Hatena::ブログ(Diary)

わさっき RSSフィード

2013年12月07日

「速さ」の周辺

いくつか気になることがあり,とりあえずはてブしました.

気になったことの一つは,算数において「速さ」と言えば,量と測定の領域に関する学習事項なのに,それがまったく現れていない点です.

学習事項と領域との対応づけをいくつか書いておくと,速さのほか,「1あたり量」と書かれてありましたが,学習指導要領では「単位量当たりの大きさ」と表記されている事項は,量と測定になります.割合は,数と計算ですし,比例については数量関係です.

「こみぐあい(人口密度)」を題材に,単位量当たりの大きさについて5年で学習し,そのことを踏まえて,速さを6年で学習することになります*1google:速さ+学習指導案で上位に出てくる学習指導案では,距離と時間を列に置き,各走者の状況を行とした表を見ることができます.それらは,ここで示されている表や,それを2×2に縮めて「○秒で□mだと、△秒で▽m」を示した表と,意味合いが異なってきます*2

領域ごとに厳密に縦割りして,学習せよというわけではありません*3が,「速さの問題は、比例の問題の一形態といえる」は,算数教育の系統性を意図的に外しているように見えて,違和感を覚えたのでした.

上のことと同時に,気になったのは,「速さ」が算数だけで語られているように見えたことです.

思い浮かぶのは,理科です.現行の学習指導要領の理科を確認しておくと,「雨の降り方によって,流れる水の速さや水の量が変わり,増水により土地の様子が大きく変化する場合があること」が第5学年に入っています.

その内容,そして以前*4からも理科では,「水の速さ」と書かれていても,毎秒何メートルかを求めるというわけではありません.

実際のところ,「速い・遅い」を言うのに,算数・数学の知識は不要です.見比べればいいし,速度計などの道具を使うことだって,川なら何かを浮かべて観察することだって,できるのです.しかしそれでは,主観や道具に頼りっぱなしとなってしまいます.簡単な事例については「1秒あたり何m」と求められ,かつその計算には意味があることを,大人から子どもに伝えたいところです.子どもたちは理科と算数,そして日常生活を通じて,速さの計算や値の比較ができるようになるとともに,その量感を理解してくれればいいのです.

将来のことを見据えて「速さ」を学習することも,可能なはずです.「どうして速さを学習するのか」「なぜこんな面倒な計算をしないといけないのか」の答えです.

答えとして自分なりに思い浮かぶのは…

  • 速さは,時間やお金と同じように「量」で表すことができます.
    • 量で表すことができれば,目的に応じてコントロールもできます.新幹線に乗っていて,途中で「10分遅れ」と言われていても,目的地に着いたときには3分遅れくらいで済んだりするのは,運転士さんが(安全な範囲で)スピードアップをしてくれたからです.
  • 車に乗ったり,自転車を漕いだりしても,速さを感じることができます.
    • 一生懸命漕げば,そのぶん速くなります.
    • 車でも電車でも,乗っていて,カーブでぐわっと来ることがあります.「遠心力」と言います.その力は,速ければ速いほど強くなります.速さは,遠心力だけでなく,いろいろな物理量や物理法則*5に影響している,非常に重要なモノなのです.
  • 速さは,単純に足したり引いたりしてはいけない量です.
    • 例えば,山登りをしていて,疲れたもう進めないと言う友だちがいたとしましょう.しかし止まるわけにもいきません.さて,あなた1人で手を取って一緒に行こうとするか,2人で引っ張るか,クラスみんなで協力するかで,歩く速さが変わるでしょうか? 30人いたら速さが30倍なんて,そんなことはありませんよね.
    • ですが,ある場合には,単純に足したり引いたりできます.一番分かりやすいのは,「相対速度」です.なぜ足したり引いたりできるかというと,速さの意味に立ち返れば,確かめられます.*6
  • 「(速さ)=(長さ)÷(時間)」といった3つの値(それぞれ異なる量)の関係式は,いろいろなところで現れます.そのかけ算・わり算の式は,日本だと「はじき」「くもわ」などと言って覚えたりすることがありますが,海外でも同様の理解の仕方があります.算数の悩みは日本でも他の国でも一緒なのです.

「速さの周辺」で,見てきたこと,書いてきたことを:

はじめから線形構造を持つ典型的な量である速度についていえば,

30km/時+40km/時=70km/時, 2×30km/時=60km/時

のような計算には明確な意味がある.われわれはある速度の2倍の速度というものを容易に頭に思い浮かべることができる.注) それは,上り坂を進む列車を機関車2台で引っ張ると,速度が1台のときの2倍になるかどうか,という問い(答:一概には何ともいえない)とは何の関係もないことである.

(『線型代数 (1976年) (現代数学への序章〈3 赤摂也,広瀬健編〉)』p.139)

所要時間Uと移動距離Vから定まる速さを

    W=f(U,V)

で表そう.

時間の単位Tと長さの単位Lを決め,U,Vをこれらの単位で測った結果が

    U=T×u,V=L×v

であるとすれば,さきの定義により,この期間における速さは

    W=f(T×u,L×v)

     =f(T×u,L)×v

     =(f(T,L)÷u)×v

となる.

それゆえ,速さの単位としては,f(T,L)すなわち‘時間Tに距離Lを動く速さ’を採用するのが便利である.これは‘時間の単位Tと長さの単位Lから導かれた速さの単位’であり,L/Tで表される.

この単位を使って速さWを測り,その結果を

    W=L/T×w

とすれば,上の計算から

    w=v÷u

が得られる.

(『量と数の理論 (1978年)』pp.52-53.原文では「L/T」は分数式)

[3] 2時間で240km進むA列車と,3時間で420km進むB列車があります。

(1) A列車の時速を求めましょう。

(B) この2つの列車が同時に同じ方向に走り出したとすると,5時間後に進んだ道のりのちがいは,何kmになりますか。

平成23年度実施 学力実態調査の集計と考察〈量と測定 図形〉 第6学年の結果と考察)

  • Rate
    • A boat moves at a steady speed of 4.2 meters per second. How far does it move in 3.3 seconds?
    • A boat moves 13.9 meters in 3.3 seconds. What is its average speed in meters per second?
    • How long does it take a boat to move 13.9 meters at a speed of 4.2 meters per second?

([Greer 1992] p.280; Greerによる,乗法・除法が用いられる場合

f:id:takehikom:20121014055710j:image

(『親子で学ぶ数学図鑑:基礎からわかるビジュアルガイド』p.29)

f:id:takehikom:20130130045940j:image

(『Help Your Kids With Maths』p.29)

第5学年では,これまでに指導した量のほかに,異種の二つの量の割合としてとらえられる数量があることを指導する。米の収量を比較するのに,10a当たりの収量で比べたり,人口の疎密を比べるのに1㎢当たりの人口,すなわち人口密度を用いたりするのが,これに当たるといえる。その比べ方や表し方について理解し,それを用いることができるようにすることを主なねらいとしている。

その際,基本的な量の性質をもっていない量を比較するのは初めてであるので,次のような指導を通して,異種の二つの量の割合としてとらえられる量を比べることの意味を十分理解させるように指導する。

まず,人口密度のように,一つの量,例えば人数だけに着目したのでは比べることができないし,単位となる数量が幾つ分あるかを数えるという測定の考えでも数値化することができない量があることを理解できるようにする。(略)

(小学校学習指導要領解説 算数編(2008), p.179)


追記:速さを足したり引いたりできない場合,できる場合があるのは,『線型代数』よりも前に『新版水道方式入門 小数・分数編』で書かれていました.http://books.google.co.jp/books?id=CE4LY17SPeoC&lpg=PP1&hl=ja&pg=PA27#v=onepage&q&f=falseで読めます.

(最終更新:2013-12-08 朝

*1:算数教育の変遷をご存知の方には釈迦に説法ですが,かつては,単位量当たりも速さも,5年の学習事項でした.平成10年の学習指導要領では,いずれも6年でした.

*2:「○秒で□mだと、△秒で▽m」は家庭学習やドリルに向いていて,その一方で学習指導案は,1問をクラス全員で取り組むことを前提としている点を,無視するわけにいきません.

*3:現行と一つ前の学習指導要領解説にある「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか」は,量と測定の学習事項を数と計算にマージしたものとなっています.以前にも書きましたが,このひもの長さの件は,長さを対象とした計算は第3学年から(1〜2年では,長さのたし算・ひき算・かけ算は発展扱い)であることを示唆しており,逆思考(乗法逆の除法)であり,そして,幾つ分が先,一つ分の大きさが後に出現しているわけで,多方面にわたって示唆を与える問題文となっています.

*4http://www.nier.go.jp/guideline/を見てみると,「川の水の流れの速さ」は昭和52年告示,昭和55年施行の学習指導要領で,第4学年に記載があります.自分自身は,カーブになった川の内側・外側や,川の真ん中に杭が刺さっている状況での周辺について,矢印の長さで,速い・遅いを表した図があったように記憶しますが,Webではよい事例が見つかりませんでした.

*5子ども向けに言葉を選ぶなら,「運動のルール」でしょうか.

*6:できないのはなぜかを理解するには,エネルギーや運動量といった,また別の物理量や物理法則を必要とします.