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来年度の情報セキュリティで教科書を復活させるべきか

新版暗号技術入門 秘密の国のアリス

新版暗号技術入門 秘密の国のアリス

(当日18:50ごろ修正:別の本を表示させていました.すみません.)
Amazonで買えるようになっていました.『数学ガール 上 (MFコミックス フラッパーシリーズ)』と一緒に,購入しました.
旧版のほうは,2004年度から3年間,情報セキュリティの授業で教科書として使用してきましたが,その本1冊では,自分が授業で取り上げたい(学生に理解してほしい)ことの半分程度になることがわかりまして,それと自習に授業終了後に,活用が難しいなと感じまして,2007年度から外しました.
新版をざっと読みまして,旧版に比べて図が増えましたが,

  • 鍵配布センターによる鍵配送問題の解決(pp.109-110)でman-in-the-middle攻撃を考慮していない*1
  • RSAの鍵生成で,E×D mod L = 1という式から(E, Lが既知で)Dを求める効率のよい方法が書かれていない

の2点については変更なしです.まあいずれについても,多く方々によるレビューで見過ごすわけはなく,著者の判断で書かないことにしたのでしょう.自分の授業では,面白い所だし,後者は拡張ユークリッドの互除法として有名な話なので,取り上げています.
ということもありまして,現時点では教科書復活は保留中です.シラバスを書くのは年明けですので,またそのときに考えるとします.
ついでなので,情報セキュリティと工学とのかかわり,学科授業における情報セキュリティの科目の位置付けについて,整理してみました.ポイントは3つで,

  • 情報理論,情報ネットワークI,情報ネットワークIIの学習内容を踏まえて*2,安全に情報をやりとりする技法を学ぶこと
  • たいていの場合,状況を適切に定めれば,そのニーズを満足する技法が存在すること(自分で作る必要はなく,しばしばそれは「先人の知恵」よりも安全性などが劣ること)
  • 基礎となる技法が安全であっても,それを用いたシステムが安全であるとは限らないこと

だと考えています.最後の項目は,「暗号化の反対は復号化ではなく復号」と同じく,学生時代に叩きこまれました.

*1:個人的経験ですが,情報セキュリティの中でも暗号プロトコルの研究をしていた90年代半ばの段階でも,man-in-the-middle攻撃…という表現だったかは別として…に対して安全なプロトコルを設計すべきだという主張を見かけたことがあります.

*2:情報セキュリティの学習内容を踏まえて,学ぶという科目はありません.