takeruko の小説置場

2012-10-20

Struggles of the Empire 第8章(終章) 両雄の勅令(4)


 新帝国暦7年4月1日、予定通り、帝国議会選挙が実施され、共和党と連立を組んで与党となった保守党から、ウォルフガング・ミッターマイヤー党首が首班指名を受け、ローエングラム王朝の初代内閣総理大臣となった。バーラト自治政府のヤン・ウェンリー党を母体としていた民主党は、第一党にはなったが、過半数を制するには至らず、保守党と共和党の連立政権の発足を許すことになった。
 同日、バーラト自治政府は法的に正式に終焉を迎えた。銀河帝国全土において議会制民主主義が達成されるならば、バーラトにおいて独立国家を維持する意味は無くなったからであった。銀河帝国はおおむね星系ごとに州が置かれ、州の自治権は大幅に拡充された。銀河帝国は議会制民主主義国家に移行するのと同時に、連邦制に移行した。
 バーラト星系では、銀河全体の人口の1割を占める惑星ハイネセンに独自の州、ハイネセン特別州が置かれ、バーラト州の首都星はテルヌーゼンに移動することになった。
 フレデリカ・グリーンヒル・ヤンは首相公邸で、後任のハイネセン特別州刺史マグダレーナ・フィルボット女史に、引継ぎを終え、その時点で無位無官の一民間人に戻った。もっとも、フレデリカがカリスマ的な存在であり、好むと好まざるとに関わらず政治的な余韻の中になおも居続けなければならなかったから、フィルボット刺史の好意によって、当面、公費にてボディガードがつけられることになった。主要政治家の護衛を任務とする特殊警備隊の隊長カスパー・リンツがフレデリカの護衛に充てられた。
 ハイネセンにはもう、ヤン艦隊の人々はほとんどいない。ヤン・ウェンリー党が発展解消して成立した民主党の党首にはキャゼルヌが推されて就任、オイゲン・リヒターが幹事長に就任していた。彼らは帝国代議院議員としてフェザーンにいる。バグダッシュも、ホアン・ルイも、シトレも、アイランズもみな、帝国代議院議員としてフェザーンに移動していた。
 引き続き、民主党の党首となって議員となり、党を率いることを懇願された時、フレデリカはきっぱりとそれを断った。
「ヤンの遺志は叶ったのですから、ヤンの未亡人としての私の責務もこれでおしまいです。政治からは引退します」
 とはっきりと宣言した。数々の慰留があった。皇太后ヒルダからも直々に通信があり、代議院議員として議会に入って、引き続き国家の礎を支えて欲しい、それが叶わぬならせめて元老院議員として、自分を補佐して欲しい、との懇願もあったが、それも謝絶した。
 ユリアンやキャゼルヌなど、フレデリカに近い人は何も言わなかった。フレデリカはやってみればかなり政治家向きではあったが、向いているからと言って、当人がそれをやりたいとは限らないからであった。フレデリカの場合は、どうしてもヤン・ウェンリーの影を背負ってしまう。フレデリカ・ヤンとしてではなく、ヤン夫人として生きることを強いられていた。ヤンの死去から5年が過ぎて、ヤンへの思いが薄らいだわけではなかったが、未亡人として生きること、しかも公的に未亡人扱いされることは、フレデリカはもううんざりとしていた。
 まずはフレモント街の旧宅に移り、近隣の人々と旧交を温め、たまには「孫」と超光速通信を介して話して、ボランティア活動を熱心に行い、そういう日々をフレデリカは送った。
 フレデリカを護衛するのは、リンツの任務であったが、24時間警護するためか、いつしかリンツはフレモント街のヤン邸に越してきた。護衛者と護衛対象者の関係を越えて、フレデリカとリンツの関係が密接なものであるのは誰の眼にも明らかであったが、それ以上はなかなか発展しなかった。
 再婚するのはヤンへの裏切りではないかとの思いがやはりフレデリカの胸の内にあったからであり、リンツも、忠誠を誓ったヤン・ウェンリーの後釜に座るような真似は、なかなか出来なかったからである。
 ただ、ユリアンたちには黙っていることは出来ないと言って、リンツはまず恐る恐る、カリンにフレデリカと交際していることを報告した。それとなくユリアンにもうまく伝えて欲しいとカリンは頼まれたが、カリンにもユリアンがどのように反応するかは分からなかった。カリン本人はヤン・ウェンリーを敬愛はしていたが、死者に貞節を尽くして、生きている者が幸福になれないなんて馬鹿げたことだと他人事ならばそう思ったので、代父であるリンツにしっかりやるようにと激励したのであった。
 ユリアンはその報告をカリンから聞いて、その場ですぐにフレデリカに連絡を取り、フレデリカが再婚するつもりならば反対するつもりはないこと、むしろリンツと一緒になって幸福になって欲しいとはっきりと伝えた。
 このユリアンの言葉が後押しとなって、リンツはフレデリカに求婚し、フレデリカはそれを受けた。
 フレデリカの再婚については、ヤン・ウェンリーを崇拝する多くの人々から批判されたが、この件についてメディアから感想を聞かれたユリアンが、通常はほとんど返答しないにも関わらず、はっきりと、この再婚を歓迎する考えを明らかにしたことによって、やがて批判は下火になり、消えていった。
 フレデリカが幸福になるなら、ヤン・ウェンリーが反対するはずがないではないか、としごく当然のことをユリアンは指摘した。
 フレデリカとリンツの結婚式にはユリアンとカリン、その間の2人の子供、キャゼルヌ夫妻、あいかわらず独身主義者のアッテンボロー、同じくいまだ独り身であったバグダッシュ、介添え人としてシトレ元帥、そして今は与党の議員となっているワーレンと、お忍びでグリューネワルト大公ナイトハルト・ミュラーが出席した。
 その式が終わると、フレデリカとリンツ、ユリアンとカリン、そして子供たちのみで、市民墓地に眠るヤンに結婚の報告を行った。
 そしてその後は、再びそれぞれの元の生活に戻っていった。
 違ったのはフレモント街のヤン邸がリンツ邸と名を変えたことと、フレデリカが未亡人のヤン夫人から、現役のリンツ夫人になったことだけであった。

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