イーゼンハイムの祭壇画

水曜日に自由時間が出来たので、上野で開催しているレオナルド・ダ=ヴィンチの展覧会、「受胎告知」が来ているやつに行こうかとふいに思い立った。東京駅まで行ったのだが、そこでいや、平日の3時とはいえどうせ大勢の人がいるに違いないと思い始めるとたちまち億劫になってやめてしまった。二十代ならこういうときに気持ちが萎えるなんてことはなかったのに、いったん気持ちが凹になってしまうとレオナルドを見なければ損だという気持ちにもならない。若い頃は絵が好きだったのに。


学生の頃、生まれて初めてバックパックを背負って欧州を貧乏旅行したときに「イーゼンハイムの祭壇画」を見にフランスのコルマールに行った。パリはフランス語が一言も出来ない東洋人の学生には冷たかったが、フランスの田舎は人が優しかった。道に迷いそうになり、行きずりの人に「ウンターデンリンデン美術館」と言ったら、片言のドイツ語で親切に教えてくれた。そんな記憶がかすかに残っている。


宗教心は何もないがマティアス・グリューネヴァルトの「イーゼンハイムの祭壇画」はぜひ本物を見たいと心から思った絵だった。コルマールってどこにあったんだっけ? アルザス地方、ストラスブールから少し下った辺りだったよな。そう、だからドイツ語が通じた。凄惨な磔刑図。「受胎告知」はいいが、あれはもう一度見たい。グリューネヴァルト、アルブレヒト・ドューラー、ハンス・ホルバイン。北方ルネサンスの画家の暗さに惹かれる。