探検部OBの恵谷さんを知っていたのだ。

 北朝鮮問題で教えられもし、また一緒に遊んでもらい、ほんとうに感謝している。以下は、法政大学の探検部のOBである岡村隆さん(月刊『望星』前編集長)がFBに出したお知らせだ。ご冥福を心よりお祈りします。

※これまでの経緯について

 昨年3月に膵がんが発見され6月に手術、一時は回復し仕事を続けるも年末にいたって肺などへの転移が認められ体力が低下。しかし3月の準備を経て5月の連休には伊豆大島での早大探検部三原山火口探検50年の行事に参加、三原山登山も果たしたほか、かわぐちかいじの長編漫画『空母いぶき』の原作制作、月刊誌記事執筆、北朝鮮研究の会合参加を続け、拓殖大学でのシンポジュウムにもパネラーとして出席した。その後5月15日に容態悪化し入院、5日後の20日、親戚縁者や早大探検部OB、関野吉晴ら友人の見舞いを受け、会話不能ながら頭脳は覚醒した様子であったが、夜半にいたり心停止した。