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授業中の電源の使用を禁止します

「すでに授業のWebページでお知らせしていますが,本日の授業より,授業中,講義室内でみなさんが部屋の電源を使用するのを,禁止することにします.ノートPCの電源接続も,携帯情報端末などの充電も,禁止とします.この科目限定の,実験的な措置です.
 ただし,初回の授業で,スライドを使って説明しましたが,この授業では,ノートPC,タブレット端末,スマートフォンなど,電子機器類の使用を認めています.そこについては変更ありません.授業Webページあるいは他のWebのコンテンツを参照することや,自分で例題プログラムを動かすことは,引き続き,歓迎したいと思います.
 電源の使用禁止については,まずみなさん,そうしてほしいという複数の先生の意見がある,という認識を持っておいてください.具体的に誰が,というのは申し上げられませんし,そもそも記名式のアンケートを実施したわけではありません.
 ですが,そういった『出所のない声』が重なって,規制すべきという『雰囲気』ができつつある,というのが私なりの感覚です.
 この授業で禁止することにした理由はいくつかあります.まず部屋全体を見渡したときに,充電をしている状態が不快に思えるのです.
 もう少し具体的に言いましょう.部屋の横側に,コンセントがあります.そして,本日は禁止のお知らせをしているので,誰もしていませんが,これまで,学生がコンセントに一番近い席に座り,デバイスを机の上に置き,線を垂らして充電していたわけです.
 何が不快なのかというと,その線の状況は,私がそこを通ってはいけないことの,緩やかな意思表示になっている点です.『とおせんぼ』ですね.*1
 いや,実際に巡回だのトラブル対応だので,そこを通ろうとしたら,察して線を外してくれるでしょうし,実際そうしてくれたことはあったわけですが,それでも,通せんぼしているように見えることは,授業を運営する教員にとって『不快』,この言葉がきついというのなら,『心理的抵抗』を生み出しているのです.
 ケーブルで通せんぼしているのがダメ,という単純な話ではありません.コンセントのそばに,充電器と機器をつけて,通行可能にしていたとしても,こちらはこの体格と挙動ですので,通行するとその機器にぶち当たったり,蹴っ飛ばししてしまう可能性が,なきにしもあらずです.
 ところで,線を這(は)わせて机の上に機器を置くにせよ,そうじゃなくてコンセントのそばで充電させるにせよ,共通して,また別の不快感があります.
 それをしている人だけが,コンセントを占拠しているという状態です.
 もちろんそこについても,実際に授業で充電しよう,電源を使用しようと思う学生の数が,部屋のコンセントの総数以下なら実際上,問題がないと言えますし,その行為を『占拠』と称して非難するのなら,お花見や運動会なんかの席取りもアカンのかってことになりかねません.
 私自身も,学会や講演会の会場に着いたら,最初に探すのは,見聞きしやすい場所ではなく,ノートPCのケーブルをつなぐための,コンセントの位置だったりします.余談の余談ですが,学会ではそういう場合,テーブルタップを用意してくれるところがありますし,自分で三つ叉を持参して,使うことがあります.
 先ほど『実際上,問題がない』と言いましたが,それはおそらく,使う人の一方的な意識であって,使わない人はまた別の意識を持っていることと思います.授業中に充電して,授業後に取り出せるような,充電ステーションなんかが教室内に,あるいは学内に,あったら便利じゃないかと,ここまでの話を聞いて,思った人がいるかもしれません.
 実は電源使用を禁止する一番の意図は,そこにあります.ナニナニだからダメだ,コレコレの可能性があるからアカン,と理由をつけて制限するのは本意ではなくて,みなさんそれぞれに考えてほしいのは,電気を使用するとはどういうことか,なのです.
 追加で一つ.『盗電(とうでん)』という言葉があります.電気を,盗むことです.駅など公共の場で,スマホのバッテリが切れた,あ,ここにコンセントがある,と,充電器をつないだりすると,しょっぴかれることがあります.『しょっぴく』は,聞き慣れませんか? 『逮捕』のことですよ!
 大学内は,みなさんが授業料を払って授業その他の活動ができる場ということもあり,おそらくその盗電の対象となりません.また授業じゃなくて,教員・学生のゼミで,気心の知れた同士だったら,バッテリーがほとんどないんで充電してますと,一声があれば,そうだね,『コンピュータ 電気なければ ただの箱』なんて言葉も昔あったなあ,なんて笑いながら言う先生も,いらっしゃるかもしれません.
 繰り返しますがそれが許されるのは,大学の中だからです.
 とはいえ学外にも,あるといえばあります.マクドナルドなんかで,あるいは南海の特急サザンの指定席や新幹線なんかに乗って,座席のそばのコンセントが使えるのは,そこで客に利便性を提供しているからです.利便性という言葉で引っかかる人は,『一つのサービス』と読み替えてください.
 そういった配慮や,そうでない場合でも黙認されてきたという状況を考慮せず,『空いているから挿していい』という考えで,どこでもプラグインをしていると,もしかしたら取り締まられるかもしれないし,そこまでいかなくてもダメですよと叱られて,叱られた側・叱った側がそれぞれ,不快に思うことだってあり得るわけです.言葉にならなくても,あの人,あそこ使ってる,ケチくさいなあ,と思われているのです.
 そうしてみると,授業中,ゼミ中,あるいは外出中の充電の姿を見ると,こう聞きたくなるかもしれません.『家で充電してこなかったの?』と.あるいは,ケータイやスマホの充電であれば,モバイルバッテリーを持っておくと便利だよと,アドバイスすることだってできるわけです.
 『禁止』一つで,話が長くなりましたが,ここまでをまとめると,機器を充電している光景は,何種類かの不快感を生み出しています.スマホにせよノートPCにせよ,授業中に使うのであれば,家で充電しておくことができるはずです.それは,電子機器を使う者が整えておくべき『身だしなみ』と言っていいのかもしれません.
 こういったことをもとに,自分たちで『電力を消費する』とはどういうことかを考える機会を設けたいと思うようになり,授業中の機器使用は継続したまま,実験的に,電源使用不可のルールを設けることとしました.
 『自分たち』には,もちろんこのルールを決めた私が含まれます.電源使用禁止は,それまで使ってきた学生には不快感を与えているのも,また事実ですので,今年度の授業や,先生方の意見,みなさんの感想を通じて,より良い方向を探っていきたいと思っています.なお,本日の授業の最後は,小テストではなくアンケートです.授業中の電子機器の使用やコンセント接続について,感想を書いてください.
 そうそう,私自身の授業用ノートPCは,90分間使うということもあり,すみませんがつながせてくださいね.もう一つ余談を言うと,3年前期の授業では,セキュリティのことを各自調査して,PowerPointファイルを作るレポート課題を課しています.試験の前の回に数名,前に立って発表してもらっています.もちろん発表者には加点します.事前にファイルを送ってもらい,ノートPCやプレゼンマウスなどのお膳立てはすべてこちら,としてこれまで運用していますが,自分の機器を使いたいという学生はいなかったりします.みなさんが3年生に上がったときには,希望者を募りたいと思います」

追記

主要な時系列を書いておきます.本記事を執筆し12月17日付けでリリースしたのは,12月16日(月)の朝7時前です.その日の2限の授業で,10:55ごろに上の内容を簡略化して話しました.そして12:10すぎから,「この科目を含め,授業中の「電子機器の使用」と「電源の使用禁止」について,賛成・反対と,どうあるべきかについての意見を書いてください」をスクリーンに掲げ,回答してもらいました.

回答を読んだのは翌日になります.賛成・反対の数を集計し,主要な意見を書いて授業のページで公表しようと思ったのですが,読んでいくと,多様な意見を目にしました.電子機器の使用の禁止に賛成といった書き方もありました.もちろんそれを,「電子機器の使用:反対」に一つ,カウントするのは簡単ですが,回答を読み通しまして,「件数」や「主要意見」に押し込めるのではなく,各学生の検討そして出したそれぞれの回答を尊重するような,適切な(もっとコストをかけた)フィードバックをしないとと感じました.
17日には,この記事を読んだある方よりメールをいただきました.そこには,この件はかけ算の順序問題と関係しそうだとおっしゃっていました.もともとそのような意図はなかったのですが,もし結びつけるのなら,複数の解がある状況でどのように取捨選択し,何を結論とするか,という問題意識や,そんなことよりも,児童や学生が学校・授業を通じて学んでほしいことは何かに迫るべき,というある種のツッコミでしょうか.
毎年12月には,自分の記憶に残る授業や問題提示を行っています.以下に3年分,リンクしておきます.

(最終更新:2013-12-18 朝)

*1:遅刻した学生も,そのケーブルを横切るような通行がしにくくなります.ケーブルをぶら下げて充電などしている学生には,後ろから来る人が見えにくいこと,遅刻は良くないと言っても授業をする側としては受け入れなければならないことを,付記しておきます.