電子出版の話の続きを少し

池田信夫さんがちょっと前に「自費出版の時代」というエントリーをブログにお書きになっています。


■自費出版の時代(2010年2月11日)


いつもながらの切れ味鋭く、単刀直入で分かりやすいものの言い方で、たいへん勉強になりました。

この中で池田さんは、Kindleに代表される電子端末が紙を代替する近未来が見えてきた現在、著者がその気になりさえすれば、すぐに「自費出版」というかたちで、出版社を中抜きにし、より多くの売上を著者に還元できる仕組みができる。そうした新しい「自費出版の時代」が新しい著者の誕生を促し、出版文化を豊かにする可能性を秘めていると述べています。

そのうえで池田さんは、次のように語っています。

問題は技術でもコストでもなく、出版業界の秩序に挑戦するベンチャーが出てくるかどうかだ。既存の出版社は紙の書籍との「共食い」を恐れて大胆な価格設定ができないが、独立系や他業種からの参入ならそういう障壁はない。

私も年末に「新しい出版の担い手を期待する」などという小生意気なエントリーを書き、その中で紙の動きに絡め取られた出版社には多くは期待できないという見解を表明しましたので、池田さんの見方には基本的に大賛成です。私のエントリーでは「新しい期待の担い手はIT業界」と、まあ、かなり短絡的な物の言い方で新規参入を楽しみにする気持ちを明らかにしましたが、でも実際には、もっとも期待できる事業者は小規模な出版社の中にあると思います。再販制度に守られた流通サイドの横暴に苛立っている出版社は少なくないのが現状です。大手や、小売りとの関係が深い老舗の出版社は別ですが、小規模の出版社は書店営業にかかる埋没コストが小さいので、会社によっては「共食い」はそれほど怖ろしくない。ほんとに電子出版市場が立ち上がるならば、えいやっとそちらに鞍替えできる会社がけっこうある。それが現実ではないかと私は想像しています。

彼らが電子出版の担い手になるのではないかと私が考えるのは、面倒な校正・校閲の手間を含めて、池田さんがおっしゃるように編集者なしで本を出せる著者には、やはり限りがあると考えるからです。そもそも編集的能力に長けた一群は別として、編集者の手をまったくわずらわせずにきちんとした本を作れる著者には、おそらく限りがあります。とはいえ、著者個人でフリーの有能な編集者をやとって本を出すというのもけっこう面倒くさいし、でも編集サービスを手がける人たちは必要であるということになれば、けっきょく、いま現在そうしたサービスを提供している編集者をかかえる会社が宗旨替えするのが市場全体にとって最も話が容易です。それに、再販制度が疲弊している現在、外から見えるほどには出版の世界は一枚岩ではありません。

「電子が売れるならば、喜んで乗り換える!」という気持ちの出版社は少なくないはず。問題は、ほんとにKindleが日本で使われるようになるのか、あるいはiPad電子書籍端末になるのかという一点だと思います。先駆けとなった誰かさんが成果を上げれば、市場は雪崩を打つかもしれません。そのとき、誰が電子出版の時代の編集者を産業的に組織するのか。できるのか、は注目です。