わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

アックとアクセプト

「先生,あの…」
  「はい何でしょう」
「先日投稿した件ですが,主催の方から受理しましたとメールが来ました」
  「ふむ,了解…えっとちょっと待って」
「はい?」
  「受理!?」
「はい…受け取りました,みたいな内容で」
  「だよなあ」
「…それが何か」
  「えっとですね,研究者が『受理』という言葉を使うときは,単に『受け取った』以上のことを意味するんですよ」
「はあ…」
  「『受理』というのは,その原稿が,学術論文に値するものとして掲載可ですよというのを表すんです」
「…」
  「今回は確か,査読付きですよね」
「はい.そのサドクってのも何か,よく分かっていないんですが」
  「『査読』は,研究者間だけの用語かな.審査のことです.その原稿が,そこの学会なり,今回はシンポジウム発表という形ですが,そこでの出版物…予稿集と言いますが…そこに載せていい内容かどうか,時間をかけて,内容をチェックしてもらうんです」
「時間,ですか…」
  「確かスケジュールが出てたよね? 採択結果が来るのが,1か月半ほど先,だったような」
「『採択』と,『受理』ってのは,違うんですか?」
  「ええっと,そこは,おんなじ意味と思ってください」
「はあ」
  「英語ではacceptと言います.ちなみにその反対はrejectで,『棄却』とか『却下』とか言います」
「採択まで,僕は何かすることがあるんでしょうか?」
  「うーん,直接先方に働きかけるってわけにはいかんけど,しかしまあ,ぼおっとするわけにはいかないね.通ることを見越して,カメラレディ原稿を出せるよう,内容を充実させたいところです」
「分かりました.ところで最初の…僕が今日受け取ったメールが,『受理』じゃなかったら,何て言えばいいんでしょうか?」
  「そこはね…『受け取り』かな.どうしても熟語にしたければ,『受領』という言葉を,聞いたことがあります」
「『受理』と『受領』って,紛らわしいですね」
  「まあね.英語では,ACKと綴って『アック』と言います」
「アック?」
  「聞いたこと,ない?」
「ええ…思い出せないです.辞書に載ってます?」
  「あとで辞書で引いてみるのもいいけど…ネットワークの授業で,間違いなく出てくるはずなんだけど.SYNとかACKとか」
「あ! 思い出しました.TCPの」
  「そうです.あのACKは,受け取りましたってことを意味する情報ですね」
「はい」
  「それをこうした学会投稿に流用するんです.もちろん主催者はACKなんて言葉を使いませんよ.ちなみに棄却とか却下とか,rejectなんて言葉も直接的には使いませんが,それは理由が違うかな.ともあれ,ACKという言葉は,知っといてください」
「では,これまで先生がおっしゃったことをまとめると…」
  「ん? 言ってみる? どうぞ」
「僕のところに届いた通知はACKというもので,原稿を受け取ってこれから審査しますという,じゃなかった査読しますという,通知ですね」
  「ACKの位置づけは,そうです.言い換えてたけど,『査読』は『審査』のほうが自然かな」
「それで,ひと月半したら結果が来るんですが,それは『受理・accept』か『却下・reject』のいずれか」
  「そうです.ただやっぱり,『受理』は『受領』と間違えられやすいので,通知としては『採択』か『採録』といった表現になります.却下のほうは『不採択』か『不採録』です」
「それで『受理』が来たら,その内容が載るんですね」
  「おおっとそれはそうではないねえ.査読者のコメントをもとに,最終原稿を作って,送り直すことになります」
会話体はここまで.あといくつか補足です.

  • 受理と却下について,名詞形はそれぞれacceptanceとrejectionです.
  • 「カメラレディ原稿」というのは,送った内容がそのまま掲載されます.細かいことを言うと,論文の情報やページ番号がヘッダやフッタについて,印刷されることになります.
  • 査読付きの学術論文については,受理後に最終原稿を送りますが,そのままではなく,論文誌の体裁に整えられます.昔はこの段階で時間がかかっていたそうですが,現在の情報分野では,電子ファイルを送れば,うまいこと加工してくれます.そして発行の前に,この内容になるがよろしいですかという書面が来ます.これをゲラ刷り,略してゲラと言います*1
  • 「英語では,アック」と書いたものの,海外で通じないかなという気もします.この「アック」という言葉,どのくらいの範囲で通じるのでしょうかね? 情報分野の日本人なら大丈夫かなと思いますが.
  • 昔書いたこと

*1:「校正刷り」「著者校正」という言葉も,聞いたことがあります.英語ではgalley proofと書きます.語源などは,叩き台にする原稿のことを「ゲラ」と言う人がいるのですが,誤りです... - Yahoo!知恵袋が参考になります.

*2:条件付き採録は,conditional acceptanceか,動詞にするならconditionally acceptだよなあ.今さら訂正する気もおこらない….