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かけ算の順序の論点整理

先月末に見かけた3つの事例を,かいつまんで報告します.

  • 2013年9月15日に発売された『小二教育技術 2013年 10月号 [雑誌]』のp.62では,かけ算九九でうまく立式できないというつまずきを防ぐため,「4まいの おさらに 3こずつ リンゴが のって います。リンゴは ぜんぶで 何こ ありますか。」という問題を用いた,授業の工夫を提示しています.同ページの図では,男の子が「簡単だ! 4×3=12 答えは12個だよ。」,女の子が「そうかしら…。3×4=12じゃないかしら。」と言っています.問題文を皿にリンゴが乗った図(絵)に表すことで,男の子は「そうか」と手を叩き,3×4=12になることを理解します。先生のまとめのセリフには「かけ算は、(1つ分)×(いくつ分)」とあります.
  • 2013年9月に刊行された『マニュアル授業から脱却する! 算数のクリエイティブ授業 7の仕掛け・30の演出』のp.45では,「1つの箱に,りんごが5個ずつ入っています。8箱では,何個になりますか。」という問題文をもとにした,授業の組み立てを提案しています.「5×8=40(個)」「8×5=40(個)」の式を,子どもたちの発言から拾い出し,子どもたちに比較・討論させることで,「5個の8つ分」と「かけられる数の単位と答えの単位とが同じになる」などが,かけ算の式に関する気づきになると指摘しています.
  • 2013年9月27日,掲示板の報告によると,京都府総合教育センターの単元指導パッケージのうち,小学校算数2年のかけ算の指導に問題があると,一人の府民が問い合わせ,「他の筋の通った考え方で説明できる計算式を『正しくない』と否定すること」を不適切と認め,当該パッケージ*1を削除しました.この報告は,じぇじぇじぇ!朗報! 京都府教育委員会も掛算順序固定の見解を撤回! | メタメタの日でリンクされています.


先々月に,かけ算の順序論争は,「このように解釈できるから,その式は間違い」と「このように解釈できるから,その式は正しい」の衝突であると記しました(片耳あたり3本の両耳分).衝突と書きましたが,それらには「式(の読み)の多様性」という共通点があります.
上の3例にもまた別の共通点が見えます.「場面(文章題)に対応するかけ算の式は一つだけなのか」という問題意識です.
問題意識は共通でも,展開は違ってきます.雑誌・書籍から見てきた前二者では,かけられる数とかける数とを交換した2つのかけ算の式を,「場面(文章題)に対応するかけ算の式の候補」として示しています.それから---これまで学習してきた内容をもとに---そのうちの一方が正解で,もう一方は「場面に合わない」と判断する,という流れになっています.結論として,その種の文章題では,正解となるかけ算の式は「一つ」です.
府民の問い合わせの件を読んでみたところ,根拠として,いわゆるトランプ配りと,言葉の式の交換法則を,記載しています.トランプ配りは『授業に役立つ算数教科書の数学的背景』(2013年はトランプ配り),言葉の式の交換法則は『数とは何か?―1、2、3から無限まで、数を考える13章 (BERET SCIENCE)』(優しい本)により,算数教育に関わる大学教員も根拠付けに採用しているのを今年,見てきました.それらに依拠するなら,正解となるかけ算の式は「二つ」です.
とはいうものの私自身は,前二者すなわちかけ算の式は1通りのみとし,逆に書いたら間違いとする指導に,賛同します.理由は主に2つあって,一つは,「一つ分の大きさ×幾つ分」が,乗法構造の理解において最も基本となっているから,もう一つは,ある場面に対して解の候補を複数挙げ,比較検討を通じて結論を得る(候補の中から一つを選ぶ)という活動に期待を寄せているからです.


「かけ算の順序」あるいは「乗法の意味の理解」に関して,これまで当ブログほかで書いてきたことを整理し,一つのまとまった文章にするには,どのような構成にすればいいか,少し考えてみました.
以下は章立て案です.今後,何度か改訂する予定です.主要な過去の記事などにも,リンクしていきます.

  • はじめに
  • かけ算の順序論争:概観
    • 6×4,4×6論争:遠山(1972)の視点 * * *
    • インターネット上の論争
    • Wikipedia「かけ算の順序」 * * * *
    • 他の事例 * *
  • かけ算の指導の状況
    • 各学年の学習事項
    • かけ算の導入
    • 基準量が後に示された問題 *
    • □×△と△×□,答えは同じだけど,意味は違う
    • 逆に書いても正解
      • アレイ
      • 直積 *
      • 高学年 *
    • 指導例
      • 問題解決学習 * *
      • 作問 * *
      • 条件過多・条件過少・逆思考
      • 1あたり *
    • 評価
      • 診断的評価・形成的評価・総括的評価 *
      • 学力調査・学術調査
    • まとめて数える
  • かけ算の「順序」考
    • 被乗数×乗数,乗数×被乗数 *
    • 交換法則
    • 結合法則 *
    • 計算の順序
    • 九九
  • 乗法構造 *
    • 構造とは *
    • 1970年代の乗法構造:森,銀林
    • 1983年と1988年の乗法構造:Vargnaud
    • 海外に見る乗法構造:Anghileri,Greer,Schwartz
    • 算数教育への影響:中島(1968b),遠山(1979) * *
  • 倍と積 * * *
    • 倍のかけ算
    • 積のかけ算
    • 倍指向と倍の乗法
    • 積指向と積の乗法
    • 積と倍の相互変換
    • 教育に携わる人々の見解 *
  • 式に単位をつけるべきか * * *
    • つけない:数の演算
    • 何の何倍
    • パー書き
    • 単位は量:3mはm×3
    • 歴史的に見ると *
  • 日常生活のかけ算
    • 概要 * *
    • 金額表記 * *
    • 物品の数量表記 *
    • 寸法および画面解像度 *
    • もの×もの
    • 海外では *
  • かけ算の支援ツール
    • 九九の表
    • 累加・3口のたし算
    • サンドイッチ
    • 1あたり・内包量
    • トランプ配り
    • アレイ * *
    • タイル
    • 面積図
    • 関係表 *
    • 数直線・二重数直線
  • これまでの取り組み
    • 出題例の収集 *
    • Q&A *
    • 九九文章題ジェネレータ *
    • 小話集 *
  • おわりに

(最終更新:2013-10-21 晩)

*1:通し番号に抜けのある「39」と思われます.