〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

“枯葉の影が テーブルに落ちている” 現代詩の新鋭 紹介




詩集『僕が妊婦だったなら』山下洪文


  薔薇色の瞳


  枯葉の影が テーブルに落ちている
  まだ飲み終わらない 君の
  コップにも
  幽やかな秋が降っていた
  蒼空はあまりにも優しくて
  僕たちの微笑は 氷りついている
  もうすぐ雪が降るだろう
  もうすぐ空が降るだろう
  雫の落とされた 絵画のように
  景色は滲む
  君の瞳は 薄明を帯びて
  問いつづけた
  疑問符のかたちが 首にひっかかり
  うつむいた僕の 目にうつったのは
  いっさんに燃えあがる
  秋
  夜
  そして君
  淵のようにほそめられた瞳
  薔薇色の深みへと 滑り落ちた
  世界は もう見えなかった

現代詩の新鋭 31 
『僕が妊婦だったなら』 山下洪文 著

  • 土曜美術社出版
  • 2013年10月発売  1,890円(税込)


目次
十四歳 僕が妊婦だったなら 薔薇色の瞳 アマリリス 廃校 向日葵の葬列 静かな断片 ラムネ 折り紙の空 蒼空の鎖 Monochrome 嘔吐の秋 零 剥製 青い花 弓 焼け跡 キャラメル 秋水 レモンミント 黒い花びら 狼だったなら 不帰郷 線香花火