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2012年04月18日

[] 複比例〜文献から

1. 辞書では

いくつかWeb上の辞書を引くと,「複数の比例関係を一つにしたもの」というニュアンスのものと,「複比による比例式」というニュアンスのものがあります.

ふく‐ひれい【複比例】

一つの量が、他の二つの量と比例あるいは反比例の関係にあること。

複比例(ふくひれい)の意味 - goo国語辞書

ふくひれい【複比例 compound proportion】

ある量が二つ以上の量に比例または反比例するとき,複比例するという。(略)

複比例(ふくひれい)とは - コトバンク

比例式の等号の一方の側、あるいは双方の側が複比の形をしているもの。例えば、a : b と c : d に対し ac : bd=e : f が成り立つとき、a、b、c、d、e、f は複比例するという。複比例式。

no title

なお,「比例式」という言葉は,小学校では使われませんが,中学校学習指導要領によると第1学年で,一元一次方程式に関連して取り上げられており,《数学解説》p.77には「比例式3:5=x:150」という式の例があります.さらに,昨日公表された,平成24年度全国学力・学習状況調査全国学力テスト数学A大問3(1)では,「比例式6:8=x:12が成り立つとき,xの値を求めなさい。」という出題が見られます.

2. 数学および数学教育では

(a) [中西2001]

CiNii Articles検索で「複比例」を検索すると,7件がヒットします.その中で,次の論文が「機関リポジトリ」により無料でダウンロードできたので,読んでみました.

アブストラクトと結語を抜き出します.

比例の取り上げ方も時代とともに変わり, 試行錯誤を繰り返し現代に至っている。本稿は明治期, 特に明治5年から明治13年頃の算術教科書でどのような比例が扱われていたのかその概観を考察することが目的である。考察の結果, 合率比例(複比例)・正比例・轉比例(反比例)の3つは少なくとも一般常識的となっていたのではないかということ。この時代はまだ比例の学習内容について決まった方向がなかったのではないかということ。そのため全体的には「算術教育はこれからだ」という様相がよく窺えること。現代と比べて学習年齢を考えるとその程度が高いのではないかということなどが分かった。そして現代への示唆としては, 合率比例(複比例)も教材に入れてはどうかということである。

(p.15)

現代の算数・数学教育では,正比例と轉比例(反比例)だけを扱っているが, 筆者は一般常識となっていたと考えられる合率比例(複比例)も教材として扱ったほうがよいのではないかと考える。なぜなら, 輸送料など2量に比例するという考え方は現代の生活においてもよく使われる考え方だからである. そして比例を3本柱とするのである。そうすると新たなる体系ができる。子どもは, 一般的に正比例と反比例は別々のものであると考えているが, 合率比例(複比例)を位置付け正比例と反比例がその特別な場合とすることで, 正比例と反比例が合率比例(複比例)を通して統一的に捉えられようになるのではないか。

(p.25)

「複比例」はかつて,「合率比例」という名称だったようです.合率比例の具体例はp.19にあり,例題は「15:5::12:4」「1:13::2:26」「7:9::14:18」という3つの比例式から「15×1×7:5×13×9::12×2×14:4×26×18」を得ています.著者解説による,現代の書き方も,載っています.

(b) [森2009]

「複比例」と「輸送料」の2つで,ピンとくるものがあります.

この意味で,こちらのかけ算のイメージは〈2次元的〉といえる.さらには,4人が6日働いての

4人×6日=24人・日*1

とか,4tを6km動かしての輸送量

4t×6km=24t・km

とかいった問題にも発展する.これは,どちらも小学校に出てくるのだが,おとなにもとらえにくい量である.それは,この問題の背景には〈複比例〉の問題があるからである.

([森2009]『数の現象学 (ちくま学芸文庫)』p.72)

参照しているのが,2009年発行の文庫本であり,初出は1977年である(かけ算の順序の伝統)ことには注意が必要です.それと,この記述の直前には,「乗法の交換法則」を問題意識とし,面積,2次元構図を通じて,「タテとヨコの〈対等性〉」を確認しています.

ただしそこでは,比例という関係よりもむしろ,乗法の意味づけや分類のために,複比例の概念を持ちだしています.p.77には「これで,倍操作型と複比例型と正比例型の3種類の乗法がそろった.」とあります.

次の文献との違いを示すため,森毅の複比例に対するスタンスを引用します.

それに,一番よく使われる乗法は,〈正比例〉であり,最初にあげた例もその形をしている.だから,〈複比例〉までいかなくても,〈積〉には2次元的イメージを与える程度で,さしあたりは十分だろう.

(p.74)

(c) [田村1978]

長方形の面積に関して,「複比例」という言葉が見られないものの,複比例であることを確認し,活用しているものがあります.

定理3. 長方形の面積は,縦の長さと横の長さに比例する;くわしくいえば,横の長さを一定にするとき縦の長さに比例し,縦の長さを一定にするとき横の長さに比例する.――

これが‘長方形の性質’の一つであり,幾何学の法則であることはいうまでもない.

([田村1978]『量と数の理論 (1978年)』p.50)

そして次のページで,「それゆえ――長方形の面積を計算するときは――面積の単位としてf(L,L)すなわち‘一辺の長さLの正方形の面積’を採用するのが便利である」としています.これにより「長方形の面積=縦の長さ×横の長さ」という面積の公式を導くのは,文字式や量の理論に基づかないとはいえ,小学校の(《算数解説》に見られる)アプローチと同じと言えます.

なお,そのような展開や,単位量の採用というのが,面積のみかというとそうではなく,p.53では「速さの単位」についても同様に定めています.ただし,以前にも指摘しましたが,面積の単位量は2つの引数に見かけ上,区別がないのに対して,速さの単位はf(T,L)として,時間の単位Tと長さの単位Lが区別されています.

(d) [Vergnaud 1983],[Greer 1992]

コトバンクでは,「複比例」の英語表現をcompound proportionとしており,英辞郎でも同じだったのですが,[Vergnaud 1983](Vergnaudと銀林氏の「かけ算の意味」)では,multiple proportionやdouble proportionという表記が見られます.

Looking at multiplicative structures as a set of problems, I have identified three different subtypes: (a) isomorphism of measures, (b) product of measures, and (c) multiple proportion other than product.

(p.128)

The multiple proportions is a structure very similar to the product from the point view of the arithmetic relationships: a measure-space M3 is proportional to two different independent measure-spaces M1 and M2. For example:

1. The production of milk of a farm is (under certain conditions) proportional to the number of cows and to the number of days of the period considered.

2. The consumption of cereal in a scout camp is proportional to the number of persons and to the number of days.

(p.138)

The Cartesian product is so nice that it has very often been used (in France anyway) to introduce multiplication in the second and third grades of elementary school. But many children fail to understand multiplication when it is introduced this way. The arithmetical structure of the Cartesian product, as a product of measures, is indeed very difficult and cannot really be mastered until it is analyzed as a double proportion. Simple proportions should come first.

(p.135)

電力の式はP=kRI^2と表記し(p.138),multiple proportionに入っています.面積や体積は,product of measuresに分類しています.

もう一つの海外文献,[Greer 1992]では,分類がより細かくなっているように見えるものの,Vergnaudの記したproduct of measuresとmultiple proportionになるものを,除算が1種類になるという点で,同じカテゴリとしているように見えます(Greerによる,乗法・除法が用いられる場合).

文献情報は次のとおり.

(e) [中島1968a],[中島1968b]

中島健三が1968年に,乗数と被乗数の区別を離れた意味づけを図ろうとして,「複比例」を取り上げています.

乗法の意味を,(単位)×(数量)とか,(基準量)×(割合)とか,具体的な事実との対応において理解させておくことは,その適用という観点から重要なことであり,わが国の考え方の特徴でもあることは,さきにのべた.しかし,中学校での発展も考えて,数学における基本的な演算の一つとして,乗法のもつ抽象的な特質についても,ある程度の理解を与えるようにしていくことは,小学校の段階でも重要なことである.

(略)

この意味で,乗法の式A×Bがあったとき,それがどんな関係を表わすものとして把握させるかということが問題であるが,一般にいって,A×Bという式があったとき,それは,「A,Bの両方に比例する(複比例)『もの』を表わす」としてみることができることは,その重要な一つの観点であるということができよう.ここではそのことを中心において,児童の実態をとらえようとした.これが,次の問である.

([中島1968a]pp.4-5)

2. A×Bを,A,Bの両方に比例する「もの」として理解させることは,乗法形式のもつ意味として重要な内容とみられることであるが,Aに比例するという見方が,Bに比例するという見方に比べて,かなり低くなっていることが指摘される.

これについて,被乗数と乗数とを区別し,乗数を割合(測定数)として意味づけをしていることが重要な障害となっているのかどうか,また,これも計算についての交換法則などの強調によって容易にさけられることなのかどうか,なお,研究してみることが必要である.

この点に関しては,乗法を長方形の求積公式と結びつけて理解している(問2でイを選んだもの)こどもの場合にも,必ずしも高い結果を示していない.それで,SMSGなど,アメリカでとり入れているArrayなどのモデルによっても,それだけでは,うまくいくとは限らないことを示唆しているともみられる.

([中島1968a]p.6)

イ.乗数と被乗数の区別を離れた一般的な意味

上でのべたような抽象的な意味づけまでは到らないにしても,現在よりも,もう少し一般的な意味づけを目指す必要はないかは,研究の余地があることである.

これを考える一つのねらいは,乗数と被乗数の区別なく用いられる意味づけを必要としないかということである.この点に関して,本会誌(1968,2月号)で,次のような意味をもたせることを提案しておいた.

『A×Bを,AとBとに比例する「もの」』としてとらえる見方である.

(略)とにかく,このような見方ができれば,次のような場合も含め,広く乗法の式を適用するための判断に役立たせることができよう.

  1. 量×量,ないしは,量÷量の形で表わされる物理的な事象など.さらに,
  2. 二つの集合の直積としてモデル化できる事象に対応させること.また,これと関連するが,
  3. 確率の乗法定理が適用される複事象に対応させること,など.

([中島1968b]p.77)

文献情報は次のとおり.

(f) [銀林1975b]

複比例について,手元の本の中で最も多くのページをとって,解説しているのは,

です.主要なところを抜き出します.

さて,このような場合のうち最も簡単なのは,一方の変数yを一定に保ったとき,zは他方の変数xに正比例し,xの方を一定にしたときにxはyに正比例するといった場合であろう。つまり,どちらの断面をとっても正比例になるという場合である。

このような関数fを複比例関数といい,量zは量xとyに複比例するという。

(p.183)

結局,複比例関数が1つあると,複内包量1個と,新しい外延量1個とが生み出される。特に,後者の,積で定義される外延量を創り出すのが,複比例の大きな役割の1つである。

(p.188)

3. 高校では

小中高の学習において,複比例を連想させるものはというと,運動方程式F=maと,ボイル・シャルルの法則(状態方程式PV=nRT)です.

…と思って高等学校学習指導要領に目を通したものの,式の表示はありませんでした.

ボイル=シャルルの法則については,前述のコトバンクの複比例にも,記載されています.wikipedia:ボイル=シャルルの法則では「気体の圧力Pは体積Vに反比例し絶対温度Tに比例する」とあり,goo辞書の定義のもとでも確かに複比例です.ところで英語では「combined gas law」となるのですね.

運動方程式について,その式から「力は質量と加速度の両方に比例する」と単純に考えてはいけないことを知りました.

なお,物理量の等式や,複比例について,当雑記ではじめて着目したのは,昨年の5月27日(世に数学の種は尽きまじ)です.

4. まとめにかえて

考察をご覧ください.

(最終更新日時:Wed Apr 25 05:50:55 2012ごろ)

*1引用者注:「人」「日」「人・日」は原文では上付き.次の等式も同じ.