わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

加法の順序は,ネットde真実(2015.03)

公表日は1週間前ですが,今朝になってコメントがついています.ともあれ本文を読んで,気になったところを抜き出し,以前にまとめたものと読み比べを試みます.
まずなのですが,「(2)基礎数学で四則が2項演算とするならば、算数でもやはり2項演算でなければならない」という主張を見て,該当の本を読み込んでいないなと感じました.というのも,『新編算数科教育研究』では,「5.2 式・記号化の考え」という節の中で,はじめに「52-1 数学的立場からの考察」と題して,記述*1がなされており,それを踏まえて,ブログ記事の本文で引用されている「52-2 指導の立場からの考察」では,算数においてどのように指導すべきかを論じている,という構成になっているからです.
四則計算と単項演算・二項演算の分類表については,『小学校 算数科の指導』p.54にも載っています.刊行は『新編 算数科教育研究 改訂版』が先ですが,さらに元となっている文献があるのかもしれません(『小学校 算数科の指導』の参考文献に記載されている「算数科教育研究会,小学校算数科教育,学芸図書株式会社,1995年」が関係しそうです).他の文献と合わせて,用語:倍と積 - 「×」から学んだこと@wiki - アットウィキで事例整理をしてきました.
ブログ記事ではもう1つ,「なぜこの問題に関して単項演算に変わるのか?」が目につきました.まずは関連情報をみておくと,国内外の書籍で,数学的には2項演算になるけれど,それを単項演算のように取り扱っている事例があります.該当箇所は,乗数が内包量で切り出しています.いずれも,「量の次元を変える*2」操作に位置づけられ,実際,各例の矢印の左右は,異なる種類の量です.
[Vergnaud 1983]にある"The arithmetical structure of the Cartesian product, as a product of measures, is indeed very difficult and cannot really be mastered until it is analyzed as a double proportion. Simple proportions should come first."と合わせて,思うのは,次のことです.いくつかの対象において,2項演算あるいは2つのパラメータがともに動くようなモデルのもとで,指導するのは,児童の理解が難しいことが分かっています.そこで,1つを固定させ,もう1つを変化するような場面を作って指導することに,教育上の意義が認められてきました.それを,数学の概念・用語(arity)を使って「単項演算」で説明しているんだろうなあ,といったところです.
「批判は1冊の本から」を,他山の石としたいと思います*3

Q: 単項演算のほうが二項演算より理解しやすいのですか?

A: かけ算についてはYes,わり算についてはNoです.「倍」は「積」よりも,「包含除」は「等分除」よりも,理解しやすいと言っていいでしょう.
(略)

Q: 倍の反対が等分除で,積の反対が包含除,ですか?

A: いえ,倍と等分除と包含除がセットです.
(略)
等分除が単項演算に位置づけられるのは,「6mを3等分したときの一つの長さ」と「6mの\frac{1}{3}倍の長さ」を同一視できるから,包含除が二項演算に位置づけられるのは,「6mを3mずつ分けると何本できるか」にせよ「6cm^2の長方形の縦が3cmなら横は何cmか」にせよ,わられる数とわり算の結果とで単位が異なる(わられる数量と異なる種類の数量を得る)から,と考えるのがよさそうです.

「×」から学んだこと 13.04―かけ算の意味・式の意味

(最終更新:2015-04-01 昼.記事のタイトルを「批判は1冊の本から」から変更しました)

*1:ただし,読んだ印象としては,その内容は数学基礎論などには行き着いておらず,中学・高校,そして大学のはじめまでに学ぶ数学の中で,必要な事項を整理してあるように見えます.

*2:http://www49.atwiki.jp/learnfromx/pages/109.htmlの文献のタイトルにある"referent transforming"も該当します.

*3:野暮な補足ですが,「1冊の本(あるいは1件のブログ記事)を批判することで,何だか意味のありそうな主張ができてしまう」という解釈ができる一方で,「1冊の本を手がかりに,自分なりに情報の収集や整理をしていけば,当時の状況を想像しやすくなる」ということも期待できます.