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船が5艘あります.1艘に4人乗ります

田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)

田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)

かけ算の順序について書かれている本を,もう一つ,見つけました.
同じ著者の本は,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110212/1297455518の「新潟の事例」です.出版社も同じ東洋館出版社.って…http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110419/1303160320で取り上げた本もですね.
さて本日取り上げる本では,明らかに,かけ算に順序があるのを前提としています.

次に,文章題指導の話をします.
1・2・3年生の学習では,文章題が非常にたくさん出てきます.低学年のうちは,子どもたちは簡単だと勘違いして,得意になっているようですが,実は,高学年になって算数ができなくなる子の多くは,低学年から考えることをしていなかった子に多いのです.
実は,低学年時代は,考えなくても正解になってしまう問題が多いのです.たし算のときはたし算ばかり,ひき算のときはひき算ばかりです.子どもたちは何も考えなくても,文章題は○になります.市販のテストには「たし算」とタイトルが書いてあります.そこに出てくる文章題がたし算以外のはずはないんです(笑).
このような体験ばかりしてきた子どもたちが,高学年になってだんだんわからなくなっていくのは,小さい頃から,考えることをさせてこなかった授業に原因があると考えています.そこで私は,子どもたちが今,算数の授業に学んで出会う文章,それから絵,図や表やグラフ,式,こういったものを,大人がどのようにしてイメージしてリンクさせていくのかを考えました.例えば,次のような文章題を考えさせてみます.「船が5そうあります.1そうに4人ずつ乗ることにします.」このような問題文になっていると子どもは必ず式を間違えますよね.「5×4」と書きます.今まで文の中に出てきた順番に数を使って式を書くだけで,ずっと丸をもらえていた子たちは,必ずこういう問題で引っかかります.
(p.62)

主張は分かります.私自身は,大学の授業において特定の計算(例えばべき剰余や拡張ユークリッドの互除法)ができるよう指導しており,また直接関与しない,小学校教育においても,立式時にはかけ算の順序に注意すべきと考えているほうなので,共感もできます.
ただ,賛成であるにしても,いくつか気になるところがあります.まず,第2段落の「〜子の多くは,〜子に多いのです」は,書き言葉としては推敲不足で,「多く」「多い」のどちらかを,取り除くべきです.といっても,これについては,本が「講座」という形態をとっていて,実際,現職の小学校の先生方が出席して聞いている*1ので,話し言葉を文字にしたとみなせばいいのでしょう.
次に引っかかったのは,2度出現する「必ず」です.数学的な意味の「必ず」(=常に,例外なく,論理的帰結として)ではなさそうです.すでに予習していたり親や兄姉からこの種の問題を教わっていたりする子は,正解すると想像できます.なお,goo辞書で「必ず」を引くと最初の項目に『例外のないさま』などがあり,次の項目に『確実な推量、または強い意志・要請を表す』,また用法として『「必ず」のほうが確率的により高い場合に使う』と書かれています.国語的な意味での使用,ですかね.
あとは,トランプ配りは完全に無視,死語かもしれない言葉を使うなら,スルーされています.それと,『高学年になってだんだんわからなくなっていくのは』については,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110209/1297257325に一つ情報追加ということで.

ところが,この前2年生の子に聞いてびっくりしたことなのですが,「そろそろ式は反対に書かなきゃいけないころだ」と言うんです(笑).「何で?」と聞くと,「プリントは,後の方になるとそういうふうにしないとバツになることが多い」と言うのです.そういえばそうですよね.まとめのテストの文章題の終わりは,必ず式が逆になる場合の問題が多いのです.まあ,統計的にみる力は素晴らしいものがあるかもしれませんが(笑),それではやはり意味がありません.
(pp.62-63)

http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110413/1302644721と関連します.子どもはよく考えているよなあと思わざるを得ないエピソードです.トランプ配りも,《吟味を経た正答》も,出てきませんが.
本文はそのあと,子どもたちに,文章題を絵にさせることを指導します.http://ameblo.jp/metameta7/entry-10742669809.htmlhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20110301/1298990744に見られる,対象を抽象化した形(丸や四角など)ではなく,絵です.そうすると,また面白い展開になります.

「子どもが大作の絵を描き,いつまでたっても抽象化しません」と言うから,「本当にたくさん絵を描かせていますか」と私が聞き返したところ,それほどたくさんは描かせていないのです.文章題を読んでは絵に描く.たくさん描かせる.それだけでいいんです.式や,答えを求めさせないで,お話を読んだら絵に描くことをいっぱいやらせると,子どもはそのうちに飽きてきます.その典型がこの写真です(笑).
「船が5艘あります.1艘に4人乗ります」というお話です.
1艘目は,頑張って描いたんでしょう.青で色をぬり,4人の人間が立っているのがわかります.2艘目をご覧ください.ほら,色が変わって,人間が寝そべっています(笑).3艘目,色がなくなりました.おそらく,色をぬるのに飽きたのだと思います(笑).4艘目.まったく違うタイプの船です.そして5艘目(笑).これ,途中じゃないんですよ.「どうしたの」と聞いたら「うん,もういい」という返事でした(笑).このような絵になっても算数ではいいんだよと教えてあげるのです.これで十分だよ,と言ってあげればいい.
(p.64)

写真がモノクロでも,何を考えて結局どうなったかが,伝わってきます.なお,かけ算の順序に関心のある方は,是非ともこの本を手にとって,全文をご覧の上で,批判をしてほしいなと思います.本題とはずれるのですが,pp.18-21の指導方法を大人サイドから見ると,なるほどと思う人も,そんなんあかんやろと思う人も,いるでしょう.
5艘に4人ずつの文章題に対する絵と解説がもう一つあったあと,この項のまとめに入っています.

このように描いたのに,もし式を「5×4」と書いたとすると,この子は読み取りができないのではなくて,式の意味を間違えて覚えているだけどなります.治療するところが変わりますよね.
式を「5×4」と書いた子どもに「ちゃんと文章を読んでごらん」といくら指導をしてもだめです.この子は逆に覚えているわけですから.絵が図にできたら,その後で算数の言葉に表し直して「4×5」と書くんだよと.ここは確認していいところです.「こういう絵のことを4×5と言うんだよ」と教えるのです.
(p.65)

ここを読んで,連想したのは,http://d.hatena.ne.jp/yotayotaahiru/20101221/1292905238
さて,2人の児童が描いた船の絵(の写真)を見直すと,興味深いことに気づきます.ともに,5艘の船が整然と並んでいないのです.
教科書的と言いますか,PowerPoint*2と言いますか,5艘の船を整列させ*3,4人ずつを配置することにします.どの船も,最初の人は船長さん,次は機関士さん,それから航海士さん,あと通信士さん,というふうに配置すると,一つの役割の人は5人,それが4種類あるんだから,5×4=20という式が成立しそうに思えます.もちろんこれは,トランプ配りのこの問題への適用です.
もしそんな絵を描く子がいて,私が先生なら…どうするかは,自分の頭の中に秘めておくことにします.

*1:各章末には参加者の顔写真と感想が載っています.

*2:皿とりんごだと,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20101207/1291657362

*3:一直線に並べたら大失敗!