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2014年02月15日

[] 掛順ひっかけ問題は,ネットde真実

以前にも書きましたが@さんは小学校の先生をなさっている方と認識しています.ときどき,こちらのはてブ連動ツイートを,お気に入り登録してくださっています.

さて,上記から始まる一連のツイートを読んでいきまして,思い浮かんだのが「ネットde真実」でした.

単語から言うと,「掛順」や「算数教育ワールド」は,これまで算数教育や数学教育学の書籍・論文で目にしたことのないものです.担任団の協議とやらで,ベテランの先生に「おかしなことを言うもんじゃない」と一喝されないよう,理論武装なり懐柔策なりが必要じゃないかなと,読んで感じました.

ここでネットから離れ,今年刊行された,以下の本ではどんなふうに扱っているかを見ることにします.

算数科 授業づくりの基礎・基本

算数科 授業づくりの基礎・基本

「順序」という言葉は,p.57の見出しに「九九の学習の順序」と出てきます.何の段から順に,学習・暗唱していくのがよいかという話です.

少し進んで,文章題に出くわします.

チューリップがたくさんありました。

子どもが7人います。

そこで,このチューリップを3本ずつくばったら,ちょうどなくなりました。

チューリップは何本あったのでしょう。

すると,必ず文章に登場する数の順に式を書く(ア)のような子が現れる。

(ア)7×3 (イ)3×7

こんな二つの式が登場して議論になる。こんなときは,図が生きる。(略)

もしも,「7×3」の式に意味をこじつけようとするならば,まずは7人の人に1本ずつチューリップを配り,次のもう1本ずつを配り,さらに3度目として1本ずつを配ると,都合3回で配り終わるので,1回に配る数をひとかたまりと考えて,「7×3」とできる。このように説明できる子がいれば,それはそれでたいしたものである。だが,素直に問題を読めば,「3本ずつ配る」と書いてあるので,さきのように解釈すべきであろう。

(p.60)

ここで,いわゆるトランプ配りの乗法への適用には,「それはそれでたいしたものである。だが」とイエスバット法を用いて,どのように考えればよいかを示しています.個人的には,トランプ配りを提案した子がいても,もしくは単に文章に登場する数の順に式を書いた子だったとしても,図を描けば3×7になることをクラスで確認するというのが,そこで期待される授業の進め方ではないかなと思っています.その際,本文には書かれていませんでしたが,7×3はこういう図になるよと言う子が出てくる可能性も,考えたいところです*1

ところでこのチューリップの問題ですが,かけ算の順序を問う問題で類題の整理を試みています.「3本ずつ配る」と,配り方を明記してある出題は,東京都算数教育研究会による2年おきの学力調査でも見ることができます(平成22年度実施平成24年度実施).「1個ずつ置くか,2個ずつ置くかという置き方ではなく,置いた結果に着目させる」は,啓林館の1年の算数教科書をもとにした指導例です(『活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編』p.66).2年のかけ算で,2つの式を比較する授業は,『アイディアシートでうまくいく! 算数科問題解決授業スタンダード』『新版 小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 2年下』などに書かれています.「それはそれでたいしたものである」と同様の,子どもの考え方の可能性は,『算数授業研究 VOL.80』(正木孝昌「かけ算のイメージを育てたい」pp.52-53)にもあります.

#掛算 - Twitter検索を起点に,「ネットde真実」だなと感じるツイートを見ていると,関連情報や,授業・出題の広がりに気づいて発言したり考え方を深めたりする方向に進んでおらず,算数教育に貢献しそうにないなと思うところです.

それでももう少し,関連情報を書いておくと,冒頭のツイートの画像(URL)にある,「シールのセットを396セット作ります。1セットにつき、25まいシールを入れます。シールは全部で何まいいるでしょう。」と同種の3年生向け出題は,独自に教科書を作成したと謳う『学ぼう!算数中学年用準拠版ワーク 上 改訂版』や,かなり古い本ですが『水道方式入門 整数編 新版』にも入っています.3年生向けに,かける数を先に書いている文章題は,文科省・文部省作成の学習指導要領教師用指導書にも載っていて(はじめのひもの長さは),それは逆思考(除法逆の乗法)とも呼ばれるのですが,『算数科 授業づくりの基礎・基本』でもp.104に取り上げられています.

あとのほうのツイートにある「5年生時に掛順固定を解除」については,『小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)』の92頁と『児童心理選書〈第8巻〉算数科の教育心理 (1957年)』の151頁に栞を挟んで携えて,他の先生方に共感してもらうのが一策です.なお,「学年を問わず,掛順固定を解除することで,子どもたちにどんな効果があるのか,例えば小数あるいは分数のかけ算・わり算の文章題の正解率が上がるのか」の疑問には,答えられる必要があると思います.


昔書いたこと:


Q: 本は大事ですか?

A: 自分の頭で,きちんと考えるための道具として,必要不可欠だと思っています.学問や実践の蓄積に対する敬意も,忘れないようにしたいところです.

Q: ここに書いた本を全部読まないと,掛順について語ってはいけないの?

A: 全部読んだら,「掛順」という言葉は出て来なくなると思います.そこまで行かないにしても,関心があれば,どうぞ入手を試みてください.他の情報源をもとにすれば,同じ題材に対してまったく別の主張ができると思います.

Q: 刃を研いでいますか?

A: ここんとこはあんまり.ただ以前に書いた「一つの問題に対して,複数の解決法があるとき,どれを選んで,形にするか?」は,本業(大学での教育研究)にも,算数の話にも,子育てにも,役立っています.刃を研ぐというと,第七の習慣(wikipedia:7つの習慣)ですね.次の本は軽く読めてなかなかの内容だったので,そのうち研究室の本棚に置きます.

(最終更新:2014-02-16 夕方

*1:このチューリップの問題で7×3も正解だよという主張は,「7×3はこういう図だよ」と言う子を否定することにもつながります.これは特定の子どもの話だとか,“トランプ配り”や“逆に書いたら”と持ち出す子どもが果たしているかどうかというレベルに留まることなく,算数における式の表現や式の読み,また上の学年まで含めた乗法構造(multiplicative structures)などと関連づけ,慎重な検討が必要なところです.