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2015年08月22日

[] シュスター先生の授業〜かけ算の順序と交換法則

http://books.google.co.jp/books?id=2NX4I6mekq8C&pg=PA3で読むことのできる,かけ算の交換法則の授業について,和訳を作ってみました.

The students in Mrs. Schuster's third-grade class are discussing a question she has set out for them to consider: "Does the order of the numbers in a multiplication sentence affect the answer? Explain why or why not." In order to explore this question, they are generating examples of multiplication sentences and testing what happens when they change the order of the factors. Students know many of the basic multiplication facts but have not yet learned an algorithm for multidigit multiplication.

〔シュスター先生が担任する3年のクラスの児童たちは,先生が提示した次の問題について議論をしている:「かけ算の式で,数の順序によって答えが変わるか? なぜそうなるか(またはそうでないか)を説明しなさい」.この問いを詳しく検討するため,児童たちはかけ算の式の例を作って,かける数とかけられる数の順序を変えると答えがどうなるかを調べている.彼らは,基本的なかけ算の九九はよく知っているが,複数桁のかけ算の計算方法はまだ学習していない.〕

One student has made a conjecture that the order of the factors does not make a difference---"the answer is the same no matter which number goes first." Students are agreeing with this conjecture by bringing up other examples that work, such as 3 x 4 = 12 and 4 x 3 = 12. Mrs. Schuster then asks if this conjecture works with larger numbers and suggests they use calculators to check. Students are able to generate many examples to verify the conjecture, but explaining why the products are the same is not as straightforward as carrying out the multiplication.

〔ある児童が,かける数とかけられる数の順序は変化をもたらさない,すなわち「どちらの数が先に来ても,答えは同じ」と予想した.児童たちは,3×4=12と4×3=12といった式の例を見ていきながら,この予想に同意している.そこでシュスター先生が,この予想は大きな数でも成り立つかどうかを,電卓を使って確かめなさいと指示した.児童たちは,この予想が正しいことを確かめるため多数の例を作れるものの,なぜその答えが同じになるかを説明するのは,かけ算の答えを求めることほど容易ではない.〕

1. Eddie: Well, I don't think it matters what order the numbers are in. You still get the same answer. But the multiplication sentences are different because they mean different things.

〔1. エディ:えっと,私は数の順序で違いがあるようには思いません.たしかに,同じ答えになります.だけど,順序を変えると異なる意味になるので,かけ算の式は違います.〕

2. Mrs. S: OK, Rebecca, do you agree or disagree with what Eddie is saying?

〔2. 先生:分かりました.レベッカさん,あなたはエディさんの意見に,賛成ですか反対ですか.〕

3. Rebecca: Well, I agree that it doesn't matter which number is first, because two times five equals ten and that's the same answer as five times two. But I don't get what Eddie means about the multiplication meaning different things.

〔3. レベッカ:いえ,私はどちらの数が先に来ても問題にならないと思います.なぜなら,2倍の5は10で,5倍の2も同じ答えになるからです.ですが,エディが言った,異なるものを表すかけ算というのが,何を意味するのか分かりません.〕

4. Mrs. S: Eddie, would you explain what you mean?

〔4. 先生:エディさん,どういうことか説明してくれますか?〕

5. Eddie: Well, I just think that the two times five that Rebecca used can mean two groups of five things like two bags of five apples. And five times two means five bags of two apples. Those aren't the same at all.

〔5. エディ:はい,レベッカの言った「2倍の5」を使って説明すると,これは,5個入りのリンゴが2袋のように,5つのものが2グループという意味になると思うんです.それと,5倍の2だったら,2個入りのリンゴが5袋です.それらは全く同じではありません.〕

6. Tiffany: [Hand up, waving] But you still have the same number of apples! So they do mean the same!

〔6. ティファニー:(挙手して)だけどリンゴの数は同じでしょ! だから同じってこと!〕

7. Mrs. S: OK, so we have two different ideas here to talk about. Eddie says that order does matter, because five times two and two times five can each be used to describe a different situation, like two bags of five apples or five bags of two apples. So the two number sentences mean different things. And Tiffany, are you saying that those two number sentences can't be used to describe two different situations?

〔7. 先生:分かりました.ここまでの発表で,2つの違った考えが出てきましたね.エディさんは,順序は重要だと言いました.なぜなら2倍の5と5倍の2は,「5個入りのリンゴが2袋」と「2個入りのリンゴが5袋」のように,それぞれ違った場面を表すのに使えるからです.それで(かける数とかけられる数を入れかえた)2つの式は異なるものを表すのですね.さてティファニーさん,あなたは,そんな2つの式が違った場面を表すのに使えないって言うのですか?〕

8. Tiffany: No, I mean that even though the two situations are different, the answer is the same.

〔8. ティファニー:いいえ,私が言いたいのは,その2つの場面が違っていても,答えは同じになるってことです.〕

9. Mrs. S: OK, so you're saying that order doesn't matter because the answer is the same?

〔9. 先生:分かりました.じゃあ,答えが同じになるから,順番は重要じゃないと言いたいわけ?〕

10. Tiffany: Right.

〔10. ティファニー:そうです.〕

11. Mrs. S: OK. We need to think about this. In Eddie's statement, order makes a difference in the situation you're describing. In Tiffany's statement, order doesn't make a difference in the answer we get. So when does order make a difference in multiplying two numbers together?

〔11. 先生:分かりました.このことについてみんなで考える必要がありますね.エディさんの意見では,順序は,場面を表す際の違いをもたらします.ティファニーさんの意見だと,同じ答えになるのだから違いはありません.では,2つの数をかけ合わせて,順序が違いをもたらすのは,どんなときでしょうか?〕

発言,そして授業の風景はここまでです.原文では,番号なしの地の文に戻りまして,かけ算とたし算との違いや,シュスター先生の意図が書かれています.

その後(p.5),その授業を少し離れて,授業で生徒らに発表させることの意義が書かれていましたので,引用し和訳をつけます.

For almost two decades, the National Council of Teachers of Mathematics has been urging teachers to emphasize communication---talk and writing---as part of mathematics teaching and learning. Their arguments make sense: The mathematical thinking of many students is aided by hearing what their peers are thinking. Putting thoughts into words pushes students to clarify their thinking. Teachers can spot student misunderstandings much more easily when they are revealed by a discussion instead of remaining unspoken. And the previous classroom interchange exemplifies that we are aiming for: a respectful but engaged conversation in which students can clarify their own thinking and learn from others through talk.

〔約20年間,NCTMは教師らに数学の指導および学習の一環として,コミュニケーション(読み書きのそれぞれで)を強調し要請してきた.議論をすることには意味がある.生徒たちの数学的思考は,クラスメートが何を考えているかを聞くことで促進される.考えを言葉にすることで,生徒は自分の考えを明確にできる.教師は,生徒が誤解する箇所を,議論の中から,より簡単に見つけることができる.そして前述のクラスの意見交換は,我々が目標にするものを例証している.それは礼儀と関与のもとでの会話であり,これにより生徒たちは自身の思考を明確にし,発言を通して他の人から学ぶことができる.〕

少し補足しますと,NCTM = the National Council of Teachers of Mathematicsは「全米数学教師協議会」と訳されます.約20年間というのは,「問題解決が1980年代の学校数学の焦点とならなけばならない」を第1勧告とするアジェンダ(An Adgenda for Action*1)を踏まえたものだとすると,刊行時期と合致します."a respectful but engaged conversation"の訳には少々,悩みましたが,respectfulは,上記の授業風景で,優しく問いかけて意見を促すとともに,終わったところで"OK"と言っていることと対応し,engagedのほうは,今月の他の記事で引用した「仕組まれた問題解決」*2が関係しそうだなと思っています.

何が「仕組まれた」(教師にとっては「仕組んだ」)のかというと,発言の通し番号のうち7に最もよく現れています.そこで先生は,2つの違った考えが出てきたと言いつつ,よく読むと1つのこと,すなわち,“かける数とかけられる数を交換すると,意味が変わってくる”だけを取り上げているのです.とはいうものの,2つの違った考えを整理しているのは11で,7はその途中段階だと理解すればいいのですが.

以前より当ブログでは,シュスター先生のこの発言について,“交換法則を学習したら,かけ算の式はどちらでもよい”を意味しないと書いてきました.交換法則を否定することなく,□×△と△×□の違いを例示したのは,この本に限らず,洋書からだと,"three children each having four candies are luckier than four children each having three candies"*3,和書だと桜井進の「ペアシートが3席」と「3人用シートが2席」*4が明快なところです.

ところで,引用と和訳を読み直しまして,"Does the order of the numbers in a multiplication sentence affect the answer? Explain why or why not."〔かけ算の式で,数の順序によって答えが変わるか? なぜそうなるか(またはそうでないか)を説明しなさい〕に対する答えを,本文中で明示していない点に,引っかかりを覚えました.推測ですが,数の順序によって答えが変わらない(“乗数と被乗数を交換しても積は同じになる”)のを踏まえた上で,シュスター先生の意図を著者がくみ取り,“かける数とかけられる数を交換すると,意味が変わってくる(ことが日常生活*5ではある)”を重視して,1から11までの発言記録としたと考えられます.

日常生活の話として,「1,575円/月×24回払い」「8GBが4枚と,4GBが8枚とでは,トータルの容量は同じとなっても,いろいろ違ってきたりします」*6を使って学生に多少なりとも考えを促し,前者については答案を書いてもらったのが,今年度の個人的な教育成果となっています.

*1http://www.nctm.org/Standards-and-Positions/More-NCTM-Standards/An-Agenda-for-Action-%281980s%29/, http://www2.kobe-u.ac.jp/~trex/fme/index3.html

*2http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150808/1438972832

*3http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20121222/1356112738

*4isbn:9784796660020 p.14.それより古いisbn:9784774132297でも,pp.113で,2×5に「2ペアのシートが5席ある」を対応づけるなどして,より詳細な展開がなされています.

*5:引用しなかった箇所に,"real-world situations"という表記が出てきます.

*6http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150611/1433970674.なお24回払いの件で学んでほしかったのは,「数を小さく見せる手法」です.8GB云々は,マザーボードが何GBまで対応しているか,また物理的に何枚までメモリを挿せるかをまず考慮しないといけませんし,故障率という観点も持っておきたいところです.