見えぬその後

朝日新聞の記事から

千葉大学教授 酒井啓子さんに聞く (構成・高重治香)を写す

事件の後すぐ、フランスはシリア国内の過激派組織「イスラム国」(IS)の拠点を空爆しました。各国首脳は「テロと戦う」と表明しています。しかしそこには、何のための攻撃であり、その後にはどんな希望があるのか」というメッセージが欠けていました。

シリアでは、アサド政権、反政府勢力、そしてISが対立し、激しい内戦が繰り広げられています。この内戦を終わらせなくてはというのは、全世界の共通認識ですが、道は険しい。ISを倒すにしても、その後にどうするのかという道が見えません。米国やフランスはアサド政権と対立しており、今さら組めない。反政府勢力は独り立ちするには弱すぎて、支援するには相当な覚悟が必要です。

出来ることは少ない。それでも国際社会は、シリアを破壊するのではなく人々の安全と将来を考えているのだというメッセージを打ち出すべきです。

テロとの戦い」という言葉は、ブッシュ政権の頃に使われ始めました。イラクなどの民主化を打ち出して介入したものの失敗。スローガンだけが残りました。いま欧米諸国は、シリアや中東の人たちではなく、自国の安全と利益を守るために「テロとの戦い」を掲げているように見えます。

しかし本当の「戦い」は内戦の解決に向けて動くことではないでしょうか。建設的なものが何も見えないままの破壊は、攻撃され巻き添えを食う人にとって、報復の対象になるでしょう。

攻撃する側の「無自覚」も、戦火にある人々を傷つけています。パリのテロの前日、レバノンでもテロがありました。ISと地上戦を交えている組織の拠点がある首都ベイルートです。ISの支配地域の周辺国にとって、戦いはリアルです。一方、今回狙われたパリのロックコンサート会場や金曜夜のカフェは、戦火からほど遠い空間の典型でした。パリで起きたような殺戮はシリアでは日々起きていて、その中にはフランスの攻撃による死もあることに、思いを巡らせる必要もあるでしょう。

今回のテロは、フランス始めヨーロッパに潜在的にあった、反イスラム、反移民・難民の勢力を決定的に後押しするすることになるでしょう。

排除からは反発しか生まれません。難民がテロリストになる必要がないように温かく迎え入れることです。日本にも、将来の復興を支えるシリア人留学生の受け入れなど、出来ることはあると思います。