わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

ページ数の暗算術

「ではミーティングを始めるかな.今日は論文紹介だね.書類を配ってください」
「はい,これです…」
「ありがとさん.さて…あれ? 最後のページがないぞ」
「えっ?」
コンクルージョンと参考文献がついているはずのページが,ないんだけど」
「忘れていました?」
「いや,こっちに聞かれても」
「先生のメールで,324ページから332ページまでとありましたので…」
「で,その332ページがないんだけど」
「ほんとだ…コピーしてなかったです」
「参ったな.至急,してくれるか」
「わかりました」
○ ○ ○
「先生,思い出しました」
「何か?」
「8ページの論文だと,思い込んでいたんです」
「ん? いや,9ページだね」
「324ページから332ページまでだから…引き算してしまって」
「単純に引き算をしてしまったと」
「ええ」
「で,予稿集から,今回の論文を見開きでコピーしていくと,まず324ページと325ページが1枚で,…」
「そうです.2ページで4回コピーしたんで,最後が欠落しました」
「欠落,か.実際のところは,332ページのところのコピーも,必要だよね」
「はい,以後気をつけます」
「以後,どうする?」
「ページ範囲が指定されたら,ちゃんと計算して,ページ数を出すようにします」
「まあ,そうだね.だけど,どうやって計算するのがいいかな?」
「単純に引き算してから,1を足します」
「1を足すのか…」
「いけませんか?」
「いや,求め方としてはいいんだけど,範囲の計算に,いつも『1を足す』のはまずいんで」
「そうなんですか?」
「2時から5時までといえば,あいだは何時間かな?」
「えっと,4じか…違う! 3時間です」
「そう.そこでは1を足せない」
「先生,それって,『かけ算に順序はあるか』ですか?」
「ん? 『かけ算には順序があるのか』だね.それの第三章」
「研究室の本棚にあったので,読みました」
「ふむふむ.それはともかくとして…」
「はい…」
「論文のページ数については,間違いをしにくくする方法があるんで,知っておくといい」
「そんなのあるんですか?」
「いくつか問題を言っていくので,答えてくれればわかるよ」
「あ,はい」
「まず,pp.128-137と(ホワイトボードに書く),あったら,全部で何ページかな?」
「えっと…引き算して1足して…10ページです」
「うん,計算すれば,そのとおり.だけど僕は,計算をしないよ」
「どうするんですか?」
「『128から137まで』としたとき,一の位の数は,どうなる?」
「…一の位,ですか?」
「そう.一の位の数だけ,順番に言ってみるといい」
「えっと,8,9,0,1,2,3,4,5,6,7です」
「数字が一巡しているよね」
「いちじゅん…ですか?」
「並べ替えると,0123456789になる」
「あ,そうです」
「『一巡』ってのは,『0から9までが,すべて1回ずつ出現している』と読み替えよう」
「あ,確かにそうです」
「では全部で何ページかな?」
「10,ってことですか?」
「そう.別の問題で,確認してみよう.pp.97-106だと,ページ数は?」
「….10です」
「引き算,しなかったね」
「はい」
「次のパターンに行くかな…pp.213-221だと,どうなる?」
「えっと…213から222だったら,10ページですので」
「答えは?」
「でも222の一つ前までなので,9ページです」
「答えはそれでいい.でも『一つ前』よりも,もっといい方法がある」
「…何でしょうか」
「一の位を取り出すと,345678901,だね」
「はい」
「これを『一巡するには,2がない』と考えればいい」
「2がないので,10ページからその分をとって,9ページですか」
「そういうこと.さっそく応用してみよう.pp.138-145だったら?」
「えっと…あれ,これ,9じゃないですよね?」
「『応用』だよ」
「…7です」
「いや,それは,単純な引き算をしてしまっている.間違い」
「あ,そうでした…じゃあ,8です」
「『じゃあ』は気になるなあ.どのように応用したのかな」
「はい,一の位ですが,『一巡するには,6と7がない』と考えました」
「そうその通り.もう1問やって,スムーズに答えが出れば,いいかな」
「もう1問,ですか」
「はい…pp.210-222だと,ページ数は?」
「えっと,あれ? …ああそうか,13ページです」
「どう考えた?」
「一の位は,『一巡した上で,0,1,2がもう一度出現している』ので,10に3を足しました」
「よろしい」
「先生,ちょっと気になったんですが…」
「何かな」
「今,出された問題って,どれも答えが,10ページの前後になっていましたよね?」
「そうだよ」
「数十ページになっても,同じように考えればいいんですか?」
「うーん,たぶん,電卓か何かで計算する方がいいよ」
「そうなんですか」
「100の位を含んで,繰り上がりが2度あるかもしれないから」
「わかりました」
「ちなみに,10ページの近辺にしたのには理由があって…」
「…」
「我々の分野で読む論文は,ジャーナルにせよ国際会議にせよ,10ページ前後が多いんでね」

裏事情

会話はすべてフィクションです.
現在,研究室の学生に,論文紹介をしてもらうため予稿集を渡していますが,分量は10ページ前後ではありません*1.また,途中で取り上げた本は,学生室の本棚には置いていません.
ページ数を間違えないようにする技法として,「偶奇性」も,知っておいて損はないと思います.開始ページと終了ページがともに偶数,またはともに奇数なら,その範囲のページ数は奇数です.一方が偶数で他方が奇数なら,偶数です.上の会話の中の出題で,確認してみてください.

*1:多いか少ないかについては,あえて書かないことにします.