〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

待望の新幹線 ビジネスより観光〈船に酔ひてやさしくなれる…〉啄木

[青森の海を臨む 石川啄木歌碑]


天声人語  -朝日新聞-

  • 明治40年5月、21歳の石川啄木は妹を伴って津軽海峡を渡った。故郷での騒動で白眼視され、「石をもて追はるるごとく」ふるさとをのがれて、北海道に新天地を求めた。青森市内の公園に歌碑が立つ。〈船に酔ひてやさしくなれる/いもうとの眼(め)見ゆ/津軽の海を思へば〉。
  • いまは「こどもの日」の5日に函館の地を踏んだ。その函館へ、待望の新幹線が延びる。〈ふるさとの訛(なまり)なつかし/停車場の人ごみの中に/そを聴きにゆく〉。啄木の歌碑のある上野駅をへて東京から約860キロは、きょうから4時間2分にまで縮まる。
  • ビジネスより観光需要に期待する声もある。15年後には札幌まで至る計画という。そこには啄木の〈石狩の都の外の/君が家/林檎(りんご)の花の散りてやあらむ〉という叙情ゆたかな歌碑が立つ。北への憧れをかき立てて、旅情で売る新幹線。それもいい。


(2016-03-26 朝日新聞

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