takeruko の小説置場

2013-07-04

The Tycoons 第1章 王朝の剣として(1)


 新帝国暦4年(宇宙暦802年)6月29日、帝国軍総司令官ウォルフガング・ミッターマイヤー首席元帥は軍を退役した。年齢は未だ36歳であり、士官学校を卒業して少尉に任官してから16年の軍人生活にピリオドを打った。退役と同時にミッターマイヤーは元帥杖を返上し、元帥としての立場と特権を失った。ただし儀礼称号としては従前通り、ミッターマイヤー元帥と呼ばれ、ミッターマイヤー元帥公邸は、ミッターマイヤーに私邸として下賜された。ミッタイマイヤー家はそこからほど近い、かつての公邸よりはこじんまりとした家を別途に購入しそちらに移り、かつての公邸を、ミッタイマイヤーは共和党設立準備本部・仮党本部とした。
 7月2日、ミッターマイヤーの勧誘に応じて、内務尚書エルスハイマー、司法尚書ブルックドルフ、国務次官マインホフ、憲兵総監ケスラー元帥、そして超光速通信を介してアルターラント方面軍司令官メックリンガー元帥、イゼルローン総督ワーレン元帥が共和党仮本部に集い、この7名にて共和党結党が合意、宣言され、ミッターマイヤーを党首に選出した。エルスハイマーは幹事長、ブルックドルフは政策委員長、マインホフは選挙対策本部長に選任され、この3名はただちに政府の職を退き、党活動に専従することが決定された。
 これについてはマリーンドルフ国務尚書から、特にエルスハイマーを引き抜かれては政府の運営に支障が出ると苦情が寄せられたが、ミッターマイヤーは、
「3年後の総選挙を見据えて、共和党を成長させることが国家にとって最優先事項です」
 と言って、エルスハイマーを政府に復帰させるようにとの国務尚書の要請を断った。
 7月中には、幹事長となったエルスハイマーは党本部のスタッフとして約200名を雇用し、財界から1億帝国マルクを結党原資としてかき集めた。次々に各星系に支部が作られ、バーラト自治共和政府領内にも共和党支部はもうけられた。新帝国暦7年3月までに、共和党は党員数11億5665万人を数えるまでに至っていた。

 両雄の勅令を受けての、ミッターマイヤーのこの素早い動きを警戒したのは、バーラト自治共和政府であった。
「我々も党員の拡大を目指さなければならんだろうな」
 ヤン・ウェンリー党の幹事長キャゼルヌはそう言ったが、自治共和政府首相の座にあるフレデリカはうなずなかった。
「ヤン・ウェンリー党はあくまでバーラト自治共和政府の政党です。そもそも名前からして宇宙の半分に対してしか対象に対して希求していません。ヤン・ウェンリー党をバーラト星系以外で活動させるのは和平合意に反します」
「しかし両雄の勅令で事情は変わったのではないのかね」
「そうだとしても、まず帝国政府に了承を得る必要があります。了承が得られたとしても、党として新体制に移行するのは党首としては反対です」
 フレデリカのこの消極姿勢に、キャゼルヌのみならず、ヤン・ウェンリー党幹部の面々は内心、不満を抱いたが、とにかくはまず、帝国政府に了承の意思があるかどうかを確認するのが先であった。外務大臣のアッテンボローがフェザーンに派遣され、摂政皇太后ヒルダと面談した。
 ヒルダは正直言って、事前にバーラト自治共和政府の政党に帝国全域での政治活動を認めるかどうかまでは考えていなかったので、これについて閣議にかけた。産業尚書のライヘナウなどは、
「和平合意にてバーラトの政党活動をバーラト星系に限るとしてある以上、考慮するには及びません。拒否しましょう」
 と述べたが、財務尚書リヒターや民政尚書ブラッケらは、異論を唱えた。
「それは両雄の勅令以前の話だ。両雄の勅令を受けて、3年後にはバーラト自治共和政府も解体されるよう交渉しているし、おそらくそうなるだろう。ならば、同時にバーラト星系の政党にも帝国領全域での活動を認めなければ整合性がとれない」
 リヒターがそう述べた。
 エルスハイマーやブルックドルフらの保守派が閣議から抜けて、閣議においてはリヒターらのリベラル派が優勢になり、調整者に過ぎないマリーンドルフ国務尚書を差し置いて、リヒターが事実上、内閣を指導する立場にあった。リヒターの言は他の閣僚の同意を得て、内閣の意思となった。
 これによって、ヤン・ウェンリー党の帝国全域での活動が可能になり、それを担保する意味合いもあって、財務尚書リヒターと民政尚書ブラッケはヤン・ウェンリー党に入党した。
 仮に、保守とリベラルに分かれるとしても、旧銀河帝国系と旧自由惑星同盟に更に分かれ、保守とリベラルの軸だけでも主要政党が4つになる可能性があったが、旧銀河帝国系のリベラル陣営の中核となるべきリヒターとブラッケが旧自由惑星同盟系のリベラル政党であるヤン・ウェンリー党に合流したことから、リベラル軸においてはヤン・ウェンリー党が帝国全域での代表的なリベラル政党となる公算が強まったのであった。
 リヒターとブラッケの入党は、ハイネセンにいるキャゼルヌらにとっては大きな成果であり、すぐに両名を党最高顧問に任じたが、フレデリカは良い顔をしなかった。何しろヤン・ウェンリーという彼女の亡夫の名声を最大限に利用して結党された党であったから、フレデリカの意向は、単に彼女が党首であると言う以上に致命的に重要であって、また表立って対立が激化してしまえば、思わぬ混乱を招きかねなかった。
 ミッターマイヤーらの共和党が着々と勢力を広げているのを横目で見ながら、キャゼルヌはここで党を分裂させることはどうしても避けたかった。自身が直接フレデリカの意向を確かめたり、説得すれば亀裂が生じるかも知れないと恐れたキャゼルヌは、ユリアン・ミンツにフレデリカの意思確認を依頼した。
 ユリアンは身重の夫人と共に、ウルヴァシーに滞在していたが、新帝国暦4年9月25日、キャゼルヌの要請に応じて、ハイネセンに到着した。

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