ピアノを担いだ大リーガー

野球好きにとって今年の観戦の目玉は、言わずと知れた田中マーくんのメジャーリーグ挑戦だが、ちょっとすごいことになってますね。今日もブルージェイズを3対1で破り、この時点で勝ち星がメジャートップの11勝1敗。防御率が1.99でアメリカンリーグのトップ。三振113はメジャー2位タイ。WHIP(一回当りの走者を出した数)が0.95と抜群の数字を残しているうえに、ピンチを迎えた際の勝負強さ、よほどのことがない限り満足を口にしない上昇志向の性格が、アメリカのメディアにも好感をもって迎えられている。

4月から5月にかけては「田中はいまやヤンキースのエースだ」というフレーズがあちらの記者さんたちのメッセージになっていたけれど、もうそんな話題が過去のものとなりつつある。いまや新人王を通り過ぎてサイヤング賞の最右翼に祭り上げられるありさまだ。まだシーズンの半分が終わってもいない時期だから、いくらなんでも今からサイヤング賞の話ですかという感じだが、作れる話題はとことん作る、擦れるマッチはいつでも擦るというマスコミの根性は洋の東西を問わないというわけ。取れなかったら取れなかったで、それが記事のネタになるのだから、旬のネタとして持ち上げるにしくはなしというわけだ。

春先からウェブで田中さんの記事を読み漁っているのだが、彼の周囲の発言がなかなか面白い。記事で読む限り、それらが仏頂面で生真面目な会見をする田中とは好対照だったりするところがともかくも。

先日、マリナーズを4対2で破った試合は、惜しくも9回に2点ホームランを許し、2度目の完封を逃したのだったが、この時に完璧なホームランを左中間に流し打ったマリナーズのロビンソン・カノーの一言はちょっと素敵だった。

田中の印象について、「彼はえげつない」と語ったという話はあちこちの記事になっていたが、シアトルの地元紙、シアトル・タイムズはどの新聞も記事にはしなかったカノーのこんな発言を文字にしていた。

He showed he was mortal in the ninth inning, when he was on the verge of capping off his shutout. Jones reached on an infield single that easily could have been called an error, and Cano answered by driving a pitch over the left-center wall for his third homer of the season and his first at Safeco Field.

“That was something that is now off my shoulder,” Cano said. “It’s like a piano off my shoulder.”


(9回には彼(田中)も不死身ではないところを見せた。まさに完封の間際というところだった。ジョーンズが内野安打で出塁。これはエラーとみなされてもいい当たりだった。そしてカノーが左中間のフェンスを越える彼自身シーズン3本目、セイフコ・フィールドで初めてのホームランを叩き込んだ。


「肩の荷を下ろした気分だった」とカノー。「ピアノが僕の肩から降りたみたいだった」)

http://seattletimes.com/html/mariners/2023824717_mariners12xml.html

肩の荷はピアノか。そりゃあ重い。
ドミニカ出身のスタープレイヤーは、どうして野球選手がこんなおしゃれな、と思わせるおしゃれ比喩を語ったのだった。どうしてピアノなんか口に上ったのだろう。
ピアノを担いだカノーを想像してみる。そりゃ、重い。