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2012年11月13日

[] かけ算の問題の構造

wikipedia:かけ算の順序問題の冒頭に,気になる言葉がありました.

かけ算の順序問題(かけざんのじゅんじょもんだい)とは、日本での数学の初等教育の実践において、かけ算の式には「正しい順序」がありそれを子供に守らせるべきだという指導法と、かけ算の問題の構造から必然的にどちらの順序で書いても正しいという主張の対立である。「かけ算の正しい順序」「かけ算の順番」などとも言われている。

強調しましたが,目についたのは「かけ算の問題の構造」です.

見慣れない言葉なので,Googleで調べました.上位から,関係しそうなのを取り出すと…

仕事や日常生活で,同じ数量の集まりが複数あって全体の数量を知りたいときは,かけ算をすればよいと当然思う。その時,どちらが「かけられる数」で,どちらが「かける数」だから,どういう順序で掛けなくてはならない,などという「余計なこと」は考えない。対象が「かけ算構造」(同数−複数)になっていることを認識することが肝であり,「同数―複数」は同時に認識する。なぜなら,同数か否かは複数の集まりについての認識なのだから,どちらかを先に認識するということは論理的にありえない。ただし,その同数や複数の具体的な数値は,どちらに先に目が行く(数える)かで順序が生じることはある。(また,それを表現するときには,当然順序がある。)

だから,問題が書かれた文章から「かけ算構造」を知るときは,文章に数値が書かれている順序で,同数(1つ分の数)や複数(いくつ分の数)の値を知る。絵で「かけ算構造」を知る時も,同数や複数の具体的な数値については,どちらに先に目が行くかでケースバイケースであり,人によっても違うだろう。また,どちらを同数(1つ分の数),どちらを複数(いくつ分の数)とするかがどちらでもいいこともある。

57頁のうさぎの絵と鉛筆の絵の場合でも,「かけ算構造」を知った後,同数(1つ分の数)か複数(いくつ分の数)のどちらを先に認識しなければならない,ということは本来ない。うさぎの場合,耳2本は常識だから,先ず2を認識して,頭数を数えるという順序に私もなったが,当然,式はどちらでもいい。鉛筆では,私も,先ず大きなケースの方に目が言ったから8を先に認識し,それから鉛筆の本数4に目が行ったが,式はどちらでもいい。

東北大学大学院の院生による小学2年生に対するかけ算の学習支援|メタメタの日

そんなふうにして、かけ算の式の順序にこだわることで

「ずつ」を意識するようになり、

問題文の中からかけ算の構造を見つけやすくなったとしたら、

かけ算の順序にこだわることにも確かに意味があるのかもしれない。

ページが見つかりません | 無料ブログ作成サービス JUGEM

あと,Googleには出現しなかったけれど,久しぶりにアクセスして,確認しておきますか.

すでに自分なりの正しい考え方で「ひとつあたりの数」「いくつ分」の構造を

正しく見抜いている子どもが、「ひとつあたりの数×いくつ分」の順に書こうが、

「いくつ分×ひとつあたりの数」の順に書こうが、どちらでも構わない理由は

単位のない世界で掛け算の交換法則(可換性)が成立しているからです。

かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきである

ざっと見たところで,ページが見つかりません | 無料ブログ作成サービス JUGEMの件は,今年になって書いた「作題上の事情」と重なります.8マス関係表です.「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」と同種の出題で,かけ算の式を書く子に間違いとする例を,「向山型算数」関連の本で,今年,立ち読みしました.「ずつ」は,それを立式の手がかりにするというよりはむしろ,それがないとかけ算にできない(均等分布であることが保証できない)からではないか,ということです.

ここまでの各リンクを読んだ限り,批判の多くは

  • ある出題と,バツがつけられている状況から,
  • そこで教師の期待する「かけ算の構造」を指摘し,
  • 数学は,あるいは世の中は,そうではないよ(それだけではないよ)と主張する

という形でなされているように理解しました.


Wikipediaで「かけ算の問題の構造」を目にする前に,仮に「かけ算の問題の構造とは何か?」と問われたら,思い浮かぶものは,2種類あります.

一つは,海外文献です.当ブログで何度も引用している,次の2つの解説です.

  • Vergnaud, G.: "Multiplicative Structures", Acquisition of mathematics concepts and processes, Academic Press, pp.127-174 (1983).
  • Greer, B.: "Multiplication and Division as Models of Situations", Handbook of Research on Mathematics Teaching and Learning, National Council of Teachers of Mathematics, pp.276-295 (1992).

それぞれ,コピーを読み直しました.Vergnaudのほうは,structureやframeworkが,何度も現れます.そこでの「構造」は今回,引用・訳出するよりも,1年前に書いたものを転記するにとどめるとします.*1

内容ですが,イントロのあと,「Preliminary Analysis」(pp.128-140)として,著者の経験に基づく3つの乗法の構造,具体的には(a) isomorphism of measures, (b) product of measures, (c) multiple proportionの考え方や問題例が詳しく述べられています.(略)

Vergnaudと銀林氏の「かけ算の意味」

Greerのほうですが,「構造」に相当する英単語が見当たりません.Greerによる,乗法・除法が用いられる場合で書きましたが,〈乗数と被乗数が区別される文脈〉と〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉に大別した上で,それぞれの文脈がさらに細分化され,かけ算・わり算の用いられる状況が,分類されています.

もう一つの思い浮かぶ「構造」は,このGreerの文献から学んだことと,いくぶん近いものになります.当時自分なりに試みていた,かけ算の問題の収集を通じた分類・構成です.一見新たな問題に対しても,これまでに分類したどれに位置づければいいか,考えやすくなっています.

具体的には,《AB型》《BA型》《B型》《複数解》(かけ算・資料集1なぜ教材研究),「倍の乗法」「積の乗法」(倍指向と積指向の整理)のほか,九九で計算できる文章題を出力するRubyスクリプト,99qgの「困惑度」(簡単な問題だけを出力できるように)を挙げることができます.


そうして洗い出してみると,何に引っかかったかが見えてきます.

まずは,「構造」という言葉の多義性です.構造の同義語 - 類語辞典(シソーラス)や,スペースアルクで「構造」を検索した結果からも,語句や英単語,そしてそれぞれの使われ方の微妙な違いを,知ることができます.

自分にとっての「構造」は,「構造体」「構造化プログラミング」と同様に,「構成」や「編成」という意味合いで,これまで考えてきました.

しかし,かけ算の順序という文脈で,出題や指導の意図を明らかにしようというときの「構造」は,その多くが「機構」や「原理」に対応づけられそうです.

順序を推進・擁護する本で見かけた,「構造」の説明を,書き出しておきます.自分のものとは,明らかに異なっています*2.機構・原理と近い面も,少々異なっている面も,あるように思います.

スキーマ(シェマ)の意味

フランス語のschemaのことで,英語読みでスキーマといい,図式・図解などとも訳されている。これは心理学的用語で,事例を認知したり,外界にはたらきかけたりするときに土台をなす枠組みのことである。心理学では,概念形成をしばしばスキーマ形成とよぶ。概念を理解する際,その心理体制に注目した場合の言葉で,心的構造に対して与えられた一般的な心理学用語である。

知覚は,受容する器を通して取り入れられた外部からの情報だけによって成立するのではない。刺激を受容する以前に,すでに手持ちの構造化された情報をもっている。このような手持ちの情報内部における相互関連,すなわち情報の「構造」をスキーマという。

(『算数教育指導用語辞典』p.44)

そして構造を,機構・原理という意味としたときに,学校教育のかけ算の「構造」は何で,批判者らのそれは何なのか,という点も,きちんと考えないといけないのでしょう.

これについて,論拠の提示というよりは,自分の読んできたことを整理しておきます.日本の学校教育のかけ算について,いくつか注意することはありますが,一言で表すなら「倍(multiple)の乗法」*3です.小数の乗法(5年)や比例(6年.ただしその土台はもっと下の学年から)の学習へ到達するまでに,学年に応じて,かけ算の学習が配分されています.「1つぶんの数×いくつ分」も,そういった流れの中に,位置づけることができます.

補足すると,2年で学習/指導する「かけ算」より前にも,1年の「まとめて数える」や「3口のたし算」が,かけ算の素地となっていますし,4年以降の面積については,長方形の面積は単位正方形の数によって,三角形・平行四辺形・台形などの面積は等積変形によって,公式を導き,あとは公式に当てはめて立式・計算となります.

批判者らの主張を目にしていったとき,上記と相対するような「構造」,すなわち彼らが子どもたちや学校教育(教師から文部科学省まで)に浸透してほしいと期待するような機構・原理を,残念ながら特定するに至っていません.

いちおう候補は2つあって,一つは「積(product)の乗法」,もう一つは「自由」です.wikipedia:かけ算の順序問題の「多面的にものを見る力や論理的に考える力を育てることにマイナス」で書かれている内容は,それぞれ(あるいは両方)に基づいて,説明ができそうです.

とはいえ私はというと,直積に代表される積の乗法や,「枠にとらわれない思考(ができる)」という意味の自由に,共感を示しつつも,6年間の算数の学習内容や,国内外の教育の状況を踏まえると,やっぱり2〜3年のかけ算では,それらの機構・原理に賛成できません.

直積では,児童らのかけ算の理解がうまくいっていないことが,Vergnaudの解説に述べられています.

教育における自由というのは,「2×8」という式と「8本足のタコが2匹いるときの足の数」を結びつけることではなく,「8本足のタコが2匹いるときの足の数」「2本足のタコが8匹いるときの足の数」「2匹のタコが8グループあるときのタコの総匹数」などを挙げ,そのどれになるだろうかと比較検討し結論を出せるようになること*4だと,考えています.


ああそうだそうだ,東北大学大学院の院生による小学2年生に対するかけ算の学習支援|メタメタの日で上に引用した部分は,その「どちらでもいい」という考えで,かけた結果の数量が,何になるかの検討が抜けているのが気になります.そこに関してVergnaudは,"But, if they are viewed as magnitudes, it is not clear why 4 cakes × 15 cents yields cents and not cakes."と指摘しています.

(最終更新日時:2012-11-13 晩

*1今月7日に書いた件は,この解説があってこそです.

*2:ただしこの「スキーマ(シェマ)」は,Greerの解説のタイトルそして本文にも見かける「model」と,関連づけられそうです.

*3:この言葉と,後述の「積(product)の乗法」は,小数の乗法における学習状態の移行によります.

*4:締めの文で,野暮な解説は書きたくなかったんだけど…クラスで(もしくは先生-生徒の間で),「2×8」は「8本足のタコが2匹いるときの足の数」になってもいいという解釈の余地もあります.それでみなが満足するのなら,まあそれでもいいでしょう.合わせて提案したいのは,「8×2」という式と,どちらが,「8本足のタコが2匹いるときの足の数」を表すのにふさわしいかという比較検討も,できるようになってほしいということです.余談で話すもどうぞ.

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