「逆元は存在するなら1つだけ」の証明

経済学のための数学入門』練習問題2.1.1(2)(62頁)。

集合 上で定義された、結合律を満たす演算 について、逆元は、存在するとしたら(各 ごとに)唯一つである

逆元というのは、もとの要素に対してその演算をしてやると、単位元になってしまうような要素のこと。「単位元」についてはこちら
加法(足し算)でいうと、加法の単位元 だから、

というわけで、一般に実数 について、

というふうに、もとの要素にマイナスをつけたやつが、実数集合における、加法という演算における逆元である。
乗法(かけ算)でいうと、乗法の単位元 だから、

というわけで、一般に実数 について、

というふうに、もとの要素の逆数が、実数集合における、乗法という演算における逆元である。



さて、集合によっては、また演算によっては、逆元が存在しないこともありうるが、もし存在する場合には、それは各要素 ごとに唯一つだけだ、というのが証明すべき事柄。
「唯一つ」というのをどうやって示すかだが、単位元のときと同じで、2通りに表してやっても、結局その2つがイコールで結ばれてしまう、ということを示せばいい。
その前に、この演算には「結合律を満たす」という条件がついているので、「結合律」について説明しておこう。集合 上で定義された演算 が結合律を満たすとき

というようになる。要するに「カッコずらし」である。この条件がついているということは、これを証明の中で使うということ。



では、 を任意に1つ取り出して、 がどちらもその逆元だということにしよう。そうすると、次のような式変形ができる。まず、

単位元だ。次に、この単位元を使って、 を登場させてやる。

ここまでは、単位元とか逆元の定義をそのまま使っているだけだ。さて、ここで先程の「結合律」を使おう。カッコをずらすのだ。

あとはまた、逆元と単位元の定義そのままである。

というわけで、 というふうに、2通りに表してやったのに、結局は両者はイコールだということが示されてしまった。なので、逆元は存在するとしたら唯一つだけなのだ。