「編集手帳」[読売新聞]
- 啄木歌集に地名の出てくる歌はそれほど多くないが、どの一首にも胸に響く調べがある。例えば、〈やはらかに柳あをめる/北上の岸辺目に見ゆ/泣けとごとくに〉。いやいや、あの地名を忘れてもらっては困ると、啄木ファンは言うだろう。「不来方」である。
- きのうは甲子園で、伝統の名を胸に掲げる不来方高校の球児たちが静岡高校と対戦した。走者のいる場面を想定した守備練習もままならぬ選手10人のチームである。敗れはしたが、見事に先取点を挙げた。胸を張っていいだろう。
- 〈不来方のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心〉。君たちのさわやかな息吹を、甲子園の空は胸いっぱいに吸ったはずである。
(2017-03-25 読売新聞)