わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

学習指導要領解説を批判的に読む

ご面倒をおかけします.ツイートも拝受しました.
今月になって,一連の記事を書かれており,現在(2013年12月22日)も継続中とのこと.文書を精読し,自己の経験や認識と照合するというスタイルを,批判するわけにはいきませんが,内容面でいくつか気になること---「これは間違い」よりも「この情報とくっつければ新たな展開があるんだけどなあ」---を目にするので,自分なりにメモするとともに,[twitter:@tamami_tata]をコールしておきます.

関連書・関連情報

読者への便宜としてhttp://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syokaisetsu/にリンクし,東洋館の『小学校学習指導要領解説 算数編』を読まれていますが,他に照合しておきたい情報もあります.
本だとまず,一つ前の学習指導要領解説です.『小学校学習指導要領解説 算数編』です.現在Amazonでは1円(+送料)で購入できます.一昨年に取り寄せたところ,「平成19年7月 一部補訂」の本が届きました.新旧を読めば,現在の学習指導要領解説は「作成」ではなく「改訂」されたものであることが容易に確認でき,また何が新たに追加されたかも分かりやすくなります.
用語で気になるものが出てきたら,歴史的には学習指導要領データベースインデックス,今はどうかについては算数用語集(啓林館)に当たりたいところです.
自分(takehikom)が書いてきたものについて,リンクしておきます*1

教科書センターに行って感じたことと、とある海外の動画について(12/28)

〔この項目は2013年12月30日に作成しました.〕

さっそく本文より:

まず、比例の式を「y= きまった数 × x」「y= x × きまった数」という言葉の式ではっきり2通りのせているのは、学校図書だけのようです。東京書籍は、はっきりとは示していませんが、平行四辺形の面積を使った比例関係で、「y=x × 数」の形の式が掲載されていました。他の教科書も、もしかすると教師用指導書のなかで、問題の答えとしてこの形の式が書いてあるのかもしれません。

比例の2種類の式についてですが,前者は比例の必要十分条件,後者は比例の十分条件のように取り扱っている,という可能性はないでしょうか.具体的に書くと,こうです.

  • 「y= きまった数 × x」で表せるならば,yはxに比例すると言える.
  • yがxに比例するならば,「y= きまった数 × x」で表せる.
  • 「y= x × きまった数」で表せるならば,yはxに比例すると言える.
  • (yがxに比例するならば,「y= x × きまった数」で表せる,とはしない.)

とはいえ教科書も問題集もチェックしておらず,いくつか記事を読ませていただいて,思いついた仮説です.そして小学校の算数には必要条件も十分条件も出ませんので,それらの用語は数学からの借用です*2
小中学校の範囲で,「yがxに比例するならば,「y= x × きまった数」で表せる」も成り立ちますが,文字を用いた式の変形や,文字を用いた式への交換法則の適用は,小学校では出てきませんので,「y= きまった数 × x」と「y= x × きまった数」を分けているのかな,とも思っています.

さて、一方、takehikoMultiplyさんが、興味深い海外の動画と日本の古い資料を紹介してくださっています。きょうはまず動画について。

ご紹介ありがとうございます.内容や句読点から分かるように,サブアカウントによるブログです.当ブログは雑記であり属人的であり饒舌なのに対し,かのブログは事例中心であり作者情報をできるだけ書かず,感想も控え目にしています.「もう一つのブログ」という書き方で,記事間でリンクしています.

二重数直線が日本だけのものではないことは、二重数直線は、もはや Double Number Line (動画のリンクあり)で書きましたが、あのときの Tad Watanabe さんは、「4つずつりんごがのっているお皿が6皿あるときのりんごの総数」を6×4という式で書いておられたのに対し、上記リンク先の Katie Tatum さんは、同じ問題を解くときに、途中で「×6」と書いておられるのが印象的でした。

Tad Watanabeというと,前に(といってもこの記事の後ろになりますが),Tape Diagrams and Double Number Lines: Visual Tools for Thinkingをリンクしていましたが,Elaboration of Georgia Performance Standards: Mathematics: Double Number Line Diagramsと,2つの動画のほうが分かりやすいですね.特に「UPDATE: February 4, 2012」以降でリンクしている,2番目の動画では,図中に矢印と「△×」が書き込まれていて,比例関係(proportional relationshipあるいはproportional reasoning*3)がより明確になっています.乗数を左に置くのは,日米の算数教育の違いを熟知しているからこその一貫性によるものと思われます.
あと,Google Scholarで検索したところ,「double number line」でヒットする最も古い文献は1993年公表です.米国に関しては,以前(これも記事の下になります)書いたとおり,Common Core State StandardsのMathematicsに「double number line diagrams」が入っているのが大きいでしょう.

学習指導要領「解説」で、二重数直線はどのように出てくるか。(12/24)

〔この項目は2013年12月25日に作成しました.〕

さっそく本文より:

二重数直線というのは、2本の数直線を並べて描いたもので、比例数直線、複線図などとよばれることもあるようです。どれがもっとも一般的な名称かはわからないのですが、とりあえず私は二重数直線とよんでいます。

「二重数直線」の名称でいいのではないでしょうか.
というのも,外国にも見られるからです.Common Core State StandardsのMathematicsには,「double number line diagrams」と書かれています(http://www.corestandards.org/Math/Content/6/RP).http://www.youtube.com/watch?v=89VhAPhvNcAでは,電子黒板を使った解説を見ることができますし,静的なコンテンツであれば,Tape Diagrams and Double Number Lines: Visual Tools for Thinkingがおすすめです.
少なくとも日本と米国で近年,活用されるようになった図式と理解してよさそうです.表と異なり,量感を可視化することもできます.

私は、「1メートルの長さが80円の布を2.5メートル買ったときの代金」という発想は、「単位量あたりの大きさ」をもとにしていると理解しています。つまり、長さと価格の関係を使ったかけ算です。しかし、それを二重数直線で表すときには、「割合」を使っている。

たしかに,「長さと価格の関係を使ったかけ算」に基づくと,単位量あたりの大きさは比例定数に対応づけられます*4ので,80円/m×2.5m=200円と表せます(教科書で,あるいは小学校の授業で,このように表しているかは別として).
それに対し,割合を使う場合は,2.5メートルの「メートル」は取り除かれ(あるいは2.5倍とみなして),80円×2.5=200円となります.
この2種類の式の解釈は,Vergnaud (1983)の文献でも見ることができます.メートルを取り除くことについては,「(1メートルの長さが)80円」と「代金」という,同種の量におけるスカラー関係が,背景にあります.『算数・数学科重要用語300の基礎知識』(p.187)で整理されています.筑波の田中先生は,『筑波大学附属小学校田中先生の算数4マス関係表で解く文章題―小学4・5年生 (有名小学校メソッド)*5(p.12)や『AERA with Kids (アエラ ウィズ キッズ) 2012年 11月号 [雑誌]』(p.17)によると,「〜倍」と見るほうを採用しています.
複数の考え方ができる中で,どれを採用するのかは,実践や先生方のノウハウの継承,また文献などから知り得る歴史的な流れ*6をもとに,その都度決めていく必要があります.「かけ算の順序」論争を見ている限り,批判する人々*7は,「歴史的な流れ」を整理しきれておらず,ネットで騒ぐだけで算数教育に貢献できそうにないな,という感触を持っています.

これは本来であればシンプルに、「80円の2.5倍は何円ですか」ときけばすむ問題のように感じられます。80×2.5を学習したいのなら、「80mの2.5倍は何mですか」のほうがより適切かもしれません。1メートルをかませることでわかりやすくなっているようにも見えますが、結局、「布の長さが2.5倍になっているので」ということを根拠にしていることから、「倍」を使っていることにかわりはありません。

「80円の2.5倍は何円ですか」「80mの2.5倍は何mですか」といった,倍概念を使ったかけ算を多数,練習しても,日常生活での「1メートルの長さが80円の布を2.5メートル買ったときの代金」へはつながらないように思います.その場面の「2.5メートル」を「2.5倍」と見なす,という乗法構造の理解が,日本にせよ米国にせよ,小数のかけ算・わり算,割合・比・比例関係などの学習と関連する形で,含まれているわけです.
ところで,長さと金額の出題は,学習指導要領解説の第3学年の中に「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか」として現れています.慣れれば85×25と書ける(ことが期待される)のですが,最初は例えば「1mのねだんが85円のリボンを2m買うと代金はいくらか」とし,これだとテープ図をもとに85×2と表せるので,その後,2を25に変更するというのがひとつのアプローチです.小数のかけ算についても,2メートル買ったとき,3メートル買ったとき,そして2.5メートル買ったときの値段がどうなるかを,二重数直線を使って把握*8すればいいのです.

なお、異種の二量の割合と同種の二量の割合で二重数直線がどう違ってくるかということについては、「単位量あたりの大きさ」と「割合」の違い (2)で書きました。

リンク先を読んだのですが,「4個 × 6倍 =24個」という式も,数直線に添えた「0倍」「1倍」「6倍」という値も,これまで見てきたものと異なります.
みかんの問題をもとに,標準的な描き方を言うと,Aの二重数直線を描いたら,「1人」から「6人」へ向けて矢印を作り,そこに「6倍」もしくは「×6」を添えます.「4個」から「24個」へも,同様の矢印と6倍の情報をつけます.そして4×6=24の式を得ます.

学習指導要領「解説」の中で、割合の三用法はどこに出てくるか。(12/21)

〔この項目は2013年12月30日に一部書き換えました.〕

「割合の3公式」という言葉がどこから出てきたのか,知りたいところです.タイトル変更の件,承知しました.
最もポピュラーなのは「割合の3用法」です.また歴史的には「比の3用法」があります.ここで「比」は,a:b=c:dではなく(これは「比例式」として,現在,中学1年で学習します),a:b=cという等式がもとになっています.
3用法という言葉は日本独自ですが,かけ算1つにわり算2つという相互関係は,米国のCommon Core State StandardsGreer (1992)でも見ることができます.はじきの数量関係も,海外文献にあります(はじき〜図).
それはさておき本文より:

資料を数量的に考察する場合には,数量の大きさの間の関係を差でとらえる場合と割合でとらえる場合がある。資料の全体と部分,部分と部分の関係を考察する場合には,割合を用いて表す場合が多い。
第4学年までに,基準にする大きさを1として,それに対する割合を小数で表すことを経験してきている。第5学年では,百分率について理解し用いることができるようにすることをねらいとしている。
割合をなるべく整数で表すために,基準とする量の大きさを100として,それに対する割合で表す方法が,百分率(パーセント)である。したがって,割合を整数で表すと分かりやすいというよさに気付くようにすることが大切である。

(冊子p.162〜163/算数PDFファイルp.189)
というふうに、文章で説明しています。つまり、第4学年で割合は履修済み的な発想になっています。

学習指導要領「解説」の中で、割合の三用法はどこに出てくるか。 | TETRA'S MATH

もし「割合は履修済み」だったら,「それに対する割合を小数で表すことを経験してきている」ではなく「それに対する割合を小数で表すことを学習してきている」と書かれるはずです.
PDFファイルで「学習し」と「経験し」をそれぞれ検索して出現位置を見比べると,それらの使われ方の違いを見ることができます.
「割合」の学習について,歴史的なことを含めて『数学的な思考力・表現力を伸ばす算数授業―教材の本質を問い、学び合いを通じて』(pp.60-69)で整理されています.当ブログで後日,取り上げますが,まず最低限の理解は,(1)「割合」の概念は算数の中で広範囲にわたること,(2)算数において「割合」概念の理解と用語の利用は別であること*9,(3)「2つの量の割合」と「異種の2つの量の割合」は区別されていること*10,あたりです.個人的には,「異種の二つの量の割合」を求めるための式は,数学教育協議会が提唱してきた「度の第一用法」になっているなあとも感じています.

学習指導要領「解説」の中に出てくる、言葉の式(12/21)

言葉の式については,『数学教育学研究ハンドブック』の第3章§3も大事なところです.
それはさておき本文より:

(縦)×(横)だけではなく、(横)×(縦)が加わったことには経緯があるらしいのですが(後日、確認します)、ここで2種類の式を記載したということは、裏を返せば、そのほかの式は1種類か示されていないから、それが正しい順序という解釈にもつながりかねない、ということは言えるかと思います。

学習指導要領「解説」の中に出てくる、言葉の式 | TETRA'S MATH

経緯はおそらく,wikipedia:かけ算の順序問題で「上野健爾氏」を検索すれば見つかる件と思われます.
個人的には(横)×(縦)が加わった理由として他に2種類,挙げてよさそうに思っています.一つは乗法の意味の違いです.アレイや長方形の面積は,積あるいは〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉であり,りんごの数を求めるなどの倍あるいは〈乗数と被乗数が区別される文脈〉と分けて考えればよいわけです.2種類の文脈については,乗数効果で挙げた論文が元になっています.
積と倍の特徴を自分なりに表してみると,次のようになります.

    • 一つの場面にかけ算の式は2つ(a×b=pとb×a=pのどちらでもよい)
    • かけ算の式1つにわり算の式1つ(a×b=pに対して,a=p÷bとb=p÷aは実質的に区別されない)
    • 一つの場面にかけ算の式は1つ(b×p=aのみ)
    • かけ算の式1つにわり算の式2つ(b×p=aに対して,p=a÷bとb=a÷p)

ただし,上野はそういった2種類の区別は念頭に置いていないとも想像できます.バツとされた事例を聞いて,そういうのは良くないと述べた次第であり,そこから,(横)×(縦)も加えましょうとする(明文化されていない)意思決定が入っています.算数・数学教育に携わってきた数学者の記事というと,今年,multiplication is the area of the rectangleで似たロジックを見てきました.
理由に立ち返ると,2番目は,数学教育協議会主導の「タイル×タイル」への対抗ではないかと推測しています.タイル図では,縦の大きさを1あたり量,横の大きさを土台量として定型化していますが,2年のかけ算にせよ,長方形の面積にせよ,そのように縦・横に意味を割り当てるのは数学的に合理的ではなく,(横)×(縦)も長方形の公式にする段階から理解するのでいいのでは,という発想です.手元に,初版が1972年で2012年に復刊された『さんすうだいすき 第10巻 かけざんをやろう』があるのですが,タイルとかけ算の式の対応づけは,p.49を除き,「縦×横」です*11.0×3や4×0のタイル表現は,それぞれ1×3と4×1の箱を点線にしています.

Q&A

〔この項目は2013年12月25日に作成しました.〕
Q: こんな記事を作っていて,楽しいですか?
A: いちおう読める文章となるよう,取りまとめるのは,あまり楽しくないのですが,キーワードをもとに本を読み直したり,Webで新たな情報を見つけたりするのは,そこそこ面白いです.
Q: 弱い者いじめですか? 求愛活動ですか?
A: 自分のやっていることは,辻説法かなと思っています.主な読者は,一つは未来の自分*12,もう一つは検索エンジン経由でお越しの方々です.いくらか書かれているのを見た限り,ご本人に届くのはキーワード程度と思っています.
Q: じゃなくて,tamamiさんへの思いを.
A: https://twitter.com/tamami_tata/status/412479905624895488で名前を挙げておいて,http://math.artet.net/?eid=1422120で「そのくらいの信頼関係もつくれていなかったの?」というのは,そう言われたい人にはたまらないでしょうね.自分には無理です.

〔以下は2013年12月30日に作成しました.〕
Q: 教科書や教師用指導書は,参照しないのですか?
A: 関心はあるけれど,コストパフォーマンスが悪いので,避けている次第です.コストパフォーマンスがいいのは,PDFで読める学力調査や学習指導案,それと学習指導要領解説です.
Q: 「パフォーマンス」って,何ですか?
A: 第三者検証のしやすさです*13

(最終更新:2013-12-30 朝)

*1:ここはどちらかというと自分用のメモです.他に思い出したら追加します.

*2:演算決定も,「〜のとき,…と表せる」となるので,十分条件の考え方で説明ができます.

*3:直訳すると「比例の考え方」でしょうか.問題文ではたとえば「6皿」と書かれていても,これを「×6」(Tadのスタイルだと「6×」)とするところが,「比例の考え方(で問題を解くこと)」の本質と言ってよさそうです.Vergnaud (1983)の記述と結びつけて,後日整理するとします.それにしても今後の課題が増えてきたなあ….

*4:単位量あたりの大きさを求める式を,割合の3用法のうち第3用法に対応づけることで,第2用法の「かけ算の順序」を含め,うまく説明できます.

*5:https://twitter.com/tamami_tata/status/415357545931214849を目にしたのですが,「有名小学校メソッド」は編集サイドで追加されたと推測できます.本が1冊できあがるまでの間,誰がどのように関わったのだろうかということに,書影や本文を見ながら,思いをいたしたいところです.

*6:「昔はこうだったんだよ」と文献を持ってくる人に対して「でも今はこうなんだね」と近著を提示するのも,議論を深め相互に理解するのに必要なことです.

*7:@tamami_tataさんも私も含まれます.

*8:これが前述の「量感を可視化」です.言葉を増やすと,「2.5mは2mと3mのちょうど中間」の確認や,「2.5m買ったときの値段は,2mの値段と3mの値段のちょうど中間(になるだろう)」といった推論が,図示のプロセスに含まれます.

*9:概念そのものは4年から,あるいは2年の「倍」からでもよいけれど,用語は5年で学習するのが自然でしょう.

*10:「同種の2つの量の割合」と「異種の2つの量の割合」を合わせたものが「2つの量の割合」となります.「同種の2つの量の割合」はA数と計算・D数量関係,「異種の2つの量の割合」はB量と測定と,それぞれ異なる領域で扱われています.百分率に関連する割合の概念は,Greer (1992)では"Part/whole"(全体と部分の関係)に属します.

*11:この本では「8ひき ならんだ 7ほしてんとう虫。ぜんぶで ほしは いくつ?」という,当ブログで《BA型》と書いてきた出題が,7の段(7×8=56)で求めることを期待するページ中に,挙げられています.遠山啓の著作を見直さないといけないなと思った本でした.

*12:公開してから後悔するわけです.

*13:「第三者」には,未来の自分が含まれます.