〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

 共感と驚異「いたく錆びしピストル出でぬ 砂山の…」啄木


[タイマツバナ]



〇『明解国語総合』  三省堂 2010年

  読書の森へ

「麦わら帽子のへこみ」  穂村弘

  • 短歌が人を感動させるために必要な要素のうちで、大きなものが二つあると思う。それは共感と驚異である。共感とはシンパシーの感覚。「そういうことってある」「その気持ちわかる」と読者に思わせる力である。


  頬につたふ
  なみだのごはず
  一握の砂を示しし人を忘れず   石川啄木


  思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ   俵万智

  • 石川啄木俵万智の歌が多くの読者を持ったのは、このような共感性に優れているためである。読者は自分自身の体験や気持ちをその作品の上に重ね合わせてカタルシスを得ることができる。
  • 共感=シンパシーの感覚に対して、驚異=ワンダーの感覚とは、「今までみたこともない」「なんてふしぎなんだ」という驚きを読者に与えるものである。石川啄木俵万智の歌には、共感の要素のほかに、実はこの驚異の感覚が含まれている。


  砂浜に二人で埋めた飛行機の折れた翼を忘れないでね   俵万智


  いたく錆びしピストル出でぬ
  砂山の
  砂を指もて掘りてありしに   石川啄木