タケルンバ卿日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2010-01-05

箱根駅伝の山上りは本当に重要なのか?

意見が割れてるね。

いっきポジショントークではあるんだけど。片やエース区間の2区を走り続けた往年の名ランナー。片や「山の大東」を育て上げた名監督意見が分かれるのは自然だわね。自分の誇りがかかっているわけで。早い話が2区の人と5区の人なわけだし。

でもって対象を広げても同じような話で。柏原を抱えている東洋大は距離短縮に賛成するわけないだろうし、逆に山に弱い大学は距離短縮を訴えるだろうし。口実はどうあれ、自らが不利になる話に乗るわけがないし、有利になる話に乗らないわけもないわね。

そんな政治的な話はさておき、スポーツ好き、箱根駅伝好きとしては「本当に山上り偏重なのか」とか、そのあたりを知りたい。ここんとこ連続で5区でトップが入れ替わり、往路優勝の行方が決まっているけども、果たして本当に5区は重要なのか。そのあたりを知りたい。

というわけで調べてみた。

調べ方

Excelに5区の距離が変更された2006年(第82回)以降の各区のタイムをぶち込み、標準偏差を出す。標準偏差が大きければ大きいほどタイムにばらつきがある=選手の実力差が反映されやすいというわけで、その区の重要性がわかるのではないかと。

ぶち込む対象は総合10位までの大学とした。下位の大学を含むとブレーキやらなにやらで不確定要素が多くなる。上位10校に絞ることで数値の信用性が高まるんじゃないかと。はい。

(表1)2006〜2010年各区の標準偏差

標準偏差
1区0.000719
2区0.000853
3区0.000727
4区0.000785
5区0.001481
6区0.000718
7区0.0005410
8区0.000844
9区0.000882
10区0.000756

あれま、やっぱり5区は重要なのね。圧倒的。過去5回の大会別で重要度を調べても、5回とも5区が一番ばらついていた。

(表2)大会別各区の標準偏差

標準偏差
2006200720082009201020062007200820092010
1区0.000380.001010.000270.000360.0005810310107
2区0.000810.000730.001050.001140.0004257229
3区0.000820.000630.000520.000740.0008738843
4区0.000740.001150.000320.000720.0006472955
5区0.001340.001540.001290.001610.0017711111
6区0.000560.000450.000780.000420.00097910482
7区0.000620.000540.000550.000400.0004489698
8区0.001150.000760.000690.000840.00042265310
9区0.000740.000930.000900.000580.0007664374
10区0.000810.000760.000540.000660.0006045766

いやはや、5区は凄いね。5年連続だもんね。これだけ連続すると誰しもが5区の重要性を理解し、各校とも5区で差をつけられないために有力なランナーを配置して、少しでも差をつけられまいとするものだけども、それでも尚、この数値だもんね。5区が重要であるということは、疑いようのない事実みたい。

しかし5区以外はどれも変動が大きいな。エース区間と言われる2区の重要性は例年高いのだけれども、今年を見ると10区間の中で9番目。ばらつきが少ない。2区で区間賞をとったダニエルの所属する日本大学が、総合で15位に終わったことを考えても、今回の箱根駅伝における2区の重要性の低さがわかる。

とはいえ、これは相対的なもの。選手をどこに配置するかによって各区の重要性が変わり、タイム差が開くこともあれば、開かないこともあるという単純な話。

例えば1区だと2007年だけやたら標準偏差が高いが、これは東海大学佐藤悠基が区間新記録の走りを見せ、2位以下に4分もの大差をつけたせい。同様に2008年2009年と2区のばらつきが大きいのは山梨学院大学モグスの走りが目立ったせい。

つまり5区は距離とか山上りというコースの特性上、どうしても力の差が出やすく、コースに合わせた専門性が要求されるコースと考えられるものの、それ以外の区間に関してはエース級のランナーがどう配置されるかという相対的な要素に左右されるのではないか。年ごとのばらつきが大きいのは、有力ランナーの存在が大きく影響しているからではないか。

監督

結論としてはこういうところに行き着くのかな。

5区山上りに向いた選手を見抜く力と育成力

必ずしも5区山上りで活躍しているのは、いわゆるエースと限らない。「山上り」という特殊な場面で活躍しているスペシャリストが結構多い。

そういう選手を見つけ、育成し、活躍させる土壌というか環境を如何に整えるか。最も差がつく区間だからこそ、最も重点強化すべき区間であると言え、結局はそれを作り出す力=監督力ということじゃないだろうか。

ベストタイム差を作り出す選手配置

標準偏差を見る感じだと、タイム差が出やすい区間と、タイム差が出にくい区間は存在する。前者は5区であり、その次に来るのが2区・9区。後者は1区や7区が該当する。だからこそ5区にスペシャリストを配置し、続いてエース区間の2区と、その折り返しの9区に有力ランナーを配置するのが常道というか、セオリー

しかし各校とも同じような選手配置をすると、かえってタイム差が出ない。自らがエースであれば相手もエース。エース同士の戦いになれば、大きな差ができにくい。今回の2区はまさにそんな感じ。リードを築くための区間でリードができず、リードができないために手薄な区間でリードされる。こういう事態になりうる。

となると逆の発想が必要になるのではないか。本来リードしにくい区間にエースを投入し、ここで大きなリードを築く。その貯金で差がつきやすい区間をなんとかしのぐという考え方。具体的には先に例としてあげた2007年1区の佐藤悠基がそのパターン

各区間を実力に応じた選手を配置するという発想ではなく、どの選手をどこに配置すると最も他校との差をつけられるか。コースありきではなく、選手ありきの発想があってもいいのではないか。特に区間賞や区間新記録の狙える選手を擁しているのならば、そういう戦略的な発想があってもいい。「選手が最も力を発揮できる配置」という絶対基準の配置術ではなく、「選手が他校に対して最も力を発揮できる配置」という相対基準の配置術。

こんなせめぎ合いがあるから、5区以外の区間は毎年ばらつき方が違うと思うのよね。大学間の戦略とその組み合わせによって展開が変わる。重要な区間が重要でなくなり、重要ではないはずの区間が重要になる。

そしてこれも監督力な気がする。勝負事は自らの能力だけで決まるわけじゃなく、相手との比較によって決まる場合がある。仮に自らが絶好調でも、相手がもっと絶好調ならかなわないわけだし。そういう現実的な思考も必要だと思うわけですよ。そしてそういう面も含めて勝負事でありレースであり。箱根駅伝醍醐味なんじゃありませんかねえ。

とはいえ、結局は「5区超重要」という平凡な結論になってもた。ま、調べて得た結論なので納得。うむ。来年箱根駅伝を楽しみにしとりますですよ。

追記(2010/01/06 1:50)

「プレ偏差値」と「レース偏差値」で実力がどれだけ反映されたかを見るというのはいい発想だと思った。

東洋大学柏原の力ではなく、適切な人員配置によって勝利を得たことが良くわかる素晴らしい記事。

レッドオーシャン化している2区

箱根駅伝をデータで振り返ってみる - THE STANDARD REVIEW Blog

この見出しにも深く納得。合わせてご一読を。