あれぐろ・こん・ぶりお 2楽章

備忘録も兼ねて。日記なんて小学生の時宿題で課された1年間しか続かなかったのですが、負担にならないように書けば続くものですね。

大田昌秀 編『沖縄鉄血勤皇隊』

沖縄鉄血勤皇隊

沖縄鉄血勤皇隊

 今年の6月12日に亡くなった、大田昌秀の最後の著書になる。
 奇しくもこの本の初版は6月12日であり、満92歳の誕生日でもあった。
 自分にとって、大田昌秀という人物は沖縄県知事としての記憶からスタートしているけれど、琉球大教授としての研究者としての側面や(知事退任後は)参議院議員として想起する人もいるかも知れない。
 とはいえ、いずれにおいても大田昌秀の「思想と行動」の原点に鉄血勤皇師範隊の従軍経験があり、その後の70余年の人生は、沖縄戦で命を落とした学友たちへの鎮魂と平和への祈念にとどまらず、平和への実践において第一線で立ち続けた人物であったと思う。
 別のところで他の人が書いていたが、言うだけで行動に結びつかない、あるいは、その行動が現実から遊離している学者がいる中で、学者として発言し、そこに理念を描きつつ、政治家として、行動した希有な例だろう。沖縄を取り巻く環境は特殊である。日本政府や国際社会によって(やむを得ない側面がありつつも)ある種の「既成事実」が積み重ねられていく中で、歴史認識や安全保障上の問題に対して、平和への理念をどう現実化していくか、という構想力とバランス感覚も備えた人物であったように思う。
 沖縄戦に関する著作は多く出ているが、「ひめゆり部隊」に対して「鉄血勤皇隊」はまとまった著作が極端に少ない。ひめゆり部隊に代表される女子師範学校や女学校の生徒たちに対して、鉄血勤皇隊は旧制中学校の生徒たちが沖縄戦に際して動員された組織だと言うことは分かっては痛けれど、それ以上のことは余りよく分からなかった。本書は鉄血勤皇隊の最後の生き残りの一人として、また、アカデミズムに身を置いた人間が書いたものとして、現在、手にすることが出来る唯一の著作とさえ言えるかもしれない。
 改めて書くが、鉄血勤皇隊は沖縄各地に存在した旧制中学(今でいう中学〜高校に相当する)や師範学校の(男子)生徒で組織された沖縄戦の防衛部隊である。当初は弾薬の運搬や各部隊の通信係を任務とし、沖縄守備隊の補助的役割であったが、戦況が悪化するにつれて、軍と行動を共にし、場合によっては爆弾を背負いアメリカ軍に突進していったこともあったようだ(事実上の玉砕だろう)。
 本書は、それぞれの鉄血勤皇隊がどのように組織され、どのような任務に就き、どのように戦い、最期を迎えたのかを一般化することなく記録する。戦闘の記述際して、個人名を明らかにしながらその最期を説明する箇所などは、さながら墓碑銘のようである。
 その意味で、一般書でありながら、全体像がメタレベルで整理され、分かりやすい本であるとは言えない。しかし、読み手であっても大田の深い鎮魂と学友への想いを感じさせずにはいられない。これを読むと、戦争の犠牲を数で表さざるを得ないのであるのは分かりながらも、一方で、一人ひとりの人間の生というものを改めて認識する一冊でもあった。