我を愛する歌
(P.60)
邦人の顔たへがたく卑しげに
目にうつる日なり
家にこもらむ
この次の休日に一日寝てみむと
思ひすごしぬ
三年このかた
<ルビ>邦人=くにびと。休日=やすみ。一日=いちにち。三年=みとせ。
(P.61)
或る時のわれのこころを
焼きたての
麺麭に似たりと思ひけるかな
たんたらたらたんたらたらと
雨滴が
痛むあたまにひびくかなしさ
<ルビ>或る時=あるとき。麺麭=ぱん。雨滴=あまだれ。
《つぶやき》
自分を肯定し自分を好きだと思うこころは、ひとが生きていくときにとても重要になる。「或る時のわれのこころを…」を読むと、啄木がどれだけ自分を肯定しているかがわかる。焼きたてのパンに似ている「われのこころ」は、こんがりふわっと温かく、酵母の香りがしているのだろう。