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Tr,平居の月曜プリント

2018-05-10

「逆接」の働き

 国語の授業をしていて、いつも気になっていることがある。私にとってはごく当たり前のことなのだが、どうやら他の人にとっては全然当たり前のことではないらしいぞ、ということをいよいよもって強く感じるので、書いておこうかと思うようになった。それは、「逆接」とは何か?ということである。

 授業中、たとえば「しかし」という言葉が出て来たとして、その性質を生徒に尋ねると、「逆接」だと言う。確かにその通り。では「逆接」って一体何なの?と尋ねると、「内容的に逆のものをつなぎ合わせる言葉」と答える。誰に聞いても似たり寄ったり。言葉は多少違うが、ほぼ同じことを答える。どうやら小学校以来、そのように教えられてきたらしい。あながち間違いとは言えない。例えば、権威ある辞書の「逆接」についての記述を見てみよう。生徒の答えより小難しい言葉で、基本的には同じことが書いてある。

「一個の文、または連文節を、矛盾、対立する要素があるものとして結び付ける形式。」(小学館日本国語大辞典』新版)

「文または句の接続の仕方の一つ。後続する句または文の内容が、先行する句または文から予想・推論される内容と異なっているような場合の接続」(岩波書店広辞苑』第七版)

 申し訳ないけど、私は生徒の答えについて「そんなのはデタラメだ!」と声を荒げた上で(笑)、次のような例文を黒板に書く。

 A)○○君は全く勉強が出来ない。しかし、とてもいい人だ。

 B)○○君はとてもいい人だ。しかし、全く勉強が出来ない。

 「AとBがまったく同じ内容だと思う人手を挙げて」と言うと、まず間違いなく、誰も手を挙げない。次に、「自分が○○君だとして、人から言われるとしたらこちらがいいな、と思う方に手を挙げて」と言うと、ほとんどの生徒はAに手を挙げる。

 逆接続詞「しかし」を挟んで、否定的なことと肯定的なことが書かれている。その意味で、確かに「しかし」は「内容的に逆のものをつな」いでいる。だが、単に「つなぐ」というのであれば、1+3=3+1のように前後を入れ替えても、内容的には変化しないはずである。ところが、AとBが同じ内容の日本語には見えない、ということは、「しかし」の働きが、単に「つなぐ」というだけではないことを意味するだろう。

 自分が言われるとしたら、という質問で、ほとんどの生徒がAに手を挙げるということは、Aの方が「全く勉強が出来ない」よりも「とてもいい人だ」がよりいっそう聞き手に伝わるからである。人間は誰しもほめられるのが大好き。そう、「しかし」の働きは、後を強調するということなのだ。文章を読む上でこれはとても便利な知識であり、大切なことなのではないだろうか?それに比べれば、内容的に逆のものを結び付けるという働きなど些細であり、「しかし」の機能として意識する必要などないほどのものである。

 文章は前から後に向かってスムーズに流れるのが基本である。その基本に逆らって、あえて矛盾・対立する要素を持ち出すためにはエネルギーが必要だ。それだけのエネルギーを費やしてでもそれらを持ち出そうとし、その前触れとして「しかし」を使う。そのエネルギーこそが、強調の作用を生む。それが「逆接」の働きであり、論理だ。

 少なくとも、私は「逆接の働きは後を強調することだ」とばかり教えている。それがニッコクやコージエンに書いていないから間違いだと言うのなら、平居は国語教師失格。「やっぱりな・・・」でおしまい。ちゃんちゃん。

 

おせっかいおせっかい 2018/05/12 10:18 平居先生、
いつものおせっかいをお許しください。
例文A),B)は勉強=小価値・性格=大価値を前提に、「不勉強」=−1と「いい人」+3の逆接結合ですから、1+3=3+1ではなく、−1+3=3−1でしょう。結果的には同様の等式になりますが、キモは「甲〈逆接〉乙」の文では日本語の一般論に従い、乙が「結論」になること、また−1から付価して2になる方が3から減価して2になるより「うれしい」という心理にありそうです。
キモの前半は食堂について、a「高いがうまい」→行く、b「うまいが高い」→行かない、が普通で、文の効果としてはa=bの等式は一般的に成り立ちません。
キモの後半はしばしば叱り方教室(教員も結構参加する由?)で「殴るのは不可、しかし君のファイトはすばらしい」型と「君はファイトがあっていい、しかし殴っちゃダメ」型を対比して傾向的に前者を推奨しているのと同様です。
なお、本文中にある「申し訳ないけど、私は生徒の答えについて……」の「逆接」の接続助詞「けど」はまた別の日本語特有の用法ですね。

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