煙 一
(P.92)
神有りと言ひ張る友を
説きふせし
かの路傍の栗の樹の下
西風に
内丸大路の桜の葉
かさこそ散るを踏みてあそびき
<ルビ>神=かみ。路傍=みちばた。下=もと。内丸大路=うちまるおほぢ。
(P.93)
そのかみの愛読の書よ
大方は
今は流行らずなりにけるかな
石ひとつ
坂をくだるがごとくにも
我けふの日に到り着きたる
<ルビ>大方=おほかた。流行らず=はやらず。到り=いたり。
《つぶやき》
『一握の砂』序文の藪野椋十さんの「さうぢや、そんなことがある、斯ういふ様な想ひは、俺にもある。二三十年もかけはなれた此の著者と此の讀者との間にすら共通の感ぢやから、定めし總ての人にもあるのぢやらう。」を、ついつい何度も読み返す。
〈路傍の栗の樹の下〉、〈かさこそ散るを〉、〈今は流行らず〉、〈けふの日に到り着き〉などの言葉に「さうぢや、さうぢや」と深く頷く。