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2013年01月23日

[] 「ぜんぶで」メモ

このツイートが,「文章題の「ぜんぶで」のところだけみて足算で解く」ような教育であってはいけないという意図だとしたら,それは算数教育において周知の話です.

手持ちの情報を,刊行・実施された年にも注意しながら,見直しました.

整数の計算

整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)』の刊行は奥付によると「平成23年1月5日」ですが,収録されている論説は1970〜80年代が大部分です.

第1章が「加法・減法の意味」です.まずは,言葉だけで判断するのはダメだよというのが端的に記されている文を取り出します(p.24; 村田好道「加法・減法の意味」(1978)).「指導上の留意点」と題する,5項目の箇条書きの一つです.

2. 「みんなで」「合わせて」「残り」「ちがい」のことばだけの形式的指導にならずに,関係判断に留意すること.

key-words」を持ち出し,そのやり方ではまずいことを指摘しているものもあります(p.38; 片桐重男「式と作問の指導(低学年)」(1981)).

いったいこの説明はどのようにするのか,一つは,いわゆるkey-wordsに依ることであろう.

「あげた」とあるからひき算だとか,「ぜんぶ」とか「あわせて」とあるから加法だというようにである.確かにこのkey-wordsによって加法だろう,減法だろうと推測することはよい.しかし,これだけでは不十分である.なぜなら上の加法の問いのように,key-wordsのない場合がある.このときは,これによる判断は使えない.また2年になると逆思考の問題をとりあげる.このときは,加法のkey-words「ぜんぶで」があってもひき算になるということを判断させなくてはならない.すなわちkey-wordsだけに頼ってはいけないことを指導する.そこで,加法,減法であることの一般的説明が必要となる.(略)

「ぜんぶで」に相当する言葉を使用していなくても,たし算のように見えて,式はひき算にすることが期待される場面を,何人かが例示しています.

  • 今日伯母さんに鉛筆を4本いただいたので,私の鉛筆は9本になりました.私は何本持っていたのでしょう.(p.23; 村田(1978))
  • 子どもが18人います.そこへなん人かきたので23人になりました.なん人きたのでしょう.(p.28; 鈴木星一郎「加法・減法の意味(整数について)」(1978))
  • 7人で あそんで いました.なん人か きたので,12人になりました.なん人 きたのでしょう.(p.30; 伊藤説朗「加法・減法の意味の指導における諸問題」(1978))
  • ある数があって,そこに3が加わったら,全部で5になりました.さて,ある数とはいくつでしょうか.(p.46; 佐伯胖「「□+3=5が分からない」」(1986))

各解説には,「加法逆」「演算決定」「加法と減法の相互関係」など,現在も見ることのできる用語が含まれています.

「計算の力」の習得に関する調査,これでバッチリ!計算指導

平成17年(2005年)3月に実施された「「計算の力」の習得に関する調査」について,問題・正答率・概況がWebからアクセスでき,また本になっています(2011年).

第2学年の問題に「えんぴつを9本もっていました。なん本かもらったので,ぜんぶで15本になりました。なん本もらったのでしょう」とあります(第3学年にも).正答率は80%台で,他の「計算を支える力を見る問題」と同程度です.

算数教育指導用語辞典

最新の学習指導要領に準拠し,平成21年(2009年)に第4版として発行された『算数教育指導用語辞典』では,p.198の脚注で「たし算」という小見出しをつけ,合併,増加について書いてから,次のように記しています.

「合わせる」「みんなで」「全部で」などのキーワードに頼って判断させる指導がみられるが,それは好ましくない。操作や場面の意味をきちんととらえたうえで演算を判断させたい。

「ひき算の逆のたし算」(p.200脚注)では,「たべた」「のこっています」とあっても,計算ではたし算になる例を示しています.p.232脚注では「ふえましたか」の問題でたし算にしがちなことを,またp.264脚注では「15こもらった」とあっても式はひき算になる事例を,それぞれ指摘しています.

小学校学習指導要領解説算数編

2008年に公表された小学校学習指導要領解説算数編について,「各学年の内容」以降で「ぜんぶ」を検索しても見つからず,「全部」にすると,以下の4箇所を発見しました.

  • (p.76) 具体的な場面と対応させて表すという形での読み取る活動については,5+3=8の式を基に,例えば,「砂場で5人の子どもが遊んでいます。そこへ3人の子どもがきました。子ども全部で8人になりました。」というようなお話づくりをするという活動がある。また,5+3の式から,例えば,「砂場で5人の子どもが遊んでいます。そこへ3人の子どもがきました。子ども全部で何人になりましたか。」というような問題をつくるという活動がある。
  • (p.77) さらに,6−3+7の式からは,「りすが6ぴきいます。3びき帰りました。そこへ7ひき遊びに来ました。りすは全部で何びきになりましたか。」などの問題をつくり,絵を用いて表すこともできる。
  • (p.99) 式を読み取る指導に際しては,例えば,3×4の式から,「プリンが3個ずつ入ったパックが4パックあります。プリン全部で幾つありますか。」というような問題をつくることができる。

いずれも,式をもとにお話や問題をつくる活動として,取り上げられています.たし算やかけ算の式に対して,子どもが「ぜんぶで」を入れた文をつくるのを推奨しているわけです.その逆,すなわち「ぜんぶで」を含む文章題に対して,それを演算決定のキーワードにしてよいか否かについては,情報は見当たりませんでした.

Common Core State Standards for Mathematics

2010年に公表されたCommon Core State Standards for Mathematicsでは,「ぜんぶで」という言葉こそ出現しませんが,たし算・ひき算の構造や相互関係が表になっています.「Table 1. Common addition and subtraction situations」(p.88)です.

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「Add to」の「Result Unknown」と「Start Unknown」の文章題には,ともに「Three more bunnies hopped there.」という文があります.しかし場面が異なるので,式そして問題の構造が異なります*1

なお,同文書のp.15に「8+?=11」「5=□−3」という式も入っていることから,Add to,Take fromの各文章題は,Grade 1に含まれていると見るのがよさそうです.

まとめ

文章題の「ぜんぶで」のところだけ見て,たし算の式にするような指導には,1年であっても,賛同できません.

上記ではとくに,(日本の算数では)2年で学習する「加法逆の減法」を見てきましたが,実際には加減乗除のいずれにも「逆思考」のタイプの文章題あるいは場面があります.また言葉に引きずられることなく場面(数量関係)を認識し,それに基づいて式を立て,計算して答えを出せるようになることには賛成であり*2,これは数十年前から,算数において検討・実践がなされてきたことです.

近年の特徴として,挙げておいて良さそうなのは,次の2点です.一つは,「式を立て,計算して答えを出せる」に加えて,「なぜその式になるのかを説明できる」ことが,より強く,子どもたちに求められるようになりました.式を書いた本人が説明する場合,式を書いた子と説明する子が異なる場合や,正解の式・間違いの式の場合を含みます.

もう一つは,「かけ算の順序」を援用して「たし算の順序」を批判する人々の間では,減法逆の加法を含め,既知の「たし算の構造」について十分に共有ができておらず,そんな中で批判を繰り広げようとしている姿でしょう.

(最終更新:2013-01-24 朝

*1:ただし,「?+3=5」という式を児童らが書くのか,あるいは構造としてはそうであっても式では「5−3=2」とするのかについては,文書から読み取れませんでした.

*2:なお「図をかくこと」については,「見直しや説明のために,図をかけるようにすること」に賛成し,頭の中でイメージができるのなら,常に図にする必要はないとも考えています.