啄木の息 <ブログ版>

─ いまもなお瑞々しく語りかけてくる啄木の魅力を追い その息づかいに触れてみたい ─

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2017-10-01

[] 「矢車草 <4>」-啄木の歌に登場する花や木についての資料-

「矢車草 <4>」

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-石川啄木の歌に登場する花や木についての資料-


矢車草

     函館の青柳町こそかなしけれ

     友の恋歌

     矢ぐるまの花



二度と戻らぬ函館の日々を振り返る啄木は、「函館の青柳町こそかなしけれ」と感傷的な眼差しを向ける。しかしこの歌においては感傷性が表現を損なってはいない。今井泰子が指摘するように、「アオヤギ」の柔和な語感が「矢ぐるまの花」のイメージと調和し(『石川啄木論』)、ア音を基調にした流れるような調べが感傷性を生きた感情として甦らせるからである。矢車菊はヨーロッパ原産であり、慎ましくもハイカラなイメージがある。

「おれは死ぬ時は函館へ行って死ぬ」(郁雨宛書簡)という啄木の懐旧と我々が抱くエキゾチックな北の港町函館というイメージが、この歌において渾然と融け合い、感興をかき立てられるのである。

(「國文学 よみがえる石川啄木」 1998年11月号 小池光 學燈社)


最初に暮らした函館を詠んだものでは、(この歌が)なんともいえぬ叙情性をたたえて哀しい。浜薔薇の歌と比べると、鮮明さにおいては対称的な曖昧さがある歌ではあるが、それが又、なんとも言葉に表現しきれない函館時代の郷愁への思いを象徴しているのであろう。この歌は言葉で説明しきれない歌である。口に乗せ、吟じてそこにかもし出される香を味わえばよいのである。

(「解釈と鑑賞 特集=啄木の魅力」 2004年2月号 渡部芳紀 至文堂 )


友の恋歌と矢ぐるまの花を配すことによって、青柳町のかなしい印象を強化しているわけである。恋歌には、甘い恋歌もあろうが、概してかなしい調べを打ち出したものが多い。しかし、作者の友人が詠った恋歌はかなしい内容を秘めていたのであろう。さらに、陽光に色彩を変え、めまぐるしくめぐるように咲いている矢ぐるま草の花もまた、捕えどころのない漂泊の詩人啄木の心情を表し、かつ外地人の薄情さを象徴しているように思われる。もっとわかりやすく叙述すれば、「友の恋歌と矢ぐるまの花のごとく」とでも表現すべきところを、省略したものとみることができよう。

(「啄木研究」創刊号 1976年1号 金子昌煕 洋々社)


このロマンチックな歌は、函館と啄木を語る上で欠くことのできぬ代表歌であり、青柳町45番地、苜蓿社が啄木来函後の仮宿となったところである。啄木の住んだ所からほど近くに、市民の憩いの場として豊かな緑に包まれた函館公園がある。公園内には啄木文献資料の宝庫市立函館図書館と、全国に点在する数多い啄木歌碑の中でも、すばらしいできばえであると本山桂川氏がその著『写真文学碑』の中で絶賛した「函館の青柳町こそかなしけれ──」の歌碑が建てられている。

裏面には郁雨によって、「石川啄木が首蓿社に迎えられて青柳町に住んだのは、明治40年5月〜9月に至る短い期間であったが、この間の彼の生活は多数の盟友の温情に浸り、且久しく離散して居た家族を取り纏める事を得て、明るく楽しいものであった。今回当時を思慕する彼の歌碑が由縁深き此の地に建立さるるに際し、今更ながら在りし日の故友の俤が偲ばれる。   昭和28年4月13日 郁雨宮崎大四郎」と書かれている。函館での啄木の生活は、宮崎郁雨のこの一文によって端的にそして的確に言い尽くされているように思われる。

(「啄木研究」 1976年2号 桜井健治 洋々社)



(「矢車草」つづく)


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