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サンドイッチはくだらない・2012年8月バージョン(1/2)

 サンドイッチの乗法構造 - かけ算の順序の昔話もご覧ください.

 去年の5月,オランダ滞在中に書いたサンドイッチはくだらないには,今もときどきアクセスをいただいております.
 その後の進展を取り入れ,書き直しました.

1. 式を立てる

 3つの文章題から,話を始めましょう.

  • 問1:1本の紐を切って,3cmの紐を4本作ります.紐は何cm必要でしょうか.
  • 問2:太郎くんと次郎くんは兄弟です.お母さんは,お菓子をあげるとき,いつも,太郎くんにあげる数を次郎くんにあげる数の2倍にしています.ある日,次郎くんは3個のお菓子をもらいました.太郎くんは何個もらいましたか.
  • 問3:さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。

 これらに対して,小学校では,次のように式と答えを書きます.

  • 問1:3×4=12 答え12cm
  • 問2:3×2=6 答え6個
  • 問3:3×5=15 答え15こ

 上の式のそれぞれに,単位を付けて書くと,より意味が分かりやすくなります.

  • 問1:3cm×4本=12cm
  • 問2:3個×2=6個
  • 問3:3こ×5まい=15こ

 問2ではあえて,「3個×2倍」ではなく「3個×2」としています.あとで説明しますが,これは「倍概念」と関連があります.小学校の割合計算を見ている限り,「80人の75%」を求めるのに,80人×75%あるいは80人×\frac{75\%}{100\%}と書くのではなく,75%を0.75と変換してから,80×0.75という式を立てています.
 かけ算において「1あたりの数」を重視する,数学教育協議会(数教協)の考えに基づくと,次の書き方になります.

  • 問1:3cm/本×4本=12cm
  • 問2:3個×2=6個
  • 問3:3こ/まい×5まい=15こ

 ここでも,問2は倍概念であることを意識し,「3個/倍×2/倍=6個」などとはしません.

2. サンドイッチとは

 「3cm×4本=12cm」「3個×2=6個」「3こ×5まい=15こ」を見てみると,それぞれで,かけられる数(被乗数)と,かけ算の結果(積)の単位が,「cm」「個」「こ」と,同じになっています.
 実際,かけ算を「被乗数に乗数が作用して,答えとなる数量を得る」という立場で見るとき,そのような一致は,自然なことです.
 そして,日本語と式との対応づけや,算術・算数の教育の歴史を通じて,「かけられる数×かける数=積」という構文が定着しています.
 これらを組み合わせて,かけ算の式を立てる際に,「被乗数と積の単位を同じにしよう」「同じになっているか確かめよう」とする考え方を,サンドイッチといいます
なお以下では,「かけられる数」と「被乗数」,「かける数」と「乗数」,「かけ算の結果」と「積」,そして「かけ算」と「乗法」をそれぞれ同義語として,文脈や語感からそれらの一方だけを使っていきます.

3. サンドイッチに対する2つの疑問

 ここで2つの疑問が生じます.「サンドイッチは日本独自の考え方で,海外にはないのでは?」と「かける数の単位はどうなるの?」です.
一つめの疑問に対しては,とくに構文面から考えると,たしかに海外事例は見かけていません.海外では「かける数×かけられる数=積」で表すのが主流です.
 とはいうものの,「かけられる数」と「かける数」の区別は,海外の文献からも知ることができます.その中でも,Greerによる解説が明快です.Greerによる,乗法・除法が用いられる場合で,いくつか和訳をしています.先ほど書いた「被乗数に乗数が作用して,答えとなる数量を得る」も,この文献をもとにしています.
 問1から問3までは,それぞれ「同等の量」「乗法的な変化」「同等のグループ」に属する問題と言えますが,いずれも,被乗数と積の単位が同じとなります.乗数の単位は,それらと別であり,そういうわけで,積を求めるにあたり無視されるのです.

4. 指導例に見られるサンドイッチ

 国内の算数指導の本を取り上げながら,サンドイッチの使いどころ*1を見ていくことにします.
サンドイッチの萌芽と呼べそうなものは,昭和10年に発行された,緑表紙教科書にあります.教科書そのものではなく,その編纂の意図を記した本(もとは昭和54年の博士論文)で,高木佐加枝は次のように書いています.

b. 国語は,「5円の色紙を8枚」「3を4倍する」というように,被乗数を先にする言い方である.
c. 式に表す場合も 5円×8 というように,被乗数を先に書くのを常とするから,被乗数先唱の方が都合がよい。
(『「小学算術」の研究』pp.246-247.筆算の順序より孫引き)

 このbに書かれている2つの場面について,期待される答えは「40円」「12」であり,そこでも,乗数サイドの「枚」や「倍」は消滅するのが確認できます.
 次の文献は,戦後すぐになります.文章題で,あるかけ算の式のみを正解とし,そのかけられる数・かける数を逆にした式を間違いとする指導例が,昭和26年の小学校学習指導要領 算数科編(試案)に見られます.

三年の乗法九々の学習で,三の段がひととおりすんで,こどもたちは三の段の九々がすらすら唱えられるようになった。そこで,教師は次のようなテストを行って,こどもがかけ算の意味を理解して,九々を適用する力が伸びたかどうかを調べてみた。

問題 3人のこどもに,えんぴつを2本ずつあげようと思います。えんぴつがなん本いるでしょう。どんな九々をつかえばわかりますか。

どんな九々をつかうかという問に対して,3×2=6と答えたものが予想以上に多いことがわかった。これによってこどもは問題に出てくる数を,その数の意味を深く考えもしないで,出てくる順に書き並べ,その間に,かけ算記号を書き入れることがわかった。問題に出てくる数を頭の中にいったん収めて,演算の決定に導くように問題の場を組織だてる力が欠けているらしいことがわかった。そこで,その欠けていることについての再指導に入るわけである。
3は人数を表わしている数である。それを2倍した答の6は何といったらよいか尋ねてみる。それで,6人となって問題の要求に合わないことを説明する。このようにして3×2=6とするのが誤であることを明らかにしたとする。
しかし,上のような指導だけでは,問題をすこし変えてテストしてみると,ほとんど進歩しないことがはっきりわかってきた。つまり,一方を否定するような消極的な指導だけでは,前に述べたような問題を組織だてる力を伸ばすのに,ほとんど役だたないことがわかった。これが再指導に対しての評価であって,指導の方法を修正する必要をつかんだわけである。そこで;問題解決を,同数累加の形にもどして,倍の概念をしっかり押えるように指導したのである。今度は成功した。この事実を教師が見届けたのもやはり評価である。
V. 算数についての評価かけ算の順序の伝統より孫引き)

 3番目は,数教協を結成した,遠山啓が1973年に書いた『算数の探険1 たす ひく かける わる(加減乗除)』からです.上で,数教協の流儀として「/(パー)」を単位に含む式を書きましたが,この本ではその表記が見られず,基本的には,式の中には単位を入れていません*2
 なのですが,倍概念の説明の中で,「3匹のウサギの耳の数*3は,2×3=6」(p.54)としたのをもとに,「2cm×3=6cm」(同)という式を書いています.量(長さ,かさ)に関する演算では,単位を付けた式を採用しているようで,わり算まで視野に入れると,「6dl÷3=2dl」(p.70),「21dl÷3dl=7」(p.80.「21dlをひとり3dlずつわけたら,何人にわけられるか)といった式も見られます.
 最後に,昨年出た2冊の本から,サンドイッチにつながる事例を取り上げます.

例題1 重さ0.4kgの本が6さつあります。重さは全部で何kgになりますか。
(略)
(式) 0.4×6=2.4 答え2.4kg
この式は,ことばの式で書くと,ふつう 1さつの重さ×さっ数=全部の重さ と表します。
でも,この式の意味をもっと正確に書くと,0.4(kg)×6(さつ)ではなく,0.4kgの6倍という意味だということを理解しておきましょう。
(『筑波大学附属小学校田中先生の算数4マス関係表で解く文章題―小学4・5年生 (有名小学校メソッド)』p.12.4マス関係表より孫引き)

(てびき)(い)(う)は,7×3の問題で,かけられる数とかける数が逆です。●×▲の●や▲の選び方は,間違えやすい点です。区別する方法には,

  • 求めたいものを,かけられる数にする
  • 答えと同じ単位のほうが,かけられる数

などがあります。
(『教育出版版 小学算数 2年 (教科書わかるわかるテスト)』答えとてびき p.13.教育出版版 小学算数 2年より孫引き)

5. サンドイッチと倍概念

 ここまでの,まとめです.
 被乗数と積の単位が同じになっているような,かけ算の式を日常(本でもテレビでも)よく見かけます.ときには,「=積」の部分が書かれていないことがあります.
 それでも,そのかけ算の式で総量の単位が推測できるのは,「かけられる数×かける数=積」を小学校で学んでいることと,被乗数と乗数に異なった役割があることが,要因となっています.
 乗数のほうは,文章題などを式にするまでの段階では「4本」「5まい」「8枚」などであっても,積を求める際には,「4つ分」「5つ分」「8つ分」という役割になり,乗法的関係においては「〜の4倍」「〜の5倍」「〜の8倍」あるいは「×4」「×5」「×8」に位置づけられます.
 これにより,サンドイッチの根本にある数学的な考え方は,倍概念であると言えます.そしてここに,「被乗数と積の単位が同じになっているか,確かめよう」という,立式時のミスを減らすための実用的な意義も加わり,小学校で活用されているわけです.
 なお,ここまで乗数はいわゆる分離量,具体的には整数としてきましたが,乗法の意味の拡張を考慮することで,小数・分数などでも同様に「なんとか倍」「×数」として,単位をなくすことができます.文字式だと話が変わってきて,組立単位や次元解析といった考え方・手法を活用することになります.そうなってくると(高校の理科あたりでしょうか),「/」を使った単位表記の意義も見えてきます.
 倍概念とサンドイッチの結びつきについては,以前に書いた倍の乗法,積の乗法もご覧いただけると幸いです.

(最終更新:2021-11-09 早朝)

*1:さすがに「普遍性」とまではいかないように思います.

*2:思うにこの本は,算数を教える人(遠山にしてみれば同僚・同業者)向けではなく,低学年の児童やその親らに向けて書いたので,執筆方針として,パー書きを排除したのでしょう.

*3:「6×4,4×6論争にひそむ意味」の文章,その中でも『遠山啓著作集数学教育論シリーズ 5 量とはなにか 1 (1978年)』pp.118-119を読み直して,ちょっと面白いことに気づきました.ウサギの耳の数を求める式として2×3を挙げ,これが2+2+2=6でも3+3=6でもよいとしています.ウサギの耳の数を,3×2という式で表してもよい,とは書いていません.とはいえ,3+3=6という式や,左耳・右耳で考えることから,3×2も妥当な式であると,推論できるのですが.