ミスマッチは防げるか?

 高卒で就職した生徒の定着率が悪い、言い換えれば離職率が高い、という話はよく耳にする。いやいや、高卒だけではないぞ、大卒でも同じだ、という話もよく聞く。
 ところが、厚生労働省が出している統計「学歴別卒業後3年以内離職率の推移」なるものを見てみると、高卒者の離職率というのは、最近とみに高くなった、というわけではない。平成10年代前半に50%前後で推移していたものが、むしろ最近は40%程度まで下がった、という感じだ。昭和までさかのぼっても、40%台の半ばだから、この数年は立派なものだ。大卒だと30%強で、やはり平成10年代前半と比べると5%程度下がっているが、大卒の場合は、昭和までさかのぼると今よりも離職率が低い。とは言え、その差は5%未満だ。つまり、相対的に見ると、決して最近の離職率は悪くない。
 しかしながら、悪くないのはあくまでも「相対的に」である。やっとのことで就職して、3年以内に40%以上も辞めるというのは、決していいとは言えない。「絶対値」として高い、と思う。
 先週、ある進路コンサルタントのような人が勤務先の高校に来て、2年生を相手に1時間弱の講演をした。その中で語られたのは、高卒の離職率が高い、それは仕事と自分とのミスマッチによるのではないか、高校生は見えている範囲が狭いので、もっともっと努力して仕事調べ、大学調べをするべきである、ということである。そして、7月半ばにその人の会社が仙台市内で開く進路相談会への参加を訴えた。
 昨年まで、水産高校で就職担当をしていた都合で、確かに「離職」は頭の痛い問題だった。なぜたった3年で4割もの卒業生が辞めるのだろう?どうすればその数を減らすことが出来るのだろう?と考え、会社調べをもっとまじめにしろとか、出願前には必ず会社訪問に行けとか言ったりしていた。しかし、最近、本当にそんなことで離職率って下がるのかな?と思うようになってきた。私が考える離職の理由は以下の二つだ(両者は密接に関係する)。

・我慢が足りない。
・その仕事の面白さを見付けようという発想がない。

 どんな仕事でも、事前にどんなに調べたとしても、仮に2〜3日の職場体験をしたとしても、いや、半年以上その会社でアルバイトをしていたとしても、いざ正社員として会社に入ってみると、「思っていたのと違う」ということは必ずあるだろう。何かしらの事情で、希望していない部署に配属されることなども珍しくない。
 「思っていたのと違う」から辞める、となったのでは、なかなか仕事を続けることは難しい。思っていたのと違っても、多少は我慢をして続け、その仕事の面白さを見つけ出していこうとすること、職場の人たちと上手く付き合っていこうとすることは大切だ。辞める卒業生たちに決定的に欠けているのはその意識だ。
 学校が、ミスマッチを防ぐために調べなさい、と騒げば騒ぐほど、就職・進学して「思っていたのと違う」と思った時に、「まだ調べ方が足りなかったのだ」と思う可能性は高まる。すると、「じゃあもう一度会社調べをして、今度こそミスマッチではない就職をしよう」と考えるしかない。本当にそんな問題なのか?
 私も、事前の調べ学習が不要と考えるわけではない。だが、少なくともそれこそがミスマッチを防ぐ決定的に有効な方法だ、という誤解は与えないようにしなければならないのではないか?同時に、学校の教員や進路コンサルティング会社のようなところの人たちが、生徒にあれもこれも与え、自分の生き方を考えることを強制し、手取り足取り面倒を見ることは、「思っていたのと違う」と感じた時に、では「その仕事の面白さを見付けよう」という能動性を削ぐことになるのではないか?つまり、ミスマッチによる離職を防ごうとする「指導」によって、逆に離職が増えているということはないのだろうか?
 親が結婚相手を決めたり、形式的な見合いで結婚していた時代が、恋愛を中心として当事者が相手を決める時代に変わったが、離婚率はむしろ高くなっている。昔は女性がひたすら耐えていた、というだけの問題ではないだろう。