takeruko の小説置場

2012-10-03

Struggles of the Empire 第5章 ロキの円舞曲(11)


 ゾンネンフェルスはポプランを帝国同胞団に参加させることに積極的ではなかった。第一に空挺部隊出身者では司令体制の確立においては役には立たないであろうと踏んだこと、第二に帝国の軍政と同盟の軍政は異なり、場合によっては矛盾する二つの論理が同一組織内に生じる時、ややこしい問題を引き起こしかねないと考えたからであった。
 クロジンデは帝国人である自分たちと問題意識を共有できるなら、ポプランを積極的に排斥する意図は無かった。しかしポプランの態度は矛盾していた。クロジンデの論理は明快である。他人が自分たち帝国人と問題意識を共有しなければならない、とは考えない。他人なのだから。他人なのだから黙って通り過ぎればいいのだ。しかしポプランは、帝国人であるクロジンデの選択には干渉しながら、帝国人としての意識を共有していない。シュナイダーはオーディーンに生まれた帝国人ではあるが、今の時点ではクロジンデらと意識を共有出来る立場ではなかった。だから去った。そのことをクロジンデは批判もしないし恨んでもいない。当然の選択だと思うだけである。しかし、ポプランは去りもせずに干渉もやめようとしない。そこが矛盾していると思うのだ。
 ポプランにとってはクロジンデを見捨てられないのは彼女がメルカッツの娘だからであった。少なくともポプランはそう考えていた。実際には少し違う。クロジンデはポプランの人生の中ではこれまでいない類の女性であった。ある時点から自立を余儀なくされたとしても、どのような意味においてもクロジンデは自立しており、精神的に誰にも依存していなかった。詳細に言えばそういう女性がポプランの人生にこれまでいなかったはずはないが、ポプランは無意識にそういう女性とは深くは付き合ってこなかったのである。ポプランにとって女性は、守るべき者、戦う口実を与えてくれる者、そして男である自分を一時癒してくれる者であった。クロジンデについても、メルカッツの娘でなければ彼女と交差することは無かったに違いない。しかし交差してしまえば、時に批判者、時に友人、時に師ともなれるこの女性をもっと知りたいと思うようになっていた。ポプランにとって一番望ましいのは、クロジンデが帝国同胞団と袂を分かって、以後、自分と行動を共にしてくれることであった。
 ポプランにしても帝国同胞団を批判するつもりはない。ゴールデンバウム王朝を復権させるというのも大義名分を得るためには必要なことなのだろうと思う。これだけの流民を生じさせる現体制に何がしら深刻な欠陥があるのは疑うべくもなく、自分たちは安穏な生活を得られるにもかかわらず、困窮した人々のためにそれを擲とうというゾンネンフェルスのような人物に対する敬意はあった。しかしポプランにも郷里はあり、それはバーラトにいるフレデリカたちである。旅人ではあってもポプランはもはや、自分の選択を好き勝手に決めていい立場ではない。
 ならば去れ、それを責めない、とクロジンデは言う。クロジンデがここを去るつもりがない以上、ポプランに残された選択は、フレデリカたちとクロジンデのどちらを選ぶかということに他ならなかった。そして結局、ポプランはここを去ることが出来なかったのである。
 エーリッヒ・ブラウンには当面の役にはたたないまでも将来の用のためには手放したくない事情があった。「叛乱」が起動に乗った後に、ポプランがこちらにいることを示せば、フェザーンとハイネセンの間に疑惑を打ち込む材料になりえた。ブラウンにとって本題は自由惑星同盟の復活であったから、ノイエラントが現状に安定してもらっては困るのである。ハイネセンの政府が追いつめられて窮鼠が猫を噛む、ノイエラントの人々が日々の生活に安住するのではなく、立ち上がったオーディーンの民衆を見て、そして一時的に軍事的空白として取り残されるであろうノイエラントの状況を見て再び自由のために立ち上がることを望んでいた。
 ポプランはそのための材料として必要であった。ハイネセンとフェザーンの間に不和をもたらすために、そして今なおも自由のために戦っている同盟人がいるのだと、同胞たちにはっきりと知らしめるために。
 結局、もやもやとしたまま、ポプランはオーディーンにとどまった。手伝い仕事をするうちに、スラムの状況がどれだけひどいのかを目の当たりにし、司令部の一員として仕事をこなすようになっていった。
 そして決行の日を迎えたのであった。

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