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Tr,平居の月曜プリント

2017-12-16

震災後の「命の森」・・・ラボ・トーク第9回

 昨夜はラボ・トーク(→説明)第9回だった。今回の話者は、石巻専修大学准教授、環境調査、生態系保全修復技術の専門家・玉置仁(たまきひとし)先生。2006年に文部科学大臣による若手科学者賞を受賞したという、石巻専修大学の誇る気鋭の学者である。演題は、「命の森を海に蘇らせるために・・・ −藻場(もば)における震災の影響と修復への展望−」。

 忘年会シーズンの週末で集客が懸念され、実際、常連の高校教員が総崩れとなる中で、珍しく当日キャンセルが一人も出ず、定員(一応20名)どおりの人数が集まった。ラボ・トーク史上初となる女子大生2名の参加もあって、場はそれなりに盛り上がった。

 さて、先生のお話は、主に牡鹿半島界隈で東日本大震災後、命をはぐくむ藻場や干潟がどのように変化してきたかを、毎月一回自ら海に潜っては調査してきた報告が中心であった。大きく分けて性質の違う二つの場所、すなわちアマモが生える藻場と、アラメが生える岩礁性藻場について調査した結果、津波アマモが根こそぎ流された藻場では、6年かけて徐々に元の状態が回復してきたが、一方、根がしっかりしているアラメは、津波による影響をほとんど受けなかった。ところが、その地域に住むウニが流されてしまった。ウニはアラメなどの海藻類を餌としている。その結果、逆にアラメは増え、震災から時間が経ってウニが戻ってくることで、その後退が始まった。しかも、被災地地震によって1mほどの地盤沈下が起こった。そのため、水深が深くなった海は水流が弱まり、震災前よりもウニが増える傾向にある。当然のこと、アラメは減る。つまり、藻場に表れた「震災被害(減少)→回復(増加)」という当たり前のパターンと違い、岩礁性藻場におけるアラメは「震災→増加→減少して原状に復帰もしくは更に減少」というパターンで変化しているのである。なるほど、これは思いもよらなかったことだ。大きな環境変化が生じた場合、それによる影響というのは、一つ一つの生き物の特性に応じて表れ、しかもそれが連鎖反応を起こすため、なかなか計りがたいのだ、ということがよく分かった。

 ところで、ラボで専門家のお話を聞いていると、「余談」とも思われる部分に、その分野について無知な素人にとって専門分野に関するお話以上に面白い発見がある、ということをよく経験する。例えば、前回、及川先生については、博物館内で発生した問題がなぜ外部に対して秘せられるのか(→その時の記事)、前々回、國分先生については、出版業界の裏話というか、翻訳のあり方をめぐる出版社の姿勢の問題(→その時の記事)、といったことである。そして今回も、同様のことがあった。それは、自然環境の調査をするためにはお金がかかるが、申請して認められた研究に国から与えられる科研費(科学研究費補助金)は基本的に3年間、最大でも5年間しか交付されないので、10年といったスケールの追跡調査というのはほとんどない、というお話である。

 自然界において10年というのは一瞬である。もちろん3年も観察すれば十分だという事象もあるだろうが、10年でも短いという事象は決して少なくないだろう。それが、競争的資金の制限によって実現しないというのは、実に困ったことだ。単に期間の問題だけではない。そもそも、国が研究の価値を正しく評価できるかどうか、ということについて、私は非常に懐疑的だからだ(→参考記事)。やはり、不安定な上に手続き的にも非常に面倒な競争的資金頼みではなく、一律に交付される研究費でそれなりの研究が維持できるようでないと、学問は底の浅いものになってしまうに違いない。

 次回は2月。「写真界の芥川賞」たる木村伊兵衛写真賞受賞(2007年)の写真家志賀理恵子さんが登場!乞うご期待。