札幌“三上ワールド”探訪

すでに三上さんがこちらでお書きになっているとおり、この日の前半は“三上ワールド”に遊んだ。これは私からお願いして、わざわざ今回の旅行のコースに組み入れていただいたもので、野次馬根性的な要請にも二つ返事でお応えいただいた三上さんにはあらためて感謝を申し上げたい。


まず連れて行っていたただいたのは、札幌軟石の採掘場跡である。ここは道路脇に立地しており、自治体によって軟石を活用した公園として整備されている。

■豊平川は「くずれた崖」(Tuy-pira)の川、藻岩山は「いつも眺める所」(Inkar-us-pe)だった (『三上のブログ』2007年9月10日)

■石の記憶:「穴」とは何か(『三上のブログ』2007年9月11日)





軟石採掘場跡の公園に三上さんは私には見えない時間を透視するわけだが、私には圧倒的に現実の、目の前に見える風景に惹かれてしまう。



連れて行かれたのは、札幌市の南の端にある住宅街の“中”なのだが、脇を豊平川が流れ、その向かいには緑に覆われた急峻な山々が複雑に大地の皺を形作っている。広い、清潔な道路の上を車が走りすぎる場所のすぐそばを、こうした遺跡や山や川が取り囲んでいる景観の妙に率直に感銘を受ける。それは精神に自然のもたらす美しさと恐ろしさを常に訴え続ける余地を残すものだ。自然の近さ、広い空間のもたらす距離感はドイツのどこかの街にいる自分を思い起こす。シリコンバレーの景観にも似たところがあると思う。少なくとも、日本ではお目にかかるのが難しい類のものが普通にそこにある。日本ではごみごみとした都市か、自然が豊かな田舎かはあっても、空間が豊かな都市景観にお目にかかることはほとんどない。私の郷里の福岡など、残念ながらその点ではひどいものだし、横浜で画になっているのはみなとみらい地区と港の見える丘公園などの一部の地域だけだ。
採掘場の脇にある藻南橋の上から眺める豊平川の流れは美しさの極みである。



豊平川を渡り、ほどなくすると目の前に藻岩山が現れた。藻岩山自体は前日から眼にしてはいたのだが、この藻岩山はあの藻岩山だ。そう、いつも『三上のブログ』で眼にするアングルの藻岩山がついに現れた。こういうことに感激するのは『三上のブログ』の読者だけだ。やはり立派に変な観光客だ。



藻南自動車学校の脇を直進し、左折、右折と繰り返すといつの間にか、その風景の中にいた。ほんとうにいつの間にかと言いたくなる間合いのうちに、私は『三上のブログ』の世界の中にいた。ファンファーレのないクライマックス。





いつも写っているこの道を直進するとどこにいくのか、常に気になっていた。いかにもこの道はまっすぐに藻岩山までつながっていそうではないか。

三上さんの車に乗って「道」をまっすぐに進む。すぐに思いがけないほど急な坂になって、車がえいやっという具合にそこを登り切ると、先にはこんな“世界の果て”が出現した。



思いがけない行き止まりの柵は急な坂になって目の前を横切る小さな沢へと雪崩落ちている。“世界の果て”の向こうには、やはり人々の普通の暮らしが広がっていた。



車はここで右折し、いったん道を下る。訪れて初めて分かったのだが、三上さんの散歩道は石狩平野が山々にぶつかって傾斜を刻み始める坂の途上に広がる土地だった。土地は微妙な抑揚をつけて、ときには思いがけない急坂をつくっている。“北海道”というイメージがそうさせたのだと思うが、私はもっとだだっ広く平らな土地を想像しいていたので、この点には意外の感を抱いた。これから車で通るこの写真の場所も下り坂なのだが、写真ではうまく表現されない嫌いがある。“世界の果て”から札幌の南の市街地が眺められた。



ある意味で今回の旅の目的地でもあった三上さんの散歩道に別れを告げる。しかし“三上ワールド”はまだ続く。三上車は、広い道路をさらに山側にぐんぐんと登っていき、新興住宅街のぴかぴかした一群を抜けていく。と、その瀟洒な住宅街が終わる辺りから道が細くなり、辺りは“rural area”と呼ぶしかない風景に突然変化した。三上さんが連れて行ってくれたのは、そうした人の領域が尽きる都市の縁。もうそこには人家はない。「熊に注意」の立て札が現れる。ものの5分前に見た住宅街は夢だったのかと思うような豹変ぶりにただただ驚く。札幌はこういう地勢に生きる都市なのだ。





この後、これもいくつかのエントリーが印象的な盤渓峠の“日本一小さなワイナリー”に連れて行ってもらう。残念ながら、この日はオーナーの方にはお会いできなかったが、その印象的なたたずまいをしっかりに目に焼き付けることが出来た。





盤渓峠からとって返し、今度は札幌詣での最後の目的地である藻岩山の山頂へ。藻岩山は標高531mの高さがあり、つづら折りの有料道路をぐんぐんと上っていく感じ。最初に『三上のブログ』で知った際には想像がつかなかったが、大きな山だ。ここに観光用の展望施設を作ろうと思った御仁の想像力はまったく正しい。Wikipediaの記録によれば、ここにロープウェイが架けられたのは1958年だそうな。昼は観光客を呼び寄せ、夜にはこれにデートに精を出す地元の若者も加わるという山頂からの眺めは壮大の一言に尽きる。北は札幌の市街地、石狩川日本海まで、南は幾重にも重なって山並みが連なる。





ここは、観光スポットであると同時に北海道で最初に天然記念物指定を受けた原生林の所在地でもあり、その自然は厳格に保護されているらしい。開発と自然保護がうまくバランスされているように見受けられた。



お昼は、この藻岩山のお洒落な展望レストランで広大な北海道の大地を眼下に見下ろしながら。せっかく札幌に来たのだからと注文したスープカレーはとてもおいしかった。



こうして私の“三上ワールド”探訪は成就した。