『冷たい校舎の時は止まる』

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫) 冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫) 辻村深月 (講談社 講談社文庫)
雪の降りしきるある朝。通常通りに登校した高校3年生の男女8人はしかし、鍵も開けられ電気もヒーターまでも点いた校内に自分たち以外に誰もいないことを知る。しかも1階の出入口、窓は鍵もかかっていないのに全く開かない。時間すら止まってしまった校内に閉じ込められた彼ら。果たしてこの状況から逃れることはできるのか?


氏のデビュー作にしてメフィスト賞受賞作。
文庫最新刊の『名前探しの放課後』を買ったはいいものの、氏の作品は登場人物等がリンクしていることが多いので、どうやら刊行順に読んだ方が良いらしく、長いこと積んでもいるので先にこちらを読むことに。


今時の高校生、てやつなのかなあ。みんな下の名前で呼び合ったり女の子とも仲が良くって、なんて言うか、いろんな面で羨ましい。うちは男女別学だったし…。まあそれは置いといて、どうもこういう高校生を主役にした作品を読むと、自分の学生時分はもっと子供だった、というかのほほんとしていたような気がしてならない。そんなに人のことを思い遣ったり、していただろうか。
とはいえ、外見はいい子な彼らもそれぞれ内面には暗い部分を抱えており、物語が進むにつれて一人一人の内面がこれでもかと痛い程に暴かれてゆく。その心の闇の部分部分が私の共感を誘う。多分私だけでなく、読者の誰もが登場人物の誰かの闇に共感を憶えるんだと思う。言ってみればそういう面でもある意味ステレオタイプな8人なのではないかと。中でも総合的に一番近いと感じたのは充だろうか。


8人が閉じ込められた状況というのが、実は2ヶ月前に校内で起きた飛び降り自殺と関連するらしい。しかし彼らは件の自殺した人物が誰なのかさっぱり思い出せない。彼/彼女が誰なのか、何故自殺したのか、を解いてゆくのが物語の流れ。その過程で上記のように主人公達の内面が語られてゆく。
それぞれの心情がきちんと描写されていて良かった。まあ人によっては短かったりするが「HERO」が特に素晴らしい。これは後々物語に関わってくるから力を入れるのも頷けるが。

冷たい校舎の中での緊張感からどのように物語を閉じるのか、いささか不安だったのだが、希望の持てるラストで良かった。しかしこの事件が彼らの心から消える訳でもなく、そういう意味では少なからず不安も残る。そんな彼らの未来は『ロードムービー』で語られているのだろうか。