修学旅行(3)・・・USJの裏番組

 3日目、バスで着いたUSJはごった返していた。教員は特別することがない。巡回指導ということにはなっているが、ただ園内をうろついていても何になるわけでもない。私以外の教員は自分の携帯電話を持っている上、担任には旅行用のレンタル携帯まで貸与されている。ホテルの部屋にはまだ入れないが、待機するための部屋は確保する、ということだった。
 私は、この日は動けないものと覚悟して、勉強道具を沢山持って行っていたので、待機部屋で勉学に励むことにした。
 ところが、「平居先生、あんまり気にしなくていいですよ」と言ってくれる人がいたりするものだから、だんだんバカバカしくなってきた。そんな折、ある教員が、「近くに渡し船があるの知っています?USJから海遊館に行く観光用の立派な船ではなくて、本物の渡し船ですよ」と入れ知恵をしてくれた。私はにわかにその渡し船を見に行きたくなった。聞けば、船着き場まで歩いて15分ほどだと言う。
 近くにいた教員に断って、小旅行に出かけることにした。具体的な場所は知らないが、渡し船と言うからには、安治川沿いに歩いて行けば必ず見つかるだろう。実際、15分ほど歩くと「←天保山船場」と書かれた看板があった。行くと、自転車の人を始め、15人くらいが待っている。この時11:32。待合室の時刻表どおりなら、11:30の船が出た直後のはずだが、幸い、船が遅れているらしい。間もなく、対岸から小さな船がやって来た。(時刻表の11:30は対岸を出るときの時刻であると後で気づいた。)
 安治川の河口部には湾岸線という高速道路の橋が架かっている。しかし、あくまでもそれは自動車専用道路だ。徒歩や自転車の人が渡れる橋はと言うと、4㎞近く遡らなければならない。河口部は大型船も出入りしている。橋を架けるとしても、相当な高さが必要だ。こうなると、橋を架けるよりは渡し船を維持した方がいい、ということになるのも不思議ではない。
 無料である。がらんとした船室はただの空間で、椅子の一つもない。この時の利用者について言えば、半分以上は自転車利用者なので、その方が使い勝手がいいのだろう。対岸まではわずかに5分である。USJ、海遊館やそのまわりの工場群、川を行き交う船、湾岸道路の巨大な吊り橋がよく見えて楽しい。天保山公園のすぐ隣に着く。面白いことに、どちらの船着き場も同じ名前「天保山船場」だ。南岸が「天保山船場」なら、北岸は「桜島船場」であるべきなのに・・・。
 天保山公園には、「明治天皇観艦之所」と書かれた巨大な石柱があり、その隣には三角点がある。これは標高4.53mの二等三角点だ。隣に「日本一低い山」と書かれた看板が立っている。これが本当に日本で一番低い山なのか?そもそも「山」とは何か?という点にはいろいろと問題があって、論争にさえなっているという話は知っていた。しかし、和気藹々と三角点を囲んで写真を撮っている老人グループなどを見ていると、「日本一低い」と思ってみんなが楽しめるのなら、真偽に関する論争なんてどうでもいいじゃん、という気になってくる。
 他にも、公園内には、昔の天保山付近を描いた浮世絵を掲げるモニュメントのようなものなどあって興味深いのだが、いかんせん、スマホを片手にうろうろする人が多すぎる。「ポケモンGO」だ。特別なキャラクターが出現するスポットになっているらしい。久しぶりで見たような気がするが、決して見ていて気持ちのよい光景ではない。
 30分後の船で、再び桜島(USJ)側に渡る。今度の乗客は5人、自転車は2台だった。そのままホテルに戻る。
 午後、またお勉強、と思っていたら、今度は某先生が、部活で必要なものを入手するために梅田に行く、なかなか置いている店がないのだ、と言い出した。私は思わず「一緒に行っていいですか?」と声を出してしまった。これほど正当な大義名分も珍しい。梅田には、大阪で私が最も好きな場所=阪急電鉄梅田駅があるのである。これを見ずに大阪を離れるのは本当に残念だなぁ、と思っていたのだ。某先生と一緒にJRで大阪に出る。JR大阪駅のある所が梅田であり、私鉄や地下鉄の駅名は全て「梅田」である。
 某先生のお買い物に付いて行った後、ちょっとだけ一人外れて阪急梅田駅に行った。感動した。相変わらずぞくぞくするほど美しい。合理性、機能性の持つ美しさと、単純なものを徹底的に磨き上げた美しさに満ちている。いくら見ていても飽きない。かつて阪急電車や梅田駅について書いた(→こちらこちら)時には、梅田駅を「日本で一番ヨーロッパを感じる場所」と表現したのだが、それはまるでヨーロッパに追いつくことをよしとするような卑屈な表現だったと反省している。他との比較を超越して、阪急梅田駅と阪急電車には絶対の美がある。
 阪急梅田駅に感動すると、今度はどうしても神崎川の鉄橋を渡りたくなってきた。阪急電車が複々々線(神戸線宝塚線京都線並走)で神崎川を渡る様は、なかなかの壮観なのだ。梅田から2駅目の十三(じゅうそう)までだけ往復することにした。う〜ん、やっぱりいいなぁ。
 十三駅の東口近くでは、格安切符の自動販売機を見つけた。金券ショップで新幹線や飛行機の安い切符を買えることは常識だが、わずか200円や300円の切符で、割引切符が売られているというのは驚きだ。こんなところにこそ、私は「大阪」を感じる。
 その後はUSJに戻り、人波にもまれながら園内を「巡回指導」した。これだけで1日終わったら、いくらお仕事とは言え、なんとも空しかったことだろう。渡し船と某先生の買い物に救われた1日だった。(おそらく完)