わさっきhb

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Re: 0は偶数か、2の倍数か、整数か

思うことあって一昨日の朝に書き溜めてツイートし,Togetterにしました.
算数で0を倍数に入れないのはなぜかを書いた時点で,この件は一応これでいいかなと思っていたのですが,連ツイをした前の日に,1年前に発した以下の内容に対して,お気に入りやリツイートがありました.

それで,もう少し調べようかとなり,見ていくと,「0は偶数であるが,2(だけでなく任意の正整数)の倍数ではない」が日本の算数に限った話ではないことを,SMSGの出版物より,知ることができたのでした.
数学教育の現代化運動(New Math)といえばSMSG,というのは「かけ算の順序論争」に関わりながら認識していった*1のですが,HathiTrustで読めると知ったのは,今年になってからです*2
冒頭のTogetterまとめを文中で言及した記事が,リリースされていました.

t.mの名前でコメントしました.その中の「「0は偶数でも2の倍数でもない」「0は偶数だけれど2の倍数ではない」「0は偶数かつ2の倍数」の3つの立場が見られ、その違いは、類別や整除において0を対象とするか否かによって決まる」について,以下で整理を試みます.
まず0が偶数か否かについて言うと,0を,「奇数か偶数か」という類別の対象とするときには,偶数であり,そうでないときには,偶数でも(奇数でも)ないとなります.
0を類別の対象としない具体例は,『小学校学習指導要領解説 算数編』(PDFではpp.163-164)に見ることができます.出席番号が0から始まる学級は,聞いたことがありません.

整数を2で割ると,余りは0か1になる。2で割ったときに余りが0になる整数を偶数といい,余りが1になる整数を奇数という。
このように,整数は,偶数または奇数の2種類に類別される。すべての整数の集まりは,偶数の集まりと奇数の集まりに類別されるということである。
身の回りの生活や学習の場面においても,偶数,奇数を活用できることがある。例えば,学級の児童を二つのグループに分けようとするとき,出席番号を2で割って,割り切れるかどうかという観点を決めると,すべての児童が,どちらかのグループに必ず入ることができる。

「類別」は日常使わない言葉ですが,テーブルにばらまかれたおはじきでも,窓口に列をなす人でも,左,右,左,右,…と振り分ければ,それが類別の操作となります.振り分けられた順に1から*3順に,番号を振れば,奇数はみな左,偶数はみな右です.
左右に二分するだけでなく,3分割でも,何分割でもできます.数学で思い浮かぶ概念は,剰余類です.
次に,倍数についてですが,0を(2に限らずあらゆる数の)倍数に入れないのは,小さい数から順に列挙する事例で,いくつも見てきました.
それは単純明快ですが,また別のアプローチを,見つけました.Common Core State StandardsのMathematicsです.

Find all factor pairs for a whole number in the range 1-100. Recognize that a whole number is a multiple of each of its factors. Determine whether a given whole number in the range 1-100 is a multiple of a given one-digit number. Determine whether a given whole number in the range 1-100 is prime or composite.
(私訳:1から100までの整数に対して,すべての因数のペアを求めよ.整数は,そのそれぞれの因数(約数)の倍数となることを理解せよ.1から100までの与えられた整数が,別に与えられた1桁の数の倍数であるかを判定せよ.1から100までの与えられた整数が,素数であるか合成数であるかを判定せよ.)

Grade 4 » Operations & Algebraic Thinking » Gain familiarity with factors and multiples. » 4 | Common Core State Standards Initiative

"all factor pairs"というのは,12であれば1×12,2×6,3×4(2つの数を逆にした式は省略),13については1×13(同)となります.
この場合,0について"all factor pairs"を書き出すわけにいかず,対象外となる*4のも想像ができます.
とはいえ,このアプローチは非標準だとも思います.脱線しますが,Common Core State StandardsのMathematicsで"multiple"を調べてみると,整数以外でも倍数を用いています.具体的には分数の話*5で,"Understand a fraction a/b as a multiple of 1/b."や"Understand a multiple of a/b as a multiple of 1/b"とあります.最終的には(かけ算の順序を日本式にして)\frac{a}{b}\times n\frac{a\times n}{b}を目指しているのですね.
偶数と倍数の話に戻しましょう.2の倍数は偶数と(0や負の整数を対象に入れても)同等視できるとはいえ,使い方は異なる,というのが個人的な見方です.
偶数+偶数は偶数,奇数+奇数も偶数ですが,「2の倍数でない数どうしの和は2の倍数である」という命題は,使いどころが思い浮かびません.「3の倍数でない数どうしの和」になると,3の倍数の場合もそうでない場合も出てきます.
使われ方が異なることから,偶数と倍数は算数教育において,別々に定義されているのではという仮説を新たに立ててみました.もしこの仮説が正しいなら,それぞれの定義で,0をその対象に入れるか否かを取り決めればいいのです.
なのですが,近デジで少し探したら,反例が見つかりました.http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/826860/54では「二なる約数を有する数を偶数といひ」,http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/938786/59では「2ノ倍数ヲ偶数(略)トイヒ」と,約数・倍数をもとに,偶数の定義をしていました.
ただしいずれも,具体的な数の列挙を見ると,0は偶数に入っていません.
メタメタさんの記事と,自分がこれまで読んできたものとを結びつけると,一つ疑問が浮かびます.「0は偶数でも2の倍数でもない」から「0は偶数だけれど2の倍数ではない」へ変わったのはいつか,言い換えると,類別で0を対象とするようになり整除で対象としないのは,いつからなのかです.引き続き自分なりに情報収集にあたります.

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120125/1327442079

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150228/1425073124

*3:ここで「0から」番号を振るのは,プログラミングでもなかなか見かけませんし,小学校でそうする子はいないでしょう.

*4:"in the range 1-100"と範囲を明示してあることは,対象外であることと直接関係しません.ただし,"in the range 1-100"が第2文に出現しないのは,ちょっと面白いところです.1から100までの整数のいくつかに対し,因数のペアを求めてみれば,100を超えても同様ですよね---帰納的な考え方---というのを意図しているのでしょうか.

*5:http://www.corestandards.org/Math/Content/4/NF/