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アスペ日記

2018-01-12

ドヌーヴ「女性を口説く権利」誤訳指摘

(2018/01/12 15:44 追記)「カトリーヌ・ドヌーヴを含め100人の女性が主張したこと」というよりよい翻訳が出ていて、そちらにはここで指摘したような問題はありません。そちらを読むことをお勧めします。




ドヌーヴ「女性を口説く権利」 全訳ですが、ブコメにもあるように誤訳があり、中には大きなものもあるので、限られたフランス語力ではありますが、指摘しておきます。指摘に間違いがあれば再指摘をお願いします。




性暴力は重大犯罪だ。(Le viol est un crime.)

"viol"は「レイプ」です。


ナンパはしつこかったり不器用だったりしても犯罪ではないが、そのことがマッチョの侵害行為を保証することにはならない。(Mais la drague insistante ou maladroite n’est pas un délit, ni la galanterie une agression machiste)

まず、"galanterie"を"garantie"(保証)と間違えていますね。"galanterie"は日本語に訳すのが難しい単語ですが、「男性の女性に対する親切(往々にして下心あり)」的なものです。また、後半は"est"が省略されています。直訳すると、「しつこい/不器用なナンパは犯罪ではなく、女性への親切もマッチョの攻撃ではない」です。


いわゆる普遍の名の下で (au nom d’un prétendu bien général)

"général"は"prétendubien"を修飾しています。「…という一般的な建前でいわゆる公益の名のもとに」という感じでいいんじゃないでしょうか。*1


「豚野郎」たちを屠殺場へ送り込むこの熱狂だが…

この段落は構文が取れていませんね。原文を残しつつ訳し直すと、次のようになります。

「豚野郎」たちを屠殺場へ送り込むこの熱狂だが、女性が自立することを手助けするには程遠かった。 実際には、これで得するのは、性の自由の敵、宗教的過激主義者、最悪の反動主義者、また本質的な善という概念とヴィクトリア朝モラルという名の下に、女性は「別扱い」の存在で、保護してくれと要求する大人の顔をした子供であると考える人たちだ。


スイスで提出されている法案 (un projet de loi en Suède)

ブコメで指摘がありますが、「スウェーデン」です。


さらにご苦労なことがある。二人の成人が一緒に寝たいと思ったら、携帯のアプリを使って、あらかじめ正式なリストのチェック欄を見て、やりりたいこととやりたくないことに印をつけなければならないというのだ!(Encore un effort et deux adultes qui auront envie de coucher ensemble devront au préalable cocher via une « appli » de leur téléphone un document dans lequel les pratiques qu’ils acceptent et celles qu’ils refusent seront dûment listées)

これは致命的なミスです。"Encore un effort et ..."というのは、「この調子でいけばあとちょっとで」という意味です。「この調子でいけば、…ということになるだろう」ということで、法案がそうだというわけではありません。


トラウマを植え付けられたと感じる必要はない(原文略)

"à jamais"(永遠に)が落ちています。


評判だおれ (non-événement)

よくわからない訳語選択です。「たいしたことのないこと」あたりでいいでしょう。


力の乱用を超えて (au-delà de la dénonciation des abus de pouvoir)

"dénonciation"(糾弾)が抜けています。「力の乱用に対する糾弾を超えて」です。


たとえそれが辛く、生涯残る傷を残すものだったとしても、身体を傷つけられる事故にあった女性は尊厳を傷つけられないし、傷つけられるべきでもない。(Les accidents qui peuvent toucher le corps d’une femme n’atteignent pas nécessairement sa dignité et ne doivent pas, si durs soient-ils parfois, nécessairement faire d’elle une victime perpétuelle.)

全体的にちょっとよくないので訳し直します。

女性が事故によって体を傷つけられたとしても、それは必ずしも尊厳を傷つけられたことを意味せず、またそれらの事故は時にはとてもつらいものであるが、それでも事故に遭った女性を永遠の被害者にするようなことがあってはならない。




誤訳指摘はここまでです。とても読みにくいと思うので、本文に反映してもらえたらと思うのですが、それは元の書き手次第ですね。


ここから少し、なぜこの誤訳指摘をしたかについて書きたいと思います。興味のある方だけどうぞ。


ネット上での出来事に詳しい人なら覚えているかもしれませんが、私はこれまで、「善意のひどい訳について」、「腐った翻訳に対する態度について」といった記事で、ひどい翻訳を糾弾してきました(後者の件では、結局非公式PDF版SICP・新訳として自分で訳し直しています)。

これで人を萎縮させるつもりはなかったのですが、残念ながらそのように受け取られたかもしれません。この前、TLで次のようなツイートを見ました。



「誤訳のある翻訳をするとすごい叩かれる」という恐れができているとしたら、それは残念なことです。

では、なぜ上記の記事では翻訳を徹底的に糾弾したのか。

それは、それらの翻訳が本当に、例外的にひどかったからです。

構文という概念がなく、拾った単語を適当にくっつけているとしか思えない、翻訳と称する何か。

どうしてこんなことになったんだ? という思いから、また「この翻訳を信用してはいけない」という警告の意味も込めて、そのような強い言い方になりました。


今回の翻訳は、まあ普通レベルです。

すべてを一から翻訳し直さなければいけないほどの惨憺たる翻訳というわけではなく、この翻訳のおかげで大意が取れて助かっている人もいるでしょう。

訳した人はそれなりにフランス語ができる人で、自分でもレベルを把握しているのではないでしょうか。

そういう人に強い言葉を使う必要はありません。


本来、こちらのほうが当たり前です。

全体としてそれなりの訳文の中にいくつかの間違いがあれば、それを指摘して、それでおしまいです。

私はそういうこともしています。

ただ、そういうのは目立たないので、人目に触れるのはどうしても「マサカリ」だけになってしまいます。

それによって「翻訳を出すとボコボコにされる」というイメージがつくのは残念なので、今回は「普通の誤訳指摘」を公開でしてみました。

(もちろん、誤訳を直すことで役に立てればという気持ちもあり、ついでにアフィでも貼ろうとかいう気持ちもあります)


また、結果的にマサカリを投げることになった相手も、必ずしもずっとそうであるとは限りません。

善意のひどい訳について」でマサカリを投げた相手のid:ymotongpooさんは、その後「Go 2にむけて」という翻訳記事を出しています。

やはり構文を取るのが弱いところはあるのですが、それでも全体としてはそれなりに訳せていました。間違っているところは、修正のプルリクエストを二回(#2#8)出して、取り入れてもらいました。


そういうわけで、翻訳を出しても「よっぽど」でなければ(少なくとも私に)叩かれることはないこと、また仮に「よっぽど」な翻訳を出してしまったとしても、投げられるマサカリは人に対するものではなく訳文に対するものなので、それを糧にしてほしいということ、というのが言いたかったことです。また、自分の翻訳が「よっぽど」かどうかに自信がなければ周囲の人に見てもらうというのもいいと思いますし、何なら私もお手伝いします。

どんどん翻訳していきましょう。


最後に、フランス語のおすすめ教材を貼ります。


フランス語リアルフレーズBOOK」は、砕けた言い方が多く収録されていて、表現の幅が広がります。


現地収録! フランス語でめぐるPARIS」は、フランスでの日常会話をそのまま収録したような本で、リスニング練習にいいでしょう。

*1ブコメで指摘があり修正しました。ありがとうございます。

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