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学習指導要領に見られない,パー書き

タイトルは「学習指導要領に見る,パー書き」としたいところですが,実際のところ書かれていませんので,「見られない」です.もちろん学習指導要領とその解説,全科目全ページに目を通したわけではなく,現行の《算数解説》のみです.
『かけ算には順序があるのか』の中でもそうですし,ブログとして読めるその本の書評などでもそうですが,「6人×4個/人」といった,単位を含む式が平然と使われているのが,どうにも気になります.なお以後,「4個/人」といった表記を「パー書き」と呼びます.
このような書き方は,数学教育協議会(数教協)に基づく書籍でよく目にしますが,それ以外の算数・数学教育の団体では,見かけません.
教科書はどうかというと,出題例から学ぶ,乗法の意味理解の中に昨日,追加した,「(解説書:1980年)算数わかる教え方〈2年〉」で例を挙げたとおり*1,30年前の記述においても,見られません.そして,式に単位を付けていない点も,注意すべきなのでしょう.
整理すると,こうです.

  • 学習指導要領の記述や,教科書検定のプロセスを経て作られた教科書,全国学力テストをはじめとする学力テストの出題では,式に単位を書かない.また数量の表記として,パー書きを用いない.すなわち,文の中に「4個」「6人」とは書いても,「4個/人」とは書かない.
  • 数学教育協議会の指導方法では,パー書きによる数量の表記,および式に単位を付けて書くことが推奨される*2

あとで吐けませんのでここで毒ですが,「かけ算の順序」の話の中で断りなくパー書きをしていれば,にわか「かけ算の順序論争」ファンである可能性が高く,そういった人には,三用法(とりわけ,割合(比)の第2用法),除算や小数・分数の乗法との連携(例えば「小数×整数」と「整数×小数」の算数指導における違い),単元における様々な出題とその関連などに目を向けることなく,「見ているものを信じて言葉にする」傾向があると言えそうです.
さて…また《算数解説》に当たってみましょう.上の2項目について,それぞれの方針でどのように解釈できるかを,見ていくことにします.数学教育協議会でないほうの名称ですが,「無記載」とします.また数学教育協議会の指導方法として書いたものについて,かつて「数教協スタイル」と表記したこともありますが,字数の都合で「数教協」と略します.《算数解説》からの引用,数教協の解釈,無記載の解釈,の順に書いていきます.

第2学年:乗法が用いられる場合とその意味

乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる。また,累加としての乗法の意味は,幾つ分といったのを何倍とみて,一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求めることであるといえる。
(p.87)

数教協:「一つ分の大きさ」を「1あたり量」に読み替えて内包量とし,パー書きの単位を使用する.「幾つ分」が外延量で,こちらにも単位を付ける.式はn1[d1/d2]×n2[d2]=n1n2[d2].
無記載:「一つ分の大きさ」と「積(全体の大きさ)」の単位は同じ.「幾つ分」「何回」「何倍」を同一視する.式は,n1[d1]×n2=n1n2[d1]としたいが,単位を書かないので,n1×n2=n1n2.

第2学年:乗法の式

式に表す指導に際しては,「1袋に5個ずつ入ったみかんの4袋分」というような文章による表現,○やテープなどの図を用いた表現,具体物を用いた表現などと関連付けながら,式の意味の理解を深めるとともに,記号×を用いた式の簡潔さや明瞭さを味わうことができるようにする。
(p.98)

数教協:1あたり量を5個/袋,幾つ分を4個として,5個/袋×4袋=20個
無記載:一つ分の大きさを5(個),幾つ分を4として,5×4=20 答え 20個

式を読み取る指導に際しては,例えば,3×4の式から,「プリンが3個ずつ入ったパックが4パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」というような問題をつくることができる。
(p.99)

数教協:1あたり量を3個/パックで,幾つ分を4パックとして,3個/パック×4パック=12個
無記載:一つ分の大きさを3(個),幾つ分を4として,3×4=12 答え 12個

第3学年:乗法の計算が確実にでき,用いること

「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」
(p.107)

数教協:1あたり量を85円/m,幾つ分*3を25mとして,85円/m×25m=2125円
無記載:一つの大きさを85(円),幾つ分を25として,85×25=2125 答え 2125円

「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cm あった。はじめのひもの長さは何cmか。」
(同)

数教協:1あたり量は,長さ9cmのひもに注意すると,9cm/本.幾つ分は4本.したがって,9cm/本×4本=36cm
無記載:一つ分の大きさを9(cm),幾つ分を4として,9×4=36 答え 36cm

「内容の取扱い」の(4)では,「乗数又は被乗数が0の場合の計算についても取り扱うものとする」と示している。例えば,的当てで得点を競うゲームなどで,0点のところに3回入れば,0×3と表すことができる。3点のところに一度も入らなければ,3×0と表すことができる。0×3の答えは,実際の場面の意味から考えたり,乗法の意味に戻って0+0+0=0と求めたりする。また3×0の答えは,具体的な場面から0と考えたり,乗法のきまりを使って3×3=9,3×2=6,3×1=3と並べると積が3ずつ減っていることから,3×0=0と求めることができることに気付くようにする。
(同)

数教協:「0点のところに3回」の点数計算において,「0点」という量は考えない.実際の場面の意味から,0×3=0.一方「3点のところに一度も入らない」場合は,1あたり量が3点/回,幾つ分は0回で,3点/回×0回=0点.
無記載:「0点のところに3回」の点数計算において,一つ分の大きさは0(点),幾つ分は3となり,0×3=0.一方「3点のところに一度も入らない」場合は,一つ分の大きさは3(点),幾つ分は0となり,3×0=0.いずれも0点.

第3学年:除法が用いられる場合とその意味

一つは,ある数量がもう一方の数量の幾つ分であるかを求める場合で,包含除と呼ばれるものである。他の一つは,ある数量を等分したときにできる一つ分の大きさを求める場合で,等分除と呼ばれるものである。なお,包含除は,累減の考えに基づく除法ということもできる。例えば,12÷3の意味としては,12個のあめを1人に3個ずつ分ける場合(包含除)と3人に同じ数ずつ分ける場合(等分除)がある。
(p.110)

数教協:12個のあめを1人に3個ずつ分けるのは,12個÷3個/人=4人.12個のあめを3人に同じ数ずつ分けるのは,12個÷3人=4個/人.
無記載:図を描いてから,12個のあめを1人に3個ずつ分けるのは,全体の大きさを12(個),一つ分の大きさ(1人に渡す個数)を3(個)として,12÷3=4 答え 4人.12個のあめを3人に同じ数ずつ分けるのは,全体の大きさを12(個),幾つ分(幾つに等分するか)を3として,12÷3=4 答え 4個.

第4学年:正方形,長方形の面積の求め方

右のような図形の面積は単位正方形の数を数えると求めることができる。ここで,左上の単位正方形を左下に移動させると全体が長方形になるが,そのとき面積は,辺の長さを測るだけで計算で求められる。例えば,右の図のような長方形の面積を求めるには,面積の意味を考えれば,単位の正方形を敷き詰めてその個数を求めればよい。単位正方形が規則正しく並んでいるので,乗法を用いると,手際よく個数を求めることができる。このとき縦や横の長さを,1cmを単位として測っておけば,その数値について(縦)×(横)(もしくは(横)×(縦))の計算をした結果が,1cm^2を単位とした大きさとして表されることになる。このことより,(長方形の面積)=(縦)×(横)(もしくは(横)×(縦))という公式が導かれる。
(p.147)

縦3cm,横4cmの長方形に対して,面積を求める.
数教協:1あたり量を3cm^2/cm,いくつ分を4cmとして,3cm^2/cm×4cm=12cm^2.以後3cm×4cm=12cm^2と書く.当然,4cm×3cm=12cm^2.
無記載:単位正方形の数は,3×4=12で12個.したがって面積は12cm^2.第2学年で学んだ内容により,式は4×3=12としてもよい.

第5学年:小数の乗法の意味

第5学年では,乗法を乗数が小数の場合にも用いることができるようにしたり,除法との関係も考えて,より広い場面や意味に用いることができるようにしたりして一般化していく。その際,数量関係を表している文脈が同じときには,整数の場合に成り立つ式の形は,小数の場合にもそのまま使えるようにする。
例えば,1メートルの長さが80円の布を2メートル買ったときの代金は,80×2という式で表せる。同じように,「1メートルの長さが80円の布を2.5メートル買ったときの代金が何円になるか」という場合,布の長さが2.5倍になっているので,代金も2.5倍になるということから,80×2.5という式で表せる。
こうしたことから,整数や小数の乗法の意味は,Bを「基準にする大きさ」,Pを「割合」,Aを「割合に当たる大きさ」とするとき,B×P=Aと表せる。
(p.166)

数教協:意味の拡張は不要.1あたり量は80円/m,幾ら分は2.5mなので,80円/m×2.5m=200円
無記載:基準にする大きさを80(円),割合を2.5とし,80×2.5=200 答え200円

第5学年:異種の二つの量の割合

第5学年では,これまでに指導した量のほかに,異種の二つの量の割合としてとらえられる数量があることを指導する。米の収量を比較するのに,10a当たりの収量で比べたり,人口の疎密を比べるのに1km^2当たりの人口,すなわち人口密度を用いたりするのが,これに当たるといえる。その比べ方や表し方について理解し,それを用いることができるようにすることを主なねらいとしている。
(p.179)

例えば,人口密度の場合,人口と面積の二つの量がかかわっている。このとき,人口を2倍,3倍,4倍,…にしたとき面積も2倍,3倍,4倍,…すれば混み具合が変わらないことを用いて,比較するときには,どちらか一方の量,例えば面積をそろえて,もう一方の量の人口の大小で比べると比べやすいことに気付かせる。つまり10m^2の部屋に7人いる場合と15m^2の部屋に10人いる場合について混み具合を比べる際,30m^2にそろえるとそれぞれ21人と20人になるが,このように面積をそろえて人数で比べることが考えられる。
(p.180)

数教協:「10m^2の部屋に7人」の人口密度は,7人÷10m^2=7/10人/m^2.「15m^2の部屋に10人」の人口密度は,10人÷15m^2=2/3人/m^2.それぞれ同じ混み具合で30m^2に何人いるかを計算すると,前者は7/10人/m^2×30m^2=21人.後者は2/3人/m^2×30m^2=20人.
無記載:「10m^2の部屋に7人」の混み具合で,30m^2に何人いるかを求めると,図を描いた上で,7人の3倍とすればよく*4,7人×3=21人.「15m^2の部屋に10人」の混み具合で,30m^2に何人いるかを求めると,図を描いて,10人の2倍とすればよく,10人×2=20人.人口密度を計算すると,7人÷10=7/10人を念頭に置きつつ7÷10=7/10とし,「1m^2当たり7/10人」*5.10人÷15=2/3人を念頭に置きつつ10÷15=2/3とし,「1m^2当たり2/3人」.

第5学年:単位量当たりの大きさ

ここでは,異なった二つの量の割合でとらえられる数量を比べるとき,三つ以上のものを比べたり,いつでも比べられるようにしたりするためには,単位量当たりの大きさを用いて比べるとより能率的に比べられることを理解し,単位量当たりの大きさを用いて比べることができるようにすることをねらいとしている。
(p.180)

一つ前の例を使用.
数教協:7/10 人/m^2>2/3 人/m^2
無記載:「1m^2当たり□人」が同じ2つの大きさは,大小比較ができ,7/10>2/3.「30m^2当たり□人」も同様で,21>10.

第6学年:速さ

速さを量として表すには,移動する長さと,移動にかかる時間という二つの量が必要になる。速さは,単位時間当たりに移動する長さとしてとらえると,(速さ)=(長さ)÷(時間)として表すことができる。例えば,時速60kmの速さとは,1時間に60kmの長さを移動する速さということになる。
(p.199)

数教協:1時間に60kmの長さを移動する速さは,60km÷1h=60km/h.2時間に120kmの長さを移動する速さは,120km÷2h=60km/h.
無記載:1時間に60kmの長さを移動する速さは,速さの意味から(式にすることなく)時速60km.2時間に120kmの長さを移動する速さは,割合に当たる大きさを120(km),割合を2として,基準とする大きさを求める*6.したがって120÷2=60となり,1時間当たりに移動する長さなので,時速60km.

第6学年:比例の式,表,グラフ

比例の関係を表す式は,(ウ)の商をkとすると,y=k×xという形で表される。
(p.207)

数教協:手持ちの情報では不明.『割合・図形 (子どもを賢くする?よくわかる算数の授業 )』を買って読むべきか.
無記載:比例の関係を表す式では,単位を考える必要がなく,kとして具体的な数を得れば,y=k×x.

まとめ…られない

エントリのタイトルにも否定文を入れているし,ここも否定形でいいかな.なんて自分に甘いんだ.…
個別に見ると,数教協と無記載とで,どっちが勝ち,どっちが負けという判定もできそうですが,総合的な判定や,学校現場での指導方法については,これだけから知ることなどできません.
今後も事例を収集し,整理していくとします.

「数教協」の参考文献

かけ算とわり算 (わかって楽しい算数教室 1)

かけ算とわり算 (わかって楽しい算数教室 1)

やさしい文章題 (わかって楽しい算数教室 4)

やさしい文章題 (わかって楽しい算数教室 4)

かけ算とわり算 (算数の本質がわかる授業)

かけ算とわり算 (算数の本質がわかる授業)

いろいろな量 (子どもを賢くする?よくわかる算数の授業 )

いろいろな量 (子どもを賢くする?よくわかる算数の授業 )

かけ算とわり算 (子どもを賢くする―よくわかる算数の授業)

かけ算とわり算 (子どもを賢くする―よくわかる算数の授業)

かけ算には順序があるのか (岩波科学ライブラリー)

かけ算には順序があるのか (岩波科学ライブラリー)

*1:【《AB型》:p.113】です.ここの2つの出題は,かけ算の導入に関する,2つの教科書の比較として書かれています.

*2:なお,低学年で「パー」が分かりにくい児童のために,パー書きは使わず,実質同じにしているような指導例も見られます.

*3:連続量なので,「幾ら分」とする方がよさそう.

*4:なぜ「30m^2にそろえる」のかは,押さえておきたいところ.任意の面積を単位量として計算できるが,それが目的ではない.ここでは最小公倍数を活用し,整数だけを使って計算・比較をしている.

*5:「人口密度を答えなさい」という出題だと「1m^2当たり7/10人」が期待されるが,「1m^2あたり何人になりますか」だと「7/10人」と答えるのが自然に思える.要調査.

*6:《算数解説》p.167