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2012年03月01日

[] 乗法の意味の拡張

本日は,「乗法の意味の拡張」について,整理を試みます.

なお,このエントリは403 Forbiddenのコメントから着想を得て作ったものですが,そこでのやりとりに対し,直接的な答えや指針を与えるものではありません.

「乗法の意味の拡張」以前

小学校学習指導要領解説 算数編(《算数解説》)から,乗法(かけ算)について拾い上げてみます.

よく知られているように,乗法が登場するのは2年です.計算の対象としては,いわゆる「九九」の範囲です.

と言いたいのですが,現行の学習指導要領では,12程度までの数と1位数(1桁の数)とのかけ算も,できるようになることとされています.「12程度までの数」は,被乗数(かけられる数),乗数(かける数)のどちらにもなり得ます.

3年では,「2位数や3位数に1位数や2位数をかける乗法」が出てきます.手段としては「筆算」ですね.乗法で計算できる範囲が広がること,2年とちがって,被乗数の範囲と乗数の範囲が異なることにも,注意をしたいところです.

3年で,見ておきたいのがあと2つあります.まずは「乗数又は被乗数が0の場合の計算」です.すなわち,「0×なんとか」「なんとか×0」も,3年での学習内容です.《算数解説》では,それぞれで0であるのを示す方法が異なっています.

問題例として「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか」が入っています.この1問から「除法逆」「乗数にあたる数が先に出現」「連続量×分離量(同等の量, Equal measures)」を読み取ることができます.

4年ですが,小数の加減算のあと,「乗数や除数が整数の場合の小数の乗法,除法」を学習します.乗法に限っていうと,「例えば,0.1×3ならば,0.1+0.1+0.1の意味」ですので,累加で計算ができます*1

4年というと,もう一つ重要なのは,面積です.単位正方形の数を数えることから始まり,「(長方形の面積)=(縦)×(横)(もしくは(横)×(縦))」という公式へと至ります.なお,縦横をかけるだけでなく,「長方形の辺の長さが2倍や3倍になるときの面積の変化」ともあるので,面積に関する量においても倍概念に基づいて,かけ算ができることを学びます.

ここまでは,「一つ分の大きさ×幾つ分」「累加の簡潔な表現」「一つの大きさの何倍か」という,2年で学習するとされている乗法の意味で,演算決定や立式をしたり,計算をしたり公式や性質を導いたりしています.かけ算ができる範囲は拡張していますが,乗法の意味の拡張ではありません.

《算数解説》による,乗法の意味の拡張

ところで,《算数解説》で「乗法の意味の拡張」で探してみても,ヒットしません.

「拡張」だけで探すと,p.169(5年)の以下の記述が見つかります.

小数の乗法では,乗数が小数の場合にも用いることができるように意味の拡張を図る。例えば,120×2.5の意味を考えるとき,下のような数直線を用いて表したり,「120を1とみたとき,2.5に当たる大きさ」と言葉で表したり,公式や言葉の式を利用したりして,乗法の意味を説明することになる。

しかしこれは,算数的活動の中に入っています.これより前に,小数の乗法のことが書かれているはず…ありました.

整数の乗法については,「一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かを求める」,「何倍かに当たる大きさを求めたりする」などの場合に用いる。

第5学年では,乗法を乗数が小数の場合にも用いることができるようにしたり,除法との関係も考えて,より広い場面や意味に用いることができるようにしたりして一般化していく。その際,数量関係を表している文脈が同じときには,整数の場合に成り立つ式の形は,小数の場合にもそのまま使えるようにする。

(p.166)

なお,「拡張」は,「…乗数や除数が分数である場合でも,第5学年の小数の乗法,除法のときに拡張した意味がそのまま適用できるので…」(p.39)にも見られます.直前のページでは「乗数が小数である計算になると,加法の繰り返しという累加の意味ではとらえられなくなるので,計算の意味を広げる必要がある」とあります.

文献検索

CiNii Articlesで「乗法の意味の拡張」を検索すると,12件がヒットしました.タイトルから,いずれも,算数教育(数学教育)の文献と判断して良さそうです.

手元の本で,探してみると,微妙に表現がちがっています.

そこで,「意味の拡張」を検索してみると,55件に増えました.ただ,関係ないものが多くなってきましたね.

2010年の解説,1968年の論説

これらの研究成果から,乗法・除法の意味づけにおいては,数学的な考え方の育成を目指す立場からは,割合による意味づけに教育的な価値がある。これは,整数は同数累加で導入し,乗数が小数になった段階で同数累加では意味づけられなくなる。そこで,被乗数,乗数の意味を(基準量)×(割合)と拡張し,これまでの整数の場合と同様に用いることができるようにすることである。数学的な考え方を育成するためには,意味の拡張は重要な指導の場となってくる。

この意味づけにおける課題は,児童の実態として,割合を捉えることの難しさが挙げられる。整数の乗法・除法を扱う中で割合の見方をどの学習でどのような方法で導入するかを明確にする必要がある。また,整数÷整数の包含除の場面で整数倍,小数倍を扱う指導と割合との関連を,より一層カリキュラムの上で明らかにする必要がある。

(『数学教育学研究ハンドブック』pp.74-75)

b) 小数・分数(有理数)の場合に,どんな意味付けをするか.

累加の考えの問題点は,周知のように,整数の場合でなく,乗数が有理数の際に起こる.わが国の場合は,累加という考えをそのまま用いないで,次のような意味に一般化(拡張)する方法をとっている.すなわち,

A×Bについて,A,Bを次の意味に対応させる.下の図では,A×Bは,Bの目盛に対応する大きさを読み取ることに当たる.

A……基準(単位)とする大きさ

B……Aを単位とした測定数(measure)

(図および1段落省略)

この考えの長所として,次のような点をあげることができる.

ア.乗数が整数の場合,すなわち,累加の考えを特別な場合として含んでおり,整数,および小数・分数に関係なく,一貫して用いられること.しかも,実数の場合への発展も困難ではない.

イ.この指導を通して,整数の場合にとった乗法の意味を拡張することの必要を意識させ,拡張の考えを用いる機会をこどもに与えることができること.

ウ.小数,分数の乗法が適用される場合を,この意味にもとずいて一般的に理解させ,乗法の適用判断を統一的に能率よく行なうことができること.

(中島健三: 乗法の意味についての論争と問題点についての考察)

1968年の論説はメリット重視,2010年の解説は得失をバランスよく記述,という違いはありますが,乗法の意味の拡張について,コアになるものは同一であると読めます.

おわりに整理

かけられる数\かける数整数小数
整数整数×整数(2年)整数×小数(5年)
小数小数×整数(4年)小数×小数(5年)
例題
  • 整数×整数プリンが3個ずつ入ったパックが4パックあります.プリンは全部で幾つありますか.
  • 小数×整数:0.5gの分銅が3つで,合わせて何gですか.
  • 整数×小数:1mが100円のリボンを1.5m買います.いくらですか.
  • 小数×小数:1mの重さが1.5kgの鉄のぼうがあります.この鉄のぼう0.8mの重さは何kgでしょう.
認知度

「乗法の意味の拡張」という言葉で必ずしもパターンマッチできませんが,「拡張」を探していくと,わりと多くの算数教育解説書で,見つけることができます.

ただし,数学教育協議会ベースのものでは,現れません.これは,累加での意味づけを採用していないためです.TOSSなど,他の団体・活動については,暇があれば調査したいと思います.

そしてこの言葉・概念は,「かけ算の順序」,あるいは表記の揺れを考慮し,

/((かけ算)|(掛け?算)|(乗法))(の(式の)?)?順[序番]/

という正規表現にマッチする*2ものよりも,算数教育において数十年来(そして現在まで),認知度が高いと言えそうです.

(最終更新日時:Tue Mar 6 05:49:29 2012ごろ.正規表現で「かけ算の式の順序」などにもマッチするようにしました.)

*1:「さらに,乗法の意味は,基準にする大きさとそれに対する割合から,その割合に当たる大きさを求める計算と考えることができる。」(p.142)は,違和感のある文です.割合という言葉は,p.115で出現していますが,分数(割合分数)の話です.そして「基準とする大きさ」は4年では出てきません.この文を取り除けば,解説はしっくりくるのですが.

*2:rak 1.4を使い当雑記のログを検索して,動作確認をしました.